14 / 31
【本編】腹ペコ淫魔のヤケ酒に媚薬
14、続いて雌豹がやって来る
しおりを挟む
ルクスは会場に戻る前にトイレに寄り、なんとなくそれはしっかりと念入りに手を洗った。気持ちの問題だ。
続けて短く乱れようもない髪の毛も乱れがないか一応確認する。肘の辺りを嗅いで確かめたがずっと精液臭の濃い空間にいた為慣れてしまい、匂いが残っているか否か分からない。
大丈夫だよなぁ…… 多少の不安を感じながら会場に戻ったルクスは目の合ったライアに小さく会釈した。
「お一人にしてしまって申し訳ありませんでした」
「大丈夫です。大人ですから」
ルクスは笑顔で応じたつもりだったがライアはじっとその顔を見詰めてくる。
やっぱり匂うのか? 慌てたルクスに彼女は「ネクタイが」と小さく声を掛けた。
精液臭に気を取られてネクタイを確かめなかった。思わず首元に手をやって勘で直すが不十分だったらしくそっと周辺を確認したライアが「失礼します」とさっと整えた。
「子供でしたかね」
照れ隠しにルクスはそう言い、二人頭を寄せ合うようにして笑う。メデューサたる彼女は30代過ぎにしか見えないが実は成人した子供がいるのだ。
「すみません、少し疲れました。先に部屋に戻ろうと思います」
「楽しめませんでしたよね、すみません。オルソン先生は滅多にこういう場に出られないから方々でつかまってしまって……」
ライアにひどく申し訳なさそうに言われ、ルクスの方が慌ててしまう。
それならディールもなおさら同行などさせなければよかったのに。ライアにまで手間をかけさせてしまっている。
「来る気はなかったのに申し訳ないです」
詫びれば今度はライアがパタパタと手を横に振った。
「とんでもありません。オルソン先生も必死だから」
ライアはそこで小さく笑った。微笑ましいとばかりに。
なにが? そうは思ったが「部屋までご一緒します」と促されて歩き出す。
「一人で戻れますのでお仕事に戻られてください」
これ以上の付き添いは不要だ。ルクスは遠慮したがライアはにっこりと笑う。
「今夜はこれが仕事ですから。お気になさらず」
「子供のおもりですか?」
「まさか。大切なお姫様をお守りする騎士のつもりなんですよ。役に立っていませんけど」
年の甲と言っては失礼だがライアの言葉は絶妙でルクスはありがたく感じる。彼女がいるだけで肩身の狭さが和らぐようだ。
「ライアさんがいてくれてとても助かります。さすがにここで一人だとどうも」
「心細いですよね」
「いえ、いたたまれないんです」
ルクスは食い気味に否定し、また二人顔を見合わせるようにして笑った。
会場を出たところでライアは追うようにして近付いた出版社のスタッフに声を掛けられた。ディールがライアを呼んでいるという。
「は? オルソン先生が?」
スタッフからの伝言にとワケが分からないとひどく怪訝そうに言って戸惑うライアにルクスは声を掛けた。
「僕は部屋に帰りますから」
ご心配ななくと笑い、秘密を打ち明けるようにライアに少しだけ身を寄せる。
「僕これでも淫魔なんで」
ルクスはあえて艶っぽく囁いた。
ライアの夜会巻きに整えられた蛇達が驚いたようにいっせいにルクスを見て来るので彼等ににこりと笑って見せる。ルクスは実は爬虫類好きでもある。
最後まで渋ったライアをなだめ、部屋へと一人足を向けたルクスは確かに知ってはいた。
「あなたがオルソン先生の恋人?」
物語のヒロインが自信満々のド派手な雌豹にからまれるケースがある事を。
すでに首なし男にからまれたあとである。まさかまたからまれるとは思うはずもなく完全に油断しており、ルクスは逃げ遅れた。
どうなってんだ出版界。
フィクションだと思ってたのに実はこれが現実なのか。
読者はフィクションだとちゃんと認識しているのに、出版界のパーティーでは毎度こんなお約束が展開されているのか。
これが創作の源になるのか。
妖艶な女性淫魔を前にしてルクスは遠い目になった。
もはやその視界にナイスバディで露出の高いサキュバスの存在はない。ルクスの好みは清潔感のある清楚で慎ましい感じの女性であるからなおさらだ。迫力あるナイスバディにはむしろたじろいでしまう。
なんでこっち来るんだ。
ディールの方に直接行けばいいのに。
今夜彼女と話すディールを見て「女性淫魔ならあるいは」と思ったのだ。
