辺境のご長寿魔法使いと世話焼きの弟子

志野まつこ

文字の大きさ
上 下
6 / 6

6、後日談 弟子は身命を賭して極めんとす

しおりを挟む
弟子視点となります。

********************************************

「あのぬるぬるって量産可能か?」
 また師匠が金儲けを考えているらしい。

 師匠と私は薬などを世界に卸すことを主な生業としている。
 各国に多様な名義で卸しているから誰にも気付かれていないが、世界シェア5割をうちが占める。従業員二人の零細企業みたいなものなのに。

 師匠は俗世と関係を絶った風を装いながら世界情勢には敏感で各国の新聞を購読しているし、不穏な空気が見えた時にはそっと裏から手を回して世界平和を保とうと尽力する。
 金儲けは有事の際に備えての事だ。普段からちょこちょこ寄付はしているが、戦争や災害ともなれば復興に多額の金が必要になる。人を寄せ付けないのに寄付は欠かさない師匠は本当に天邪鬼で愛おしい人だ。
 小柄で純朴な容姿に似合わず誰よりも厳しい。普通の子供だったら即死するような恐ろしい修行を平然と笑顔で課す。
 そして人を捨てきる事の出来ない、誰よりも優しい人。そんな師匠が愛おしくてたまらない。

 師匠に師事を請うたのは始めは純粋に絵本の魔法使いへの憧れだった。
「それ食ったらさっさとうせろ」
 初めて山に登った日、師匠は何も聞かず「アレルギーは……大丈夫そうだな」と私を一瞥して呟くとキッチンをごそごそ探し回ってクッキーを出し、ミルクを温めて出してくれた。
 師匠ほどの魔法使いとなると見ただけでアレルギーが分かるのかと驚いた。
 その後「これじゃガキの腹は太らんか」とパンまで温めてくれた。

 帰り際には「トイレないんだろうな?」と確認され、一応行っておきたいと言えばキッチンへのドアに案内され開くとそこは廊下でその先のトイレに案内された。
 さっきはキッチンだったハズなのに。
 微かに魔力の歪みは感じられたが『しかけ』が分からず興味津々でドアを開閉するとキッチン・廊下・トイレと開けるたびに変わるの。何度も開閉させて仕組みを確かめようとしていると「遊んでないでさっさとトイレ行って来い」と呆れられた。

 帰りは小脇に抱えられ麓までひとっ飛びだった。
 自分は身体強化で蛙のように何度も飛びながら半日かけて地道に登って来たのに帰りはあっという間で、こうやって魔力を使えば良かったのかと学び、これならすぐに出来そうだと思った。
「お前ここから自力で帰れるのか? 親は何してんだ」
 麓の街で子供の心配をしてその親を諫めるような発言をする若い姿の魔法使い。
 出会って見惚れ、その日のうちに完全に落ちた。

「じゃあな。二度と来んなよ」
 絵本で読んだ偉大なる魔法使いはすべてを諦めたような顔で微かに笑った。
 その姿にもう絶対に一人にしてはならないと思った。そして連日通い詰めた。

 人が好きで寂しがり屋なこの人は、私が死んだ時きっと傷付いてぼろぼろになるだろう。そしてまた長い時間を一人で生きなければならない。
 師匠の元での修行は、師匠と共に生きる方法を見付ける事が唯一にして最大の目的となった。
 成長するにつれ技を磨き着実に力をつけた。同時に性欲も猛烈に高まった。
 日々同じ部屋で眠る師匠をありとあらゆるシチュエーションと体位で抱く妄想に明け暮れる中、唐突に気付いた。

 師匠と共に生きる方法。
 体液を媒介とし魔力を迎合させ昇華させる神聖な儀式。

 それは自分にとって一石二鳥とも漁夫の利とも棚からぼた餅とも言える方法で、そうなると師匠に一切の苦痛を生じさせてなるものかと性技を極めんと新たな研究を開始した。
 師匠と同じ部屋で寝起きする生活は理性を保つ苦行だった。

 昨夜、ぬるぬるの検証と称して師匠の号泣するような制止を無視して潮を吹かせたからか朝食後「さてと」と言って魔力で練った高密度の美しい魔剣で切りかかって来た。
 今朝は魔法で食器を片付ける事にしよう。

