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6、後日談 弟子は身命を賭して極めんとす
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弟子視点となります。
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「あのぬるぬるって量産可能か?」
また師匠が金儲けを考えているらしい。
師匠と私は薬などを世界に卸すことを主な生業としている。
各国に多様な名義で卸しているから誰にも気付かれていないが、世界シェア5割をうちが占める。従業員二人の零細企業みたいなものなのに。
師匠は俗世と関係を絶った風を装いながら世界情勢には敏感で各国の新聞を購読しているし、不穏な空気が見えた時にはそっと裏から手を回して世界平和を保とうと尽力する。
金儲けは有事の際に備えての事だ。普段からちょこちょこ寄付はしているが、戦争や災害ともなれば復興に多額の金が必要になる。人を寄せ付けないのに寄付は欠かさない師匠は本当に天邪鬼で愛おしい人だ。
小柄で純朴な容姿に似合わず誰よりも厳しい。普通の子供だったら即死するような恐ろしい修行を平然と笑顔で課す。
そして人を捨てきる事の出来ない、誰よりも優しい人。そんな師匠が愛おしくてたまらない。
師匠に師事を請うたのは始めは純粋に絵本の魔法使いへの憧れだった。
「それ食ったらさっさとうせろ」
初めて山に登った日、師匠は何も聞かず「アレルギーは……大丈夫そうだな」と私を一瞥して呟くとキッチンをごそごそ探し回ってクッキーを出し、ミルクを温めて出してくれた。
師匠ほどの魔法使いとなると見ただけでアレルギーが分かるのかと驚いた。
その後「これじゃガキの腹は太らんか」とパンまで温めてくれた。
帰り際には「トイレないんだろうな?」と確認され、一応行っておきたいと言えばキッチンへのドアに案内され開くとそこは廊下でその先のトイレに案内された。
さっきはキッチンだったハズなのに。
微かに魔力の歪みは感じられたが『しかけ』が分からず興味津々でドアを開閉するとキッチン・廊下・トイレと開けるたびに変わるの。何度も開閉させて仕組みを確かめようとしていると「遊んでないでさっさとトイレ行って来い」と呆れられた。
帰りは小脇に抱えられ麓までひとっ飛びだった。
自分は身体強化で蛙のように何度も飛びながら半日かけて地道に登って来たのに帰りはあっという間で、こうやって魔力を使えば良かったのかと学び、これならすぐに出来そうだと思った。
「お前ここから自力で帰れるのか? 親は何してんだ」
麓の街で子供の心配をしてその親を諫めるような発言をする若い姿の魔法使い。
出会って見惚れ、その日のうちに完全に落ちた。
「じゃあな。二度と来んなよ」
絵本で読んだ偉大なる魔法使いはすべてを諦めたような顔で微かに笑った。
その姿にもう絶対に一人にしてはならないと思った。そして連日通い詰めた。
人が好きで寂しがり屋なこの人は、私が死んだ時きっと傷付いてぼろぼろになるだろう。そしてまた長い時間を一人で生きなければならない。
師匠の元での修行は、師匠と共に生きる方法を見付ける事が唯一にして最大の目的となった。
成長するにつれ技を磨き着実に力をつけた。同時に性欲も猛烈に高まった。
日々同じ部屋で眠る師匠をありとあらゆるシチュエーションと体位で抱く妄想に明け暮れる中、唐突に気付いた。
師匠と共に生きる方法。
体液を媒介とし魔力を迎合させ昇華させる神聖な儀式。
それは自分にとって一石二鳥とも漁夫の利とも棚からぼた餅とも言える方法で、そうなると師匠に一切の苦痛を生じさせてなるものかと性技を極めんと新たな研究を開始した。
師匠と同じ部屋で寝起きする生活は理性を保つ苦行だった。
昨夜、ぬるぬるの検証と称して師匠の号泣するような制止を無視して潮を吹かせたからか朝食後「さてと」と言って魔力で練った高密度の美しい魔剣で切りかかって来た。
今朝は魔法で食器を片付ける事にしよう。
「吹っ飛びやがれぇぇ!」
二人して外に飛び出し、直後照れ隠しに島一つ消失させる攻撃を仕掛けて来る師匠が可愛らしく愛おしくてたまらない。遠慮も手加減も一切見受けられないその攻撃に己が認められているのだと実感する。
ベッドであんなにも愛らしい痴態を見せてくれたのに、朝からこうしてまた子供のような無邪気な姿を見せてくれるとは。本当に師匠にはかなわない。
終わったら師匠の好物のアップルパイを焼こう。
幼い頃からこれまでの修行の中で何が一番つらかったかと問われれば間違いなく「禁欲と理性の維持」と即答する。
けれどそれは師匠との将来のために必要な日々だったのだ。
血のにじむような禁欲の甲斐あって、今は朝に夕にと体を動かす健康的で平和な、実に充実した幸せな毎日を送っている。
************************************************
これにて完結となります。
お付き合いいただきありがとうございました。