ディールは紳士だ。体格差のある女性は性対象にしてこなかったはずだ。
しかしサキュバスであればディールの巨根でも受け入れ対応可能ではないか。その可能性に気が付いた。
だから現状から目を覚ましたディールが他を選ぶ事もあるだろうし、そうなれば縋る事は出来ないし、しない。
そう決めてはいるけれども。
ナイスバディ・ボンキュッバン・サキュバスが真っ赤な唇が蠱惑的なカーブを描く。
さて何を言い出すやら。ルクスは平静を装いつつも身構えた。
「地味な顔してよくやるわね。よその男の匂いなんてさせちゃって」
マジでかー
ルクスは内心天を仰いだ。
さすがはサキュバス。男の精液の匂いに敏感だったか。しかもディールのものじゃないとかまで分かるのか。サキュバスこえぇな。そりゃそんな勝ち誇った顔するわな。
首なし先生のせいで面倒なことになった。やっぱちんこ咥えさせて来ればよかった。
「不心得者がいたから退席してもらっただけだよ。疚しい事はない。君なら分かるんじゃない?」
一応主張はさせてもらうが無駄なんだろうなとルクスは内心ため息をつく。
「どうかしら。教師みたいな顔してそんなエロい腰して」
言い当てられた。いいんだか悪いんだか。教師に対する偏見ではなかろうか。
ディールに押しつけられたスーツはラインがきれいでルクスは密かに気に入っていた。採寸の際ディールがこだわりにこだわっていた腰のラインがまさかそんな風に見られようとは。ルクスは半眼となった。
ナイスバディが妖艶な笑みを浮かべ、そっとルクスの耳に艶めかしい唇を寄せて囁く。
「……ねぇ、黙っていてあげるから今夜だけ部屋のキーを貸してくれない?」
なにが今夜だけなんだか。
ルクスは笑いたくなった。
続けて短く乱れようもない髪の毛も乱れがないか一応確認する。肘の辺りを嗅いで確かめたがずっと精液臭の濃い空間にいた為慣れてしまい、匂いが残っているか否か分からない。
大丈夫だよなぁ…… 多少の不安を感じながら会場に戻ったルクスは目の合ったライアに小さく会釈した。
「お一人にしてしまって申し訳ありませんでした」
「大丈夫です。大人ですから」
ルクスは笑顔で応じたつもりだったがライアはじっとその顔を見詰めてくる。
やっぱり匂うのか? 慌てたルクスに彼女は「ネクタイが」と小さく声を掛けた。
精液臭に気を取られてネクタイを確かめなかった。思わず首元に手をやって勘で直すが不十分だったらしくそっと周辺を確認したライアが「失礼します」とさっと整えた。
「子供でしたかね」
照れ隠しにルクスはそう言い、二人頭を寄せ合うようにして笑う。メデューサたる彼女は30代過ぎにしか見えないが実は成人した子供がいるのだ。
「すみません、少し疲れました。先に部屋に戻ろうと思います」
「楽しめませんでしたよね、すみません。オルソン先生は滅多にこういう場に出られないから方々でつかまってしまって……」
ライアにひどく申し訳なさそうに言われ、ルクスの方が慌ててしまう。
それならディールもなおさら同行などさせなければよかったのに。ライアにまで手間をかけさせてしまっている。
「来る気はなかったのに申し訳ないです」
詫びれば今度はライアがパタパタと手を横に振った。
「とんでもありません。オルソン先生も必死だから」
ライアはそこで小さく笑った。微笑ましいとばかりに。
なにが? そうは思ったが「部屋までご一緒します」と促されて歩き出す。
「一人で戻れますのでお仕事に戻られてください」
これ以上の付き添いは不要だ。ルクスは遠慮したがライアはにっこりと笑う。
「今夜はこれが仕事ですから。お気になさらず」
「子供のおもりですか?」
「まさか。大切なお姫様をお守りする騎士のつもりなんですよ。役に立っていませんけど」
年の甲と言っては失礼だがライアの言葉は絶妙でルクスはありがたく感じる。彼女がいるだけで肩身の狭さが和らぐようだ。
「ライアさんがいてくれてとても助かります。さすがにここで一人だとどうも」
「心細いですよね」
「いえ、いたたまれないんです」
ルクスは食い気味に否定し、また二人顔を見合わせるようにして笑った。
会場を出たところでライアは追うようにして近付いた出版社のスタッフに声を掛けられた。ディールがライアを呼んでいるという。
「は? オルソン先生が?」
