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【本編】腹ペコ淫魔のヤケ酒に媚薬
11、読書クラブおよび文芸部顧問を舐めないでもらおうか
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スパダリの作家彼氏に正装させられ、出版社主催の祝賀会に同伴させられる。
そんな話はフィクションの世界だけだとルクスは思っていた。
まさか都会まで連れて来られ、スーツを仕立てられパーティーに出席させられようとは。
スーツの仕立てが良かろうが全体的に平凡で存在感のないルクスである。会場スタッフか出版社の社員にしか見られず気を抜くと雑用を言いつけられそうになる。
分かっていた。
ディールがどうしても挨拶をしないといけないという大御所作家の所へ行かなければならないと言い出すのは。
大御所作家はもちろんルクスも知る作家で、ディールは一緒にと言ってくれたが身分はわきまえている。薄く笑って首を横に振ったのだからそれはいい。
そもそもなぜ自分も来なければいけなかったのか。
著名な作家陣も出席するからとなだめられた。読書家のルクスが喜ぶだろうとディールは誘ってくれたのは分かるがこんな華々しい世界は自分には不相応だ。
ましてパーティーに誘われはしたが断り、同行するつもりはまるで無かったのでタイミング悪く直前でいつも通り髪をカットしてしまった。深く根付いた貧乏性で社会人としてギリギリ限界まで短くだ。それがこんな場ではひどく浮いてなんとも落ち着かない。
壁際に移動したルクスは一人グラス片手に手持無沙汰に会場の様子をぼんやりと見る。
ディールには次から次へと人が集まり忙しそうだ。
『愛のほとばしり』は普段彼の作品を読まない層も手に取った。そんな読者が過去の作品も手に取る事で既刊の売れ行きもいいらしい。図書館のガスティール・オルソンの作品は出払い予約待ちだという。
ルクスはこんな広い会場でのパーティーなんて初めての経験だ。ディールがずいぶんと遠い。物理的な距離だけではなく、住む世界からして遠く感じられた。
分かっていた。
ディールに雌豹のようなナイスバディ美女が近付くことは。
いつも無駄に露出が多い駆け出しの女性タレントだ。
露出の高すぎるドレスを纏いその背後では男達を誘うようにいやらしくしっぽが揺れている。背中の立派な漆黒の羽がひどく妖艶で、これまた絵にかいたような見事な女性淫魔である。
巨乳美女の立派な羽の前ではルクスの小さな羽根が実に貧相に思える。男の癖に的な。いやちんこじゃないんだから別に羽が小さいのはいいんだけど。
分かっていた。
ディールが席を外す代わりに彼の担当編集者の女性が一緒にいてくれる事になると。
ライアと名乗った髪の毛が蛇の彼女はスレンダーで、レンズの狭いメガネがなんとも「それっぽい」やり手美女だ。彼女にしてみればルクスは絶対に逃してはならない人材で彼女はルクスを尊重し、大変丁寧に取り扱ってくれた。
同性同士の恋愛は恋愛の形の一つとして認知されている。
ライアにしてみればルクスは『愛のほとばしり』執筆のきっかけとなり、作家ガスティール・オルソンの新たなジャンルへの才能を開花させた人物だ。
まして登場人物の名前にもダメ出し、インキュバスである彼との交際が続く限り生まれた子供に常軌を逸したありえない珍妙な名前をつける可能性もない。
田舎には資料がないから書けないのでは? ディールからルクスを紹介された際そっとルクスから不安を打ち明けられたが━━
そんなこと。
彼女は鼻で笑いとばしたくなった。
資料位いくらでも準備して当日中にでも届けて見せる。たかだか電車で3時間の距離だ。ガスティール・オルソン担当のライア女史はルクスを逃す気はなかった。
そしてルクスは分かっていた。
そんなライアもまた用事で呼ばれて独り放り出される事態になる事くらい、ルクスには分かっていた。
なぜならばルクスは中等部のカリキュラム内では読書クラブ、放課後は文芸部の顧問をしているからだ。
ルクスは活動内で漫画もライトノベルも許している。
生徒達の間でいま何が流行っているのか積極的に知ろうとするし、生徒達もルクスに喜々として推しを布教してくる。
学校には秘密だが生徒に「先生、貸してあげる」と言われれば断る事も憚られ、借りることもやぶさかではない。言語担当の『やぶさかではない』だ。意味通り喜んで借りている。「学校にはナイショだぞー」とまで言っちゃっている。
読後は生徒達と共通の話題で盛り上がる。
ワイワイキャッキャと生徒と盛り上がるルクス先生はとても教師には見えない。担当クラスの生徒からは例年ピヨちゃんと呼ばれる。髪を切ると柔らかい猫毛がヒヨコのようになるからだ。
完全に舐められている自覚がルクスにはあった。
そんなルクスではあるが、まさか男にホテルの上階の部屋に連れ込まれようとは思ってもいなかった。
男女の恋愛物語ではありがちな展開だが、男であるルクスがまさかそんな目に遭うなど誰が思おうか。
相手は首なしでミステリー作家だ。
会場で一人ぽけーっとしている所を男に声を掛けられた。首なしと呼ばれるが首で切断されているだけで切断された首は携えている。体格がよく小脇に抱えられた頭はなかなかの男前だ。