弟子こんな子じゃなかったはずなのに……
いつものただの溺愛攻めになってしまいました。
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「あのぬるぬるって量産可能か?」
また師匠が金儲けを考えているらしい。
師匠と私は薬などを世界に卸すことを主な生業としている。
各国に多様な名義で卸しているから誰にも気付かれていないが、世界シェア5割をうちが占める。従業員二人の零細企業みたいなものなのに。
師匠は俗世と関係を絶った風を装いながら世界情勢には敏感で各国の新聞を購読しているし、不穏な空気が見えた時にはそっと裏から手を回して世界平和を保とうと尽力する。
金儲けは有事の際に備えての事だ。普段からちょこちょこ寄付はしているが、戦争や災害ともなれば復興に多額の金が必要になる。人を寄せ付けないのに寄付は欠かさない師匠は本当に天邪鬼で愛おしい人だ。
小柄で純朴な容姿に似合わず誰よりも厳しい。普通の子供だったら即死するような恐ろしい修行を平然と笑顔で課す。
そして人を捨てきる事の出来ない、誰よりも優しい人。そんな師匠が愛おしくてたまらない。
師匠に師事を請うたのは始めは純粋に絵本の魔法使いへの憧れだった。
「それ食ったらさっさとうせろ」
初めて山に登った日、師匠は何も聞かず「アレルギーは……大丈夫そうだな」と私を一瞥して呟くとキッチンをごそごそ探し回ってクッキーを出し、ミルクを温めて出してくれた。
師匠ほどの魔法使いとなると見ただけでアレルギーが分かるのかと驚いた。
その後「これじゃガキの腹は太らんか」とパンまで温めてくれた。
帰り際には「トイレないんだろうな?」と確認され、一応行っておきたいと言えばキッチンへのドアに案内され開くとそこは廊下でその先のトイレに案内された。
さっきはキッチンだったハズなのに。
微かに魔力の歪みは感じられたが『しかけ』が分からず興味津々でドアを開閉するとキッチン・廊下・トイレと開けるたびに変わるの。何度も開閉させて仕組みを確かめようとしていると「遊んでないでさっさとトイレ行って来い」と呆れられた。
帰りは小脇に抱えられ麓までひとっ飛びだった。
自分は身体強化で蛙のように何度も飛びながら半日かけて地道に登って来たのに帰りはあっという間で、こうやって魔力を使えば良かったのかと学び、これならすぐに出来そうだと思った。
「お前ここから自力で帰れるのか? 親は何してんだ」
麓の街で子供の心配をしてその親を諫めるような発言をする若い姿の魔法使い。
出会って見惚れ、その日のうちに完全に落ちた。
「じゃあな。二度と来んなよ」
絵本で読んだ偉大なる魔法使いはすべてを諦めたような顔で微かに笑った。
その姿にもう絶対に一人にしてはならないと思った。そして連日通い詰めた。
人が好きで寂しがり屋なこの人は、私が死んだ時きっと傷付いてぼろぼろになるだろう。そしてまた長い時間を一人で生きなければならない。
師匠の元での修行は、師匠と共に生きる方法を見付ける事が唯一にして最大の目的となった。
成長するにつれ技を磨き着実に力をつけた。同時に性欲も猛烈に高まった。
日々同じ部屋で眠る師匠をありとあらゆるシチュエーションと体位で抱く妄想に明け暮れる中、唐突に気付いた。
師匠と共に生きる方法。
体液を媒介とし魔力を迎合させ昇華させる神聖な儀式。
それは自分にとって一石二鳥とも漁夫の利とも棚からぼた餅とも言える方法で、そうなると師匠に一切の苦痛を生じさせてなるものかと性技を極めんと新たな研究を開始した。
師匠と同じ部屋で寝起きする生活は理性を保つ苦行だった。
昨夜、ぬるぬるの検証と称して師匠の号泣するような制止を無視して潮を吹かせたからか朝食後「さてと」と言って魔力で練った高密度の美しい魔剣で切りかかって来た。
今朝は魔法で食器を片付ける事にしよう。
「吹っ飛びやがれぇぇ!」
二人して外に飛び出し、直後照れ隠しに島一つ消失させる攻撃を仕掛けて来る師匠が可愛らしく愛おしくてたまらない。遠慮も手加減も一切見受けられないその攻撃に己が認められているのだと実感する。
ベッドであんなにも愛らしい痴態を見せてくれたのに、朝からこうしてまた子供のような無邪気な姿を見せてくれるとは。本当に師匠にはかなわない。
終わったら師匠の好物のアップルパイを焼こう。
幼い頃からこれまでの修行の中で何が一番つらかったかと問われれば間違いなく「禁欲と理性の維持」と即答する。
けれどそれは師匠との将来のために必要な日々だったのだ。
血のにじむような禁欲の甲斐あって、今は朝に夕にと体を動かす健康的で平和な、実に充実した幸せな毎日を送っている。
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これにて完結となります。
お付き合いいただきありがとうございました。
弟子こんな子じゃなかったはずなのに……
いつものただの溺愛攻めになってしまいました。
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