スタッフからの伝言にとワケが分からないとひどく怪訝そうに言って戸惑うライアにルクスは声を掛けた。
「僕は部屋に帰りますから」
ご心配ななくと笑い、秘密を打ち明けるようにライアに少しだけ身を寄せる。
「僕これでも淫魔なんで」
ルクスはあえて艶っぽく囁いた。
ライアの夜会巻きに整えられた蛇達が驚いたようにいっせいにルクスを見て来るので彼等ににこりと笑って見せる。ルクスは実は爬虫類好きでもある。
最後まで渋ったライアをなだめ、部屋へと一人足を向けたルクスは確かに知ってはいた。
「あなたがオルソン先生の恋人?」
物語のヒロインが自信満々のド派手な雌豹にからまれるケースがある事を。
すでに首なし男にからまれたあとである。まさかまたからまれるとは思うはずもなく完全に油断しており、ルクスは逃げ遅れた。
どうなってんだ出版界。
フィクションだと思ってたのに実はこれが現実なのか。
読者はフィクションだとちゃんと認識しているのに、出版界のパーティーでは毎度こんなお約束が展開されているのか。
これが創作の源になるのか。
妖艶な女性淫魔を前にしてルクスは遠い目になった。
もはやその視界にナイスバディで露出の高いサキュバスの存在はない。ルクスの好みは清潔感のある清楚で慎ましい感じの女性であるからなおさらだ。迫力あるナイスバディにはむしろたじろいでしまう。
なんでこっち来るんだ。
ディールの方に直接行けばいいのに。
今夜彼女と話すディールを見て「女性淫魔ならあるいは」と思ったのだ。
ディールは紳士だ。体格差のある女性は性対象にしてこなかったはずだ。
しかしサキュバスであればディールの巨根でも受け入れ対応可能ではないか。その可能性に気が付いた。
だから現状から目を覚ましたディールが他を選ぶ事もあるだろうし、そうなれば縋る事は出来ないし、しない。
そう決めてはいるけれども。
ナイスバディ・ボンキュッバン・サキュバスが真っ赤な唇が蠱惑的なカーブを描く。
さて何を言い出すやら。ルクスは平静を装いつつも身構えた。
「地味な顔してよくやるわね。よその男の匂いなんてさせちゃって」
マジでかー
ルクスは内心天を仰いだ。
さすがはサキュバス。男の精液の匂いに敏感だったか。しかもディールのものじゃないとかまで分かるのか。サキュバスこえぇな。そりゃそんな勝ち誇った顔するわな。
首なし先生のせいで面倒なことになった。やっぱちんこ咥えさせて来ればよかった。
「不心得者がいたから退席してもらっただけだよ。疚しい事はない。君なら分かるんじゃない?」
一応主張はさせてもらうが無駄なんだろうなとルクスは内心ため息をつく。
「どうかしら。教師みたいな顔してそんなエロい腰して」
言い当てられた。いいんだか悪いんだか。教師に対する偏見ではなかろうか。
ディールに押しつけられたスーツはラインがきれいでルクスは密かに気に入っていた。採寸の際ディールがこだわりにこだわっていた腰のラインがまさかそんな風に見られようとは。ルクスは半眼となった。
ナイスバディが妖艶な笑みを浮かべ、そっとルクスの耳に艶めかしい唇を寄せて囁く。
「……ねぇ、黙っていてあげるから今夜だけ部屋のキーを貸してくれない?」
なにが今夜だけなんだか。
ルクスは笑いたくなった。
102
お気に入りに追加
484
あなたにおすすめの小説

愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
酔った俺は、美味しく頂かれてました
雪紫
BL
片思いの相手に、酔ったフリして色々聞き出す筈が、何故かキスされて……?
両片思い(?)の男子大学生達の夜。
2話完結の短編です。
長いので2話にわけました。
他サイトにも掲載しています。

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

30歳まで独身だったので男と結婚することになった
あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。
キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定

罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる