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【本編】腹ペコ淫魔のヤケ酒に媚薬
20、淫魔と朝食バイキング
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ディールの朝の予定は朝から再度睦み合ってからゆっくりとルームサービスで朝食を取る、だったのだが━━
「朝のバイキングがいいんじゃないか。それだけが楽しみだったんだから。僕は一人でも行くよ」
昨夜完全に抱き潰されたはずなのに元気に身なりを整えるルクスを「さすがは淫魔だ」とディールは全裸のままベッドの上から眺めた。
「薬は抜けてるみたいだけど体つらい? ルームサービス頼もうか? 僕はバイキングに行くけど」
体調を気遣いながらもバイキングは譲れないらしい。満腹のはずなのにどれほど楽しみにしていたのか。ディールは苦笑して体を起こした。
体調は万全だ。濃厚で充実した夜のおかげですこぶるいい。
「昨日のはジョークグッズだ。栄養剤程度の効果しかないから体は問題ない」
「は?」
ルクスはぽっかり目と口を開け、その様子にディールは面白そうに小さく笑った。
「本当に効果のある媚薬なんて犯罪モノだ。市販されているのはプラシーボ効果的にその気になるだけのマガイモノだよ」
マジか。そう思う反面、それはそうかと納得する。出版社が看板作家にそんな怪しげなものを資料として提供するはずが無いではないかと。
「あ? でも昨日……」
効果がないという割にはずいぶんとエレクト&ハッスルしていたではないか。
「少しは妬いてくれたのかと盛り上がってしまった」
戸惑うルクスにディールは悪びれること無く言ってわざとらしく小さく肩をすくめた。
普段温厚なルクスが女性相手に食ってかかったほどなのだ、少しどころでの話ではない。そこあったのは明確で強い嫉妬と独占欲だ。
バレバレだったかと気まずさに視線を泳がせたルクスはふと首を傾げる。
首なし先生がそれを知っていたか否かは定かではないが、栄養剤程度の効果しかないのであれば彼のあの反応は━━
……うわーもしかして無意識に淫魔の力、強めに使っちまったってことか。
あちゃあ、と口元が引きつった。
首なし先生への蹂躙は完全に八つ当たりだ。
強い要望に応じて都会まで来たというのに放置され、ナイスバディサキュバスと会話する様を見せられたイライラを、危害を加えて来た首なし先生にこれ幸いとばかりにぶつけ当たり散らしていたという事になる。
つまり。
苛立ちのまま無関係の首なし先生を強制的に何度も勃起させ、連続絶頂させた、と。
あー、首なし先生に悪いことしたかなぁ。
しばらく射精に対する恐怖心から勃起不全になる可能性がある。
……でもまぁ。
犯罪行為をしでかして来たのは首なし先生だ。
自業自得か。
自分のいいように解釈し、あっさりと割り切ったルクスはいそいそと一階の食事会場へと向かった。
「食事の後の食事は美味しい」
自分の食べたい物だけをチョイスした朝食を前にご機嫌でそんな不思議な事を言ってからルクスははっとディールを気遣わし気に見た。また食事扱いしてしまったと後悔しているその表情にディールは己の狭小を思い知らされた気になる。ご機嫌で朝食をとる恋人にこんな顔をさせてしまうなんて。
「悪かった。邪推だ。空気と同じくらい君には大切な事だろう? 光栄なくらいだ」
そう、空気と同じ。無くては生きられない。
ふっと二人して笑い、その後ルクスがふと表情を変える。
「そういえばさ、ずっとこういう食事って命をつなぐギリギリの栄養補給だったのに今は食べることが楽しいと思えるようになった気がするんだよね。これもディールのおかげだな」
ディールは一瞬目を瞠り、次いで口元に手を当てて何か思案するような様子を見せたあと優しく目を眇める。
「私も君が美味しそうに食べる顔が好きだ。これからもずっと見ていたい━━こういう事はディナーで言うべきなんだろうが」
穏やかに言って肩をすくめるディールに昨夜の情事の記憶がよみがえり咄嗟に反応を返せない。同時にこれがちょっとしたプロポーズの意味を含んでいる事に気付いてかっと胸が熱くなる。こんな大勢人のいる所で何を言い出すやら。
そもそも一体なにを食べる顔なのか。
「ずっと食べさせてくれるんだろ?」
本来、淫魔は淫気があれば腹は満たされる。別に精液が必要なわけではないのだ。年を取った淫魔にオーガの現役たる精液は「重すぎる」気がするが。
「楽しみにしてるよ」
照れ隠しにインキュバスらしく笑んで見せるルクスにディールもまた穏やかに笑った。
まったくもって恥ずかしい。何ともいたたまれずルクスが視線をうろつかせるとガラスに向かって一人座る首のない男の姿を見付けた。
テーブルにはオレンジジュースのグラスと自分の首を並べているが、微動だにせずぼんやりと生気のない様子で座っている。
まぁ食欲は沸かないだろうなぁ。
こちらに背を向けた首なし先生にルクスは淡々と思う。
視線を戻せばジャケットの胸ポケットに手をやったディールと目が合った。
「デザート見て来るよ」
メモとペンを取りだし猛然と書き物をはじめたディールを置いてルクスは立ち上がる。
作家のひらめきは最重要事項だ。こういう時はそっとしておくに限ると心得ている。
