腹ペコ淫魔のヤケ酒に媚薬

志野まつこ

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【スピンオフ】ヴァンパイア医師とデュラハン作家の特殊な夜

9、朝食※

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 ドエンの焦りも空しく、刹那ひときわ強く奥にシヴァイツに突き上げられた。同じ男だ。それが最後の一刺しであろうと察せられた。
「ンっご、ぐぅぅぅぅっ」
 ドエンもまた、喉奥と胎の奥を怒張が同時に突き埋められた衝撃に引きずられ強制的に深く絶頂する。
 機能をほぼ失った脳では、口内に陰茎があろうと射精したのか胎で絶頂したのか結局理解できないほどにそれは凄まじいものだった。それなのに腹の中に射精された事だけは分かってしまう。
 中で、出された。
 怒りを感じるべきなのだろうが疲労によりドエンは呆然とそれを受け止めた。

 頭部を持ち上げられ、陰茎が口内から抜かれれば直後肺を満たす酸素に溺れそうになる。
 激しく喘ぎ噎せているというのに延々顔中に軽く口づけられ鬱陶しさに苛立った。少し呼吸が落ち着いたと思えば深く口づけられまた酸素を奪われる。キスで呼吸ができないなんて。
 シヴァイツがずるりと体内から出て行く感覚に自然と呻きが漏れ、体が震える。
 どこか法悦を覚えながら、改めて体内への侵入を許してしまったと強く自覚した。

「……事後はもっとドライなタイプだと思ってたよ」
 またしてもいろいろな液体でどろどろになった顔に躊躇なく口づけるシヴァイツに、ようやく息の整ったドエンがぐったりと述べる。中出しについては触れたくもなかった。
「ナカで達した感想は?」
 憎まれ口を叩いたつもりだったのに返された言葉もまた痛烈だった。
 とはいえシヴァイツ本人に皮肉の意図はなく、純真に感想を聞きたかったのだが。

 むっつりと口を閉ざすドエンの頭部を持ってシヴァイツは立ち上がる。
 次は何を企んだのかとひどく慌て警戒したドエンだったが、シヴァイツは備え付けの冷蔵庫から水の瓶を取り出した。
 全裸で人の頭部を抱えベッドを降りたかと思ったら水分補給だった。

 頭だけ持って水を飲みに行くのはどうなんだ。
 水を持ってきてくれたら済む話なんだが。
 頭だけだと飲みにくいんだが。
 他人に水を飲まされるのは非常に難しいんだが。
 不満しかなかったが相手は腐っても医者だった。
 口元への当て方や角度が的確でくやしいことに問題なく水が飲めてしまった。冷たい水にやっと人心地つくことができた。

「疲れただろう。泊っていくといい」
 偉そうに。そうは思ったが全身が重く、帰宅するのも億劫である。体を拭かれているが最早されるがままだ。
 ダブルの部屋で、もう片方の未使用のベッドに横抱きで異動させられたが相手は医療従事者だ。介護だと思って無の極致でドエンは受け入れたが━━
高医こうい使えるだろうが!」
 高額な高度魔術医療の名医ともなれば体内の清浄も魔術で可能であることをミステリ作家という職業柄、ドエンは把握していた。シヴァイツが中に出した精液を手づから掻き出そうとしたのだけは断固として拒否した。

「帰らないのか」
「当然だろう」
 言葉通り当然のように同じベッドの隣に入って来るシヴァイツに遠回しな拒絶を示したが一蹴される。
 シヴァイツは多忙な医者だ。高給取りの高度魔術医療の医師は一般の医師と違って緊急の呼び出しがない。にもかかわらず緊急呼び出しに応じる酔狂な男だ。今夜も緊急の呼び出しがあることを期待してふて寝することにする。もうすべてが億劫だった。

 首は繋がっていないが睡眠時ドエンは常人と同じ位置で枕を使う。
「デュラハンの唯一の難点は腕枕がしにくい事だな」
 添い寝だけでも鬱陶しいというのに、加えて腕枕などという頭のおかしい行為に出たシヴァイツはそんな事を言う。

 難点なんて、きっと腐るほどある。
 産まれながらにしてデュラハンであるドエン本人がそう感じていないだけで、きっと首の繋がった生活は現状よりずっと便利で快適なのだろう。
 そんな事が唯一なんて。
 随分とおかしなことを言うものだと思いながらドエンは深い眠りの深淵に抵抗する気力もなく沈み込んで行く。
 あと少しで完全に睡魔の手に落ちるという直前、突如として無性に文章を書き綴りたいという衝動を覚えた。

 明確に書きたい文章がある。
 それも一つや二つではない。
 業苦と法悦。死に至る気配と感覚。これまでにない表現で次から次へと文章が浮かぶ。

 ああ、惜しい。
 きっと今生まれた内容は忘れてしまうだろう。いつもそうだ。
 この瞬間を書き留めなければ失ってしまう。

 くやしい、口惜しくてたまらない。
 せっかくのこれ・・を失いたくないのに。
 そうは思うものの疲労しきった心身は睡眠への欲求に抗えない。
 意識は急速に堕ちていく。

 猛烈に文章を書き綴りたいというのに。
 今なら、書ける。書けるのに
 それは確信だった。

 あと少し、ほんの少しでも体力を残してくれればよかったのに。
 隣の体温の主を恨みながらドエンは意識を手放した。

 翌朝は実に淡々としたものだった。
 あそこまでの執着を見せながらあっさりとしたものだ。あれだけ人を蹂躙しておきながらと腹が立ったが━━
 執着されて困るのは自分だと気付いていつものように、知人のていで分かれるのが得策だと思ったのに。

「食べないのか」
 混み合わない時間にオーダーしていたらしいルームサービスの朝食は一人分にしては随分と多かった。ナルシストで健康的な生活をポリシーとするドエンの腹が空腹を訴える。
 どうせシヴァイツの金だと席に着いた。
 そして対面で眉間を険しくしてコーヒーだけを口にするシヴァイツにドエンも眉を顰める。
 ヴァンパイアだから朝が弱いのかもしれないが━━

「朝はコーヒーだけとか言うなよ」
 医者の不養生など面白くもなんともない。
 中でも軽そうな、レタスがメインのサンドイッチをドエンが押し付ければシヴァイツは少し目を瞠った後、ためらいがちに口にする。
 普段、朝食を取らないのであればさぞ入りにくいだろう。
 よく食べる夜の姿と違い、もそもそと咀嚼する様子に少しばかり胸がすいた。

「じゃあまた。いつでも声をかけてくれ」

 ホテルを出た所でシヴァイツはそう言って帰って行った。
 厚顔無恥にもほどがある。
 シヴァイツの医者としての知識はドエンには必要なものだが、一体何の用事で声をかけろと言うのか。つい思わずシヴァイツの死神のような風体の背を見送ってしまった。
 ああ、こんな事をしている場合じゃない。
 ドエンは即座に思考を巡らせ、出たばかりのホテルに踵を返す。

 今のうちに書き留めねば。
 ホテルであればこの時間からでも喫茶コーナーが開いている。
 少しの猶予もない。
 一文字でも書き記し、残さなければ。
 一文字でも多く繋ぎ止めなければ。
 胸の内ポケットに常備しているメモ帳とペンに手をやりながらドエンは足早にロビーを進んだ。
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