辺境のご長寿魔法使いと世話焼きの弟子

志野まつこ

文字の大きさ
上 下
2 / 6

2、お山の魔法使いに弟子入り<下>

しおりを挟む
 明日で最後になるとはいえ何も変わらない。
 いつも通り魔術とか山の様子とかについてぽつぽつ話ながら食事を済ませた。
 魔術に関して教える事なんてもうほとんどない。何年も前からコイツは一人でやって行くだけのすべを網羅し習得している。
 ここ数年は惰性で同居していたに過ぎない。
 普通の人間は100年も生きないのにその数年を無駄に浪費させて悪い事をした。
 食後に出されたお茶は今度はしょっぱく感じた。
 なんなんだ今夜は。
 試しにおかわりした。別にもう少し座っていようとか思ったわけじゃない。

 少し熱っぽい気がして早めに寝室に入った。アイツは食器やらなんやら片付けをしてから寝る。
 いつもの習慣だ。気まずいとかじゃない。いつも俺の方が先に寝てる。
 皿洗いなんて魔法で簡単に済ませられるが皿洗いなんかの家事をしていると考え事がはかどるらしい。また前代未聞の新規アイデアを思い付いたりするんだろう。

 だからいつも通り先に俺が床についた。
 それなのに妙に寝苦しくて寝付けない。
 食器を片付ける音を聞きながら眠りにつくのも最後か。
 今日はいつになく激しい音がしている気がするが、たぶん気のせいだろう。

 やがて寝室のドアが開いた。弟子とは同じ部屋で寝起きしているからだ
 アイツはガキの頃にここに来た。小さな子供には山岳地帯の強い風の音が恐ろしくて一人部屋で眠るなんてとてもではないが不可能でベッドにもぐりこまれた。今でこそベッドは別だが寝室は同じだ。

 家の中で自分以外の人の気配がある生活も今夜で終わりだ。
 また静かな生活に戻る事が出来る。
 長かったような気もするし、あっという間だった気もする。
 いずれふと振り返る事があれば、間違いなく一瞬だったと思うんだろうが。

「師匠」
 コイツの声を聞くのももう少しか。このバリトンヴォイス野郎。声がいいんだよコンチクショウ。
 なんでそんないい声で耳元で囁くんだよ、馬鹿か。腹立つな。

「おい、なんでこっち入って来るんだ」
 最後にしてもガキじゃあるまいし。
 いい年だろうが。
 布団に入って来た弟子は覆いかぶさるようにしてちゅ、と「おやすみのキス」をしてきた。
 もう長い事してなかったが、いつまでたってもガキはガキか。

 ってコイツもう20過ぎだよな。

 コイツが精通を迎えたトコでベッドを分けたんだった。
 でもってお互い相手に気を遣わなくていいように自慰部屋も作った。
 外から見るとこの家は掘っ立て小屋の倉庫にしか見えないが玄関を開けば実に住み心地のいい我が家だ。なおかつ部屋数は多い。リビングから見えるドアは一枚だが行きたい部屋を軽く念じて扉を開けばそこにつながる。
 寝室に書斎。それとは別に書籍部屋に資料室、研究室と実験室と運動部屋。
 研究室と実験室は今も増え続け、他にそれぞれ個室という名の自慰専用部屋もある。
 今さらだがバカだよなぁ、と思った所で弟子が突如牙を剥いた。

 口内を分厚い舌で蹂躙され、寝間着の下に手を入れられて肌を直接撫でられる。

「あ!? おまっ!? ちょ、な、ヤメっ!」
 抵抗するがヒョロい俺がガタイのいいコイツに腕力でかなうはずもなく。
 咄嗟に魔術を展開しようとすると瞬時に弾かれ抜け道まで一瞬で塞がれた。というかはじめから塞がれていた。
 いつだ? いつの間にこんなモン張ってやがった。

「やっと認めてもらえたんですね。長かったです。もう我慢はしません」
 魔術で俺をベッドに沈むように拘束し、俺の腹の上に腰を降ろした弟子が自分の寝間着の上を脱ぐ。それをぽいっと床に放り、俺も同様に脱がされた。

 は?
 なんだ?
 コイツはなにをやってんだ?

退け」
 命令した。
 そこに腰を下ろされると当たるんだよ。お互いのナニがさぁ。

「良かった、勃ってますね」
 そう、俺の股間は勃ち上がって弟子の股間に当たっている。
 弟子のも硬くなってるのはなんでだ。

「退けと言って、ふッ!」
 弟子が刺激するように腰を揺らすと股間が刺激されて声が漏れた。

「食後のお茶に混ぜた精力剤がよく効いてるようですね」
 熱っぽいのはソレかぁぁぁ!
 弟子の身体を弾き飛ばして寝室の壁に叩きつけようと魔力を練ったが、それより早く弟子が練り終えかけた術式をあっさり無効化して乳首をつまんできた。
 なんて反応速度だよ。

「風味を消さなかったのにおかわりまでして先にベッドに入るから少し驚きました」

 それでしょっぱかったのかよ!
 なんでグビグビ飲んだ俺ぇぇぇぇ!

 見上げた弟子は照れたように頬を染め、嬉しそうに笑っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

恋の終わらせ方がわからない失恋続きの弟子としょうがないやつだなと見守る師匠

万年青二三歳
BL
どうやったら恋が終わるのかわからない。 「自分で決めるんだよ。こればっかりは正解がない。魔術と一緒かもな」 泣きべそをかく僕に、事も無げに師匠はそういうが、ちっとも参考にならない。 もう少し優しくしてくれてもいいと思うんだけど? 耳が出たら破門だというのに、魔術師にとって大切な髪を切ったらしい弟子の不器用さに呆れる。 首が傾ぐほど強く手櫛を入れれば、痛いと涙目になって睨みつけた。 俺相手にはこんなに強気になれるくせに。 俺のことなどどうでも良いからだろうよ。 魔術師の弟子と師匠。近すぎてお互いの存在が当たり前になった二人が特別な気持ちを伝えるまでの物語。 表紙はpome bro. sukii@kmt_srさんに描いていただきました! 弟子が乳幼児期の「師匠の育児奮闘記」を不定期で更新しますので、引き続き二人をお楽しみになりたい方はどうぞ。

王道学園の副会長は異世界転移して愛を注がれ愛を失う

三谷玲
BL
王道学園の副会長である僕は生徒会長に恋をしていた。転校生が現れ、彼に嫉妬の炎を燃やした瞬間、僕らは光りに包まれ、異世界へと転移させられた。その光の中で僕は恋を失い、その先で心を壊し、愛を注がれ、その愛を失った。 診断メーカーの「あたなに書いて欲しい物語」のお題、三谷玲さんには「笑ってください」で始まり、「どうか許さないでください」で終わる物語を書いて欲しいです。#書き出しと終わり #shindanmaker https://shindanmaker.com/801664より。 副会長受け。王道学園設定ですが、勇者や魔王が出てきますが雰囲気ものです。 前後編+一話の短編です

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

またのご利用をお待ちしています。

あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。 緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?! ・マッサージ師×客 ・年下敬語攻め ・男前土木作業員受け ・ノリ軽め ※年齢順イメージ 九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮 【登場人物】 ▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻 ・マッサージ店の店長 ・爽やかイケメン ・優しくて低めのセクシーボイス ・良識はある人 ▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受 ・土木作業員 ・敏感体質 ・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ ・性格も見た目も男前 【登場人物(第二弾の人たち)】 ▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻 ・マッサージ店の施術者のひとり。 ・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。 ・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。 ・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。 ▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受 ・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』 ・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。 ・理性が強め。隠れコミュ障。 ・無自覚ドM。乱れるときは乱れる 作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。 徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。 よろしくお願いいたします。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

騎士団長の秘密

さねうずる
BL
「俺は、ポラール殿を好いている」 「「「 なんて!?!?!?」」 無口無表情の騎士団長が好きなのは別騎士団のシロクマ獣人副団長 チャラシロクマ×イケメン騎士団長

処理中です...