「吹っ飛びやがれぇぇ!」
 二人して外に飛び出し、直後照れ隠しに島一つ消失させる攻撃を仕掛けて来る師匠が可愛らしく愛おしくてたまらない。遠慮も手加減も一切見受けられないその攻撃に己が認められているのだと実感する。
 ベッドであんなにも愛らしい痴態を見せてくれたのに、朝からこうしてまた子供のような無邪気な姿を見せてくれるとは。本当に師匠にはかなわない。
 終わったら師匠の好物のアップルパイを焼こう。

 幼い頃からこれまでの修行の中で何が一番つらかったかと問われれば間違いなく「禁欲と理性の維持」と即答する。
 けれどそれは師匠との将来のために必要な日々だったのだ。
 血のにじむような禁欲の甲斐あって、今は朝に夕にと体を動かす健康的で平和な、実に充実した幸せな毎日を送っている。

************************************************

これにて完結となります。
お付き合いいただきありがとうございました。

弟子こんな子じゃなかったはずなのに……
いつものただの溺愛攻めになってしまいました。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

セザンヌ108
2022.03.12 セザンヌ108

まごうことなき年下攻めですね。
一途って素敵です!

志野まつこ
2022.03.12 志野まつこ

ありがとうございます!
こちらはムーンライトノベルズさんでまー様が開催してくださった「下克上BL企画」に参加する為に大急ぎで書いた物になります。
確かにこれだけの年の差はもう書くことないかもしれないです……w

解除

あなたにおすすめの小説

恋の終わらせ方がわからない失恋続きの弟子としょうがないやつだなと見守る師匠

万年青二三歳
BL
どうやったら恋が終わるのかわからない。 「自分で決めるんだよ。こればっかりは正解がない。魔術と一緒かもな」 泣きべそをかく僕に、事も無げに師匠はそういうが、ちっとも参考にならない。 もう少し優しくしてくれてもいいと思うんだけど? 耳が出たら破門だというのに、魔術師にとって大切な髪を切ったらしい弟子の不器用さに呆れる。 首が傾ぐほど強く手櫛を入れれば、痛いと涙目になって睨みつけた。 俺相手にはこんなに強気になれるくせに。 俺のことなどどうでも良いからだろうよ。 魔術師の弟子と師匠。近すぎてお互いの存在が当たり前になった二人が特別な気持ちを伝えるまでの物語。 表紙はpome bro. sukii@kmt_srさんに描いていただきました! 弟子が乳幼児期の「師匠の育児奮闘記」を不定期で更新しますので、引き続き二人をお楽しみになりたい方はどうぞ。

王道学園の副会長は異世界転移して愛を注がれ愛を失う

三谷玲
BL
王道学園の副会長である僕は生徒会長に恋をしていた。転校生が現れ、彼に嫉妬の炎を燃やした瞬間、僕らは光りに包まれ、異世界へと転移させられた。その光の中で僕は恋を失い、その先で心を壊し、愛を注がれ、その愛を失った。 診断メーカーの「あたなに書いて欲しい物語」のお題、三谷玲さんには「笑ってください」で始まり、「どうか許さないでください」で終わる物語を書いて欲しいです。#書き出しと終わり #shindanmaker https://shindanmaker.com/801664より。 副会長受け。王道学園設定ですが、勇者や魔王が出てきますが雰囲気ものです。 前後編+一話の短編です

初恋

春夏
BL
【完結しました】 貴大に一目惚れした将真。二人の出会いとその夜の出来事のお話です。Rには※つけます。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

そういった理由で彼は問題児になりました

まめ
BL
非王道生徒会をリコールされた元生徒会長が、それでも楽しく学校生活を過ごす話。

もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?

藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。 なんで?どうして? そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。 片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。 勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。 お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。 少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。 (R4.11.3 全体に手を入れました) 【ちょこっとネタバレ】 番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。 BL大賞期間内に番外編も完結予定です。

騎士団長の秘密

さねうずる
BL
「俺は、ポラール殿を好いている」 「「「 なんて!?!?!?」」 無口無表情の騎士団長が好きなのは別騎士団のシロクマ獣人副団長 チャラシロクマ×イケメン騎士団長

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。