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【本編】腹ペコ淫魔のヤケ酒に媚薬
14、続いて雌豹がやって来る
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ルクスは会場に戻る前にトイレに寄り、なんとなくそれはしっかりと念入りに手を洗った。気持ちの問題だ。
続けて短く乱れようもない髪の毛も乱れがないか一応確認する。肘の辺りを嗅いで確かめたがずっと精液臭の濃い空間にいた為慣れてしまい、匂いが残っているか否か分からない。
大丈夫だよなぁ…… 多少の不安を感じながら会場に戻ったルクスは目の合ったライアに小さく会釈した。
「お一人にしてしまって申し訳ありませんでした」
「大丈夫です。大人ですから」
ルクスは笑顔で応じたつもりだったがライアはじっとその顔を見詰めてくる。
やっぱり匂うのか? 慌てたルクスに彼女は「ネクタイが」と小さく声を掛けた。
精液臭に気を取られてネクタイを確かめなかった。思わず首元に手をやって勘で直すが不十分だったらしくそっと周辺を確認したライアが「失礼します」とさっと整えた。
「子供でしたかね」
照れ隠しにルクスはそう言い、二人頭を寄せ合うようにして笑う。メデューサたる彼女は30代過ぎにしか見えないが実は成人した子供がいるのだ。
「すみません、少し疲れました。先に部屋に戻ろうと思います」
「楽しめませんでしたよね、すみません。オルソン先生は滅多にこういう場に出られないから方々でつかまってしまって……」
ライアにひどく申し訳なさそうに言われ、ルクスの方が慌ててしまう。
それならディールもなおさら同行などさせなければよかったのに。ライアにまで手間をかけさせてしまっている。
「来る気はなかったのに申し訳ないです」
詫びれば今度はライアがパタパタと手を横に振った。
「とんでもありません。オルソン先生も必死だから」
ライアはそこで小さく笑った。微笑ましいとばかりに。
なにが? そうは思ったが「部屋までご一緒します」と促されて歩き出す。
「一人で戻れますのでお仕事に戻られてください」
これ以上の付き添いは不要だ。ルクスは遠慮したがライアはにっこりと笑う。
「今夜はこれが仕事ですから。お気になさらず」
「子供のおもりですか?」
「まさか。大切なお姫様をお守りする騎士のつもりなんですよ。役に立っていませんけど」
年の甲と言っては失礼だがライアの言葉は絶妙でルクスはありがたく感じる。彼女がいるだけで肩身の狭さが和らぐようだ。
「ライアさんがいてくれてとても助かります。さすがにここで一人だとどうも」
「心細いですよね」
「いえ、いたたまれないんです」
ルクスは食い気味に否定し、また二人顔を見合わせるようにして笑った。
会場を出たところでライアは追うようにして近付いた出版社のスタッフに声を掛けられた。ディールがライアを呼んでいるという。
「は? オルソン先生が?」
スタッフからの伝言にとワケが分からないとひどく怪訝そうに言って戸惑うライアにルクスは声を掛けた。
「僕は部屋に帰りますから」
ご心配ななくと笑い、秘密を打ち明けるようにライアに少しだけ身を寄せる。
「僕これでも淫魔なんで」
ルクスはあえて艶っぽく囁いた。
ライアの夜会巻きに整えられた蛇達が驚いたようにいっせいにルクスを見て来るので彼等ににこりと笑って見せる。ルクスは実は爬虫類好きでもある。
最後まで渋ったライアをなだめ、部屋へと一人足を向けたルクスは確かに知ってはいた。
「あなたがオルソン先生の恋人?」
物語のヒロインが自信満々のド派手な雌豹にからまれるケースがある事を。
すでに首なし男にからまれたあとである。まさかまたからまれるとは思うはずもなく完全に油断しており、ルクスは逃げ遅れた。
どうなってんだ出版界。
フィクションだと思ってたのに実はこれが現実なのか。
読者はフィクションだとちゃんと認識しているのに、出版界のパーティーでは毎度こんなお約束が展開されているのか。
これが創作の源になるのか。
