人魔最終大戦から幾千年、社内にいにしえのエロトラップがある件。

志野まつこ

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4、罵り合い※

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「ひっ、やめっ、ばっ……ひぅっ」
 耳を塞ぎたくなるような水音とともに優士屋の情けない声が室内に響く。
 うつ伏せに転がされ顔だけを抱えた枕に沈め腰を上げた間抜けな姿で優士屋は菊門どころか直腸内を直接分厚い舌で舐められている。
「ぃあっ、ああっ」
 じゅこじゅこと音を立て内側を容赦なく舐め尽くされる感覚に優士屋は時折叫びにも近い声を上げた。

 内壁を肉の芯が撫で、這いまわる。
 それが指なのか、舌なのかも最早優士屋には分からなかった。オークの大きな舌を硬く尖らせ、それはまるで男性器のようでもあり脳が混乱する。
 舌を挿入された直後覚えた違和感は、嫌悪を感じること無くすぐに心地よさに置き換わった。
 なんで。こんなの気持ち悪いだけのはずなのに。そう優士屋は混乱するも波のように次々押し寄せる快楽に抗う事ができない。
 
 オークという種族は大変なテクニシャンである。体格差のある人間の女を確実に孕ませ、出産させるためスムーズかつ安全に性交する技を洗練させるという進化を遂げた、いわば性技のエキスパートである。
 粘膜をねぶり、媚薬と筋弛緩作用のある唾液をまぶすようにほぐし拡げて排泄器官でしかないものを性器へと変貌させる。
 生殖を目的としない行為ではあるが人と魔族が共存するための長きにわたる変革の前では些末な問題で、現在オークの特技はパートナーを悦ばせるためだけのものとなっている。
 よって、優士屋が感じるのは抗いがたいほどの快楽と性衝動だ。
 人魔が共存する多様性に富んだフラットな現在、同性愛も実に一般的でマイノリティという言葉さえも聞かれなくなった。

「さすがは勇者の血だけあるな。孔まで優秀じゃねぇか。本当に初めてか?」
 抵抗を軽々いなして全裸に剥いて目にした優士屋の陰茎もまた実に見事なもので、芸術性さえ感じさせる逸品だった。これが勇者の陰茎かとオークである大久も驚いたほどだ。
「うるせっ、ンっ、ふッ、ン~~~~ッ!」
 後孔をほじりながら人間には不釣り合いなほどの猛々しい陰茎を扱けば拡げられた肉筒がぎゅうぎゅうと締まり、波がひいて緊張が解けるとまた強請るように腰を揺らす。

 アナルセックスは初めてらしいが、えろすぎるだろ。
 大久は瞠目する。筋肉質な尻だというのに揺れるそれがひどく煽情的だ。
 優士屋の均整の取れた筋肉質な体は美術品のように美しかった。顔も体も陰茎も、どれをとっても見ても極上で、口を開かなければモテるのだ。中身が最悪なだけで。今は仕事が一番楽しいらしく客先でしか猫を被らないため鼻つまみ者だが本人がその気になればいくらでも女遊びも出来るタイプだ。
 美しい裸体はうっすらと血色に色づき、全身しっとりと汗ばんで過ぎた快楽に翻弄されている。太い指と肉厚の舌で優士屋の肉筒内を余すところなく撫で上げ、見つけたポイントを重点的に責めればベッドについていた膝を伸ばし足をぴんと一直線にして腰を高く上げて太ももをぶるぶると大きく震わせ絶頂するような反応を何度も見せた。

「くそっ、も、やめっ、も、い」
 それが落ち着くや優士屋はふるふると頭を振って悪態をつき限界を訴えて来るが、これで終わるとつらいのは優士屋の方だ。オークの本来の目的は性交渉ではなく種付けである。その達成のため精液を体内に取り込まない限り身を焼くような衝動と、狂うような欲求が治まることはない。
「言っとくが、中出ししねぇと終わらないからな。お前が始めた事だ。諦めろ。人のいじりまわして体液に触ったりするからだ、このクソバカが」
 大久の陰茎も挿入への欲に限界に近付いている。しかし好意も同意もない相手だ。大久の倫理観が突っ込みたい本能に抵抗し、無意識に自分を正当化しようと必死だった。
 そして優士屋もプライドと恐怖に拒否したいのが本音だ。しかし体が疼き、求めている。渇望だ。入れないと終わらないことも同じ男として理解している。嫌で嫌でしょうがないけれど。だがせめて、優位には立ちたい。
 よって。

「グダグダ言ってねぇで『入れさせてください』ってお願いしてみろよ」
 息も絶え絶えで崩れ落ちた状態でありながらついいつもの憎まれ口が優士屋の口をついて出た。

「あぁ? お前こそ泣いて謝っても許さねぇからな。自分で蒔いた種だ。後悔しやがれ」
 大久はそう言って優士屋の仰向けに転がし、腰の下に硬い枕を入れて高さを作りながら股座に腰を進め入れた。人体の構造上、後背位の方がやりやすいのだろうが大久も同性への挿入は初めての事だ。優士屋の表情を確認しながら進めないと無理を強いるのではないかと不安だった。
 そして優士屋は。
 やっとだ。
 やっとだと、思った。それが「これで終わる」なのか「入れてもらえる」だったのかは直後、身を貫かれる衝撃に思考はかき消された。
「━━っ」
「いきなり奥まで突っ込んだのに喜びやがって。さすがだな、勇者様は」
 声もなく絶頂し、薄くなった精液をまき散らした優士屋の締め付けに大久はそう言って気を紛らわせる事で射精感を堪えた。

 いきなり突っ込んだと大久自身は言うものの、優士屋が怖がらないようしっかりと抱きしめ、剛直で慎重にゆっくりと丁寧に拡げ奥まで挿入してのことだ。唾液に媚薬と筋肉弛緩、麻酔の効能があるとはいえ己の大きさを把握するオークは現代ではみな紳士だった。
 力強い抱擁のなか耳元で低い声で言われた優士屋はぶるりと震える。それは軽い絶頂にも思えた。
「勝手に連続とはすごいな」
「うっせえ、イってねぇよ、このヘタクソが」
「ケツ押し付けてきてんのは誰だよ」
「テメェが下手だからやってやってんだよ。このディルド野郎」
「処女の癖に随分とスキモノな淫乱ビッチじゃねぇか」
 憎まれ口を叩かないと優士屋はもたなかった。大久の勃起した怒張はとても入れていいモノではなかった。オークの体液の効果は凄まじかった。恐怖と不安しかなかったのに欲しくてたまらなくて、後孔はあっさりとそれを飲み込んだ。己の体内の腸壁は媚肉となり大久の肉竿に歓喜しむしゃぶりついたのが分かってしまったし、さらなる刺激と快楽を求めて腰を押し付けてしまう。

「あー、くそ。すごいなお前のなか。肉がびったり絡んでくる」
 大久が目を閉じ奥歯をかみしめて必死でこらえるように言うのがまた堪らなくて、キュンキュンと胸が疼くようだ。入れたまま大久が動かないのが切ない。もっとすごい快楽がある事をなぜか知っているし期待している。
「さっさと終わらせるか」
 優士屋に『さっさとイけ』と言われて乱暴に陰茎を擦られた大久は皮肉のつもりで応酬したのだが。

「ハッ、早漏が」
 優士屋は大久の言葉に反射的に悪態をついた。

 言ってしまってから大久の「何言ってんだコイツ」顔に優士屋は失言を悟り己の悪癖を呪った。別に早く終わらせる宣言にショックを受けての発言ではない。断じて違うと己に言い訳までした。
「安心しろよ。お望みなら何回でもやってやるよ」
 大久の言葉に腹のなかがキュと締まったなんて気のせいに決まっている。

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