デザートにするからごゆっくり、というルクスの気遣いを感じながら走らせる筆はいつになくすらすらと進んだ。一気に書き上げたあと一度ざっと見直すとディールは席を立った。
「朝のバイキングがいいんじゃないか。それだけが楽しみだったんだから。僕は一人でも行くよ」
昨夜完全に抱き潰されたはずなのに元気に身なりを整えるルクスを「さすがは淫魔だ」とディールは全裸のままベッドの上から眺めた。
「薬は抜けてるみたいだけど体つらい? ルームサービス頼もうか? 僕はバイキングに行くけど」
体調を気遣いながらもバイキングは譲れないらしい。満腹のはずなのにどれほど楽しみにしていたのか。ディールは苦笑して体を起こした。
体調は万全だ。濃厚で充実した夜のおかげですこぶるいい。
「昨日のはジョークグッズだ。栄養剤程度の効果しかないから体は問題ない」
「は?」
ルクスはぽっかり目と口を開け、その様子にディールは面白そうに小さく笑った。
「本当に効果のある媚薬なんて犯罪モノだ。市販されているのはプラシーボ効果的にその気になるだけのマガイモノだよ」
マジか。そう思う反面、それはそうかと納得する。出版社が看板作家にそんな怪しげなものを資料として提供するはずが無いではないかと。
「あ? でも昨日……」
効果がないという割にはずいぶんとエレクト&ハッスルしていたではないか。
「少しは妬いてくれたのかと盛り上がってしまった」
戸惑うルクスにディールは悪びれること無く言ってわざとらしく小さく肩をすくめた。
普段温厚なルクスが女性相手に食ってかかったほどなのだ、少しどころでの話ではない。そこあったのは明確で強い嫉妬と独占欲だ。
バレバレだったかと気まずさに視線を泳がせたルクスはふと首を傾げる。
首なし先生がそれを知っていたか否かは定かではないが、栄養剤程度の効果しかないのであれば彼のあの反応は━━
……うわーもしかして無意識に淫魔の力、強めに使っちまったってことか。
あちゃあ、と口元が引きつった。
首なし先生への蹂躙は完全に八つ当たりだ。
強い要望に応じて都会まで来たというのに放置され、ナイスバディサキュバスと会話する様を見せられたイライラを、危害を加えて来た首なし先生にこれ幸いとばかりにぶつけ当たり散らしていたという事になる。
つまり。
苛立ちのまま無関係の首なし先生を強制的に何度も勃起させ、連続絶頂させた、と。
あー、首なし先生に悪いことしたかなぁ。
しばらく射精に対する恐怖心から勃起不全になる可能性がある。
……でもまぁ。
犯罪行為をしでかして来たのは首なし先生だ。
自業自得か。
自分のいいように解釈し、あっさりと割り切ったルクスはいそいそと一階の食事会場へと向かった。
「食事の後の食事は美味しい」
自分の食べたい物だけをチョイスした朝食を前にご機嫌でそんな不思議な事を言ってからルクスははっとディールを気遣わし気に見た。また食事扱いしてしまったと後悔しているその表情にディールは己の狭小を思い知らされた気になる。ご機嫌で朝食をとる恋人にこんな顔をさせてしまうなんて。
「悪かった。邪推だ。空気と同じくらい君には大切な事だろう? 光栄なくらいだ」
そう、空気と同じ。無くては生きられない。
ふっと二人して笑い、その後ルクスがふと表情を変える。
「そういえばさ、ずっとこういう食事って命をつなぐギリギリの栄養補給だったのに今は食べることが楽しいと思えるようになった気がするんだよね。これもディールのおかげだな」
ディールは一瞬目を瞠り、次いで口元に手を当てて何か思案するような様子を見せたあと優しく目を眇める。
「私も君が美味しそうに食べる顔が好きだ。これからもずっと見ていたい━━こういう事はディナーで言うべきなんだろうが」
穏やかに言って肩をすくめるディールに昨夜の情事の記憶がよみがえり咄嗟に反応を返せない。同時にこれがちょっとしたプロポーズの意味を含んでいる事に気付いてかっと胸が熱くなる。こんな大勢人のいる所で何を言い出すやら。
そもそも一体なにを食べる顔なのか。
「ずっと食べさせてくれるんだろ?」
本来、淫魔は淫気があれば腹は満たされる。別に精液が必要なわけではないのだ。年を取った淫魔にオーガの現役たる精液は「重すぎる」気がするが。
「楽しみにしてるよ」
照れ隠しにインキュバスらしく笑んで見せるルクスにディールもまた穏やかに笑った。
まったくもって恥ずかしい。何ともいたたまれずルクスが視線をうろつかせるとガラスに向かって一人座る首のない男の姿を見付けた。
テーブルにはオレンジジュースのグラスと自分の首を並べているが、微動だにせずぼんやりと生気のない様子で座っている。
まぁ食欲は沸かないだろうなぁ。
こちらに背を向けた首なし先生にルクスは淡々と思う。
視線を戻せばジャケットの胸ポケットに手をやったディールと目が合った。
「デザート見て来るよ」
メモとペンを取りだし猛然と書き物をはじめたディールを置いてルクスは立ち上がる。
作家のひらめきは最重要事項だ。こういう時はそっとしておくに限ると心得ている。
デザートにするからごゆっくり、というルクスの気遣いを感じながら走らせる筆はいつになくすらすらと進んだ。一気に書き上げたあと一度ざっと見直すとディールは席を立った。
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