妖艶な女性淫魔を前にしてルクスは遠い目になった。
もはやその視界にナイスバディで露出の高いサキュバスの存在はない。ルクスの好みは清潔感のある清楚で慎ましい感じの女性であるからなおさらだ。迫力あるナイスバディにはむしろたじろいでしまう。
なんでこっち来るんだ。
ディールの方に直接行けばいいのに。
今夜彼女と話すディールを見て「女性淫魔ならあるいは」と思ったのだ。
ディールは紳士だ。体格差のある女性は性対象にしてこなかったはずだ。
しかしサキュバスであればディールの巨根でも受け入れ対応可能ではないか。その可能性に気が付いた。
だから現状から目を覚ましたディールが他を選ぶ事もあるだろうし、そうなれば縋る事は出来ないし、しない。
そう決めてはいるけれども。
ナイスバディ・ボンキュッバン・サキュバスが真っ赤な唇が蠱惑的なカーブを描く。
さて何を言い出すやら。ルクスは平静を装いつつも身構えた。
「地味な顔してよくやるわね。よその男の匂いなんてさせちゃって」
マジでかー
ルクスは内心天を仰いだ。
さすがはサキュバス。男の精液の匂いに敏感だったか。しかもディールのものじゃないとかまで分かるのか。サキュバスこえぇな。そりゃそんな勝ち誇った顔するわな。
首なし先生のせいで面倒なことになった。やっぱちんこ咥えさせて来ればよかった。
「不心得者がいたから退席してもらっただけだよ。疚しい事はない。君なら分かるんじゃない?」
一応主張はさせてもらうが無駄なんだろうなとルクスは内心ため息をつく。
「どうかしら。教師みたいな顔してそんなエロい腰して」
言い当てられた。いいんだか悪いんだか。教師に対する偏見ではなかろうか。
ディールに押しつけられたスーツはラインがきれいでルクスは密かに気に入っていた。採寸の際ディールがこだわりにこだわっていた腰のラインがまさかそんな風に見られようとは。ルクスは半眼となった。
ナイスバディが妖艶な笑みを浮かべ、そっとルクスの耳に艶めかしい唇を寄せて囁く。
「……ねぇ、黙っていてあげるから今夜だけ部屋のキーを貸してくれない?」
なにが今夜だけなんだか。
ルクスは笑いたくなった。
続けて短く乱れようもない髪の毛も乱れがないか一応確認する。肘の辺りを嗅いで確かめたがずっと精液臭の濃い空間にいた為慣れてしまい、匂いが残っているか否か分からない。
大丈夫だよなぁ…… 多少の不安を感じながら会場に戻ったルクスは目の合ったライアに小さく会釈した。
「お一人にしてしまって申し訳ありませんでした」
「大丈夫です。大人ですから」
ルクスは笑顔で応じたつもりだったがライアはじっとその顔を見詰めてくる。
やっぱり匂うのか? 慌てたルクスに彼女は「ネクタイが」と小さく声を掛けた。
精液臭に気を取られてネクタイを確かめなかった。思わず首元に手をやって勘で直すが不十分だったらしくそっと周辺を確認したライアが「失礼します」とさっと整えた。
「子供でしたかね」
照れ隠しにルクスはそう言い、二人頭を寄せ合うようにして笑う。メデューサたる彼女は30代過ぎにしか見えないが実は成人した子供がいるのだ。
「すみません、少し疲れました。先に部屋に戻ろうと思います」
「楽しめませんでしたよね、すみません。オルソン先生は滅多にこういう場に出られないから方々でつかまってしまって……」
ライアにひどく申し訳なさそうに言われ、ルクスの方が慌ててしまう。
それならディールもなおさら同行などさせなければよかったのに。ライアにまで手間をかけさせてしまっている。
「来る気はなかったのに申し訳ないです」
詫びれば今度はライアがパタパタと手を横に振った。
「とんでもありません。オルソン先生も必死だから」
ライアはそこで小さく笑った。微笑ましいとばかりに。
なにが? そうは思ったが「部屋までご一緒します」と促されて歩き出す。
「一人で戻れますのでお仕事に戻られてください」
これ以上の付き添いは不要だ。ルクスは遠慮したがライアはにっこりと笑う。
「今夜はこれが仕事ですから。お気になさらず」
「子供のおもりですか?」
「まさか。大切なお姫様をお守りする騎士のつもりなんですよ。役に立っていませんけど」
年の甲と言っては失礼だがライアの言葉は絶妙でルクスはありがたく感じる。彼女がいるだけで肩身の狭さが和らぐようだ。
「ライアさんがいてくれてとても助かります。さすがにここで一人だとどうも」
「心細いですよね」
「いえ、いたたまれないんです」
ルクスは食い気味に否定し、また二人顔を見合わせるようにして笑った。
会場を出たところでライアは追うようにして近付いた出版社のスタッフに声を掛けられた。ディールがライアを呼んでいるという。
「は? オルソン先生が?」
スタッフからの伝言にとワケが分からないとひどく怪訝そうに言って戸惑うライアにルクスは声を掛けた。
「僕は部屋に帰りますから」
ご心配ななくと笑い、秘密を打ち明けるようにライアに少しだけ身を寄せる。
「僕これでも淫魔なんで」
ルクスはあえて艶っぽく囁いた。
ライアの夜会巻きに整えられた蛇達が驚いたようにいっせいにルクスを見て来るので彼等ににこりと笑って見せる。ルクスは実は爬虫類好きでもある。
最後まで渋ったライアをなだめ、部屋へと一人足を向けたルクスは確かに知ってはいた。
「あなたがオルソン先生の恋人?」
物語のヒロインが自信満々のド派手な雌豹にからまれるケースがある事を。
すでに首なし男にからまれたあとである。まさかまたからまれるとは思うはずもなく完全に油断しており、ルクスは逃げ遅れた。
どうなってんだ出版界。
フィクションだと思ってたのに実はこれが現実なのか。
読者はフィクションだとちゃんと認識しているのに、出版界のパーティーでは毎度こんなお約束が展開されているのか。
これが創作の源になるのか。
妖艶な女性淫魔を前にしてルクスは遠い目になった。
もはやその視界にナイスバディで露出の高いサキュバスの存在はない。ルクスの好みは清潔感のある清楚で慎ましい感じの女性であるからなおさらだ。迫力あるナイスバディにはむしろたじろいでしまう。
なんでこっち来るんだ。
ディールの方に直接行けばいいのに。
今夜彼女と話すディールを見て「女性淫魔ならあるいは」と思ったのだ。
ディールは紳士だ。体格差のある女性は性対象にしてこなかったはずだ。
しかしサキュバスであればディールの巨根でも受け入れ対応可能ではないか。その可能性に気が付いた。
だから現状から目を覚ましたディールが他を選ぶ事もあるだろうし、そうなれば縋る事は出来ないし、しない。
そう決めてはいるけれども。
ナイスバディ・ボンキュッバン・サキュバスが真っ赤な唇が蠱惑的なカーブを描く。
さて何を言い出すやら。ルクスは平静を装いつつも身構えた。
「地味な顔してよくやるわね。よその男の匂いなんてさせちゃって」
マジでかー
ルクスは内心天を仰いだ。
さすがはサキュバス。男の精液の匂いに敏感だったか。しかもディールのものじゃないとかまで分かるのか。サキュバスこえぇな。そりゃそんな勝ち誇った顔するわな。
首なし先生のせいで面倒なことになった。やっぱちんこ咥えさせて来ればよかった。
「不心得者がいたから退席してもらっただけだよ。疚しい事はない。君なら分かるんじゃない?」
一応主張はさせてもらうが無駄なんだろうなとルクスは内心ため息をつく。
「どうかしら。教師みたいな顔してそんなエロい腰して」
言い当てられた。いいんだか悪いんだか。教師に対する偏見ではなかろうか。
ディールに押しつけられたスーツはラインがきれいでルクスは密かに気に入っていた。採寸の際ディールがこだわりにこだわっていた腰のラインがまさかそんな風に見られようとは。ルクスは半眼となった。
ナイスバディが妖艶な笑みを浮かべ、そっとルクスの耳に艶めかしい唇を寄せて囁く。
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アルファポリス先行公開(のちに改訂版をムーンライトノベルズにも掲載予定)
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