顔も体もディールには劣るけど。
脳内でそんな事を考えたルクスは「これじゃまるで僕の彼氏の方がかっこいいって言ってるようなもんじゃないか」と一人恥ずかしくなった。
首なし先生はルクスも読んだことのある名の通った作家で、はじめこそ脇に抱えた頭に視線を合わせながら当たり障りのない話をしていたのだがすぐに男の様子がおかしい事に気付いた。
よって。
「ここは疲れないかい? 良かったら部屋で飲まない?」
そんな怪しさしかない誘いにも乗った。
ざっと会場を見渡すがライア女史はおらず、ディールも厚い人垣の向こうのナイスバディサキュバスの立派な羽が見える辺りにいるだろう。
すぐに戻るからまぁいいか。ルクスは軽い気持ちで首なし先生について行くことにした。
そんな話はフィクションの世界だけだとルクスは思っていた。
まさか都会まで連れて来られ、スーツを仕立てられパーティーに出席させられようとは。
スーツの仕立てが良かろうが全体的に平凡で存在感のないルクスである。会場スタッフか出版社の社員にしか見られず気を抜くと雑用を言いつけられそうになる。
分かっていた。
ディールがどうしても挨拶をしないといけないという大御所作家の所へ行かなければならないと言い出すのは。
大御所作家はもちろんルクスも知る作家で、ディールは一緒にと言ってくれたが身分はわきまえている。薄く笑って首を横に振ったのだからそれはいい。
そもそもなぜ自分も来なければいけなかったのか。
著名な作家陣も出席するからとなだめられた。読書家のルクスが喜ぶだろうとディールは誘ってくれたのは分かるがこんな華々しい世界は自分には不相応だ。
ましてパーティーに誘われはしたが断り、同行するつもりはまるで無かったのでタイミング悪く直前でいつも通り髪をカットしてしまった。深く根付いた貧乏性で社会人としてギリギリ限界まで短くだ。それがこんな場ではひどく浮いてなんとも落ち着かない。
壁際に移動したルクスは一人グラス片手に手持無沙汰に会場の様子をぼんやりと見る。
ディールには次から次へと人が集まり忙しそうだ。
『愛のほとばしり』は普段彼の作品を読まない層も手に取った。そんな読者が過去の作品も手に取る事で既刊の売れ行きもいいらしい。図書館のガスティール・オルソンの作品は出払い予約待ちだという。
ルクスはこんな広い会場でのパーティーなんて初めての経験だ。ディールがずいぶんと遠い。物理的な距離だけではなく、住む世界からして遠く感じられた。
分かっていた。
ディールに雌豹のようなナイスバディ美女が近付くことは。
いつも無駄に露出が多い駆け出しの女性タレントだ。
露出の高すぎるドレスを纏いその背後では男達を誘うようにいやらしくしっぽが揺れている。背中の立派な漆黒の羽がひどく妖艶で、これまた絵にかいたような見事な女性淫魔である。
巨乳美女の立派な羽の前ではルクスの小さな羽根が実に貧相に思える。男の癖に的な。いやちんこじゃないんだから別に羽が小さいのはいいんだけど。
分かっていた。
ディールが席を外す代わりに彼の担当編集者の女性が一緒にいてくれる事になると。
ライアと名乗った髪の毛が蛇の彼女はスレンダーで、レンズの狭いメガネがなんとも「それっぽい」やり手美女だ。彼女にしてみればルクスは絶対に逃してはならない人材で彼女はルクスを尊重し、大変丁寧に取り扱ってくれた。
同性同士の恋愛は恋愛の形の一つとして認知されている。
ライアにしてみればルクスは『愛のほとばしり』執筆のきっかけとなり、作家ガスティール・オルソンの新たなジャンルへの才能を開花させた人物だ。
まして登場人物の名前にもダメ出し、インキュバスである彼との交際が続く限り生まれた子供に常軌を逸したありえない珍妙な名前をつける可能性もない。
田舎には資料がないから書けないのでは? ディールからルクスを紹介された際そっとルクスから不安を打ち明けられたが━━
そんなこと。
彼女は鼻で笑いとばしたくなった。
資料位いくらでも準備して当日中にでも届けて見せる。たかだか電車で3時間の距離だ。ガスティール・オルソン担当のライア女史はルクスを逃す気はなかった。
そしてルクスは分かっていた。
そんなライアもまた用事で呼ばれて独り放り出される事態になる事くらい、ルクスには分かっていた。
なぜならばルクスは中等部のカリキュラム内では読書クラブ、放課後は文芸部の顧問をしているからだ。
ルクスは活動内で漫画もライトノベルも許している。
生徒達の間でいま何が流行っているのか積極的に知ろうとするし、生徒達もルクスに喜々として推しを布教してくる。
学校には秘密だが生徒に「先生、貸してあげる」と言われれば断る事も憚られ、借りることもやぶさかではない。言語担当の『やぶさかではない』だ。意味通り喜んで借りている。「学校にはナイショだぞー」とまで言っちゃっている。
読後は生徒達と共通の話題で盛り上がる。
ワイワイキャッキャと生徒と盛り上がるルクス先生はとても教師には見えない。担当クラスの生徒からは例年ピヨちゃんと呼ばれる。髪を切ると柔らかい猫毛がヒヨコのようになるからだ。
完全に舐められている自覚がルクスにはあった。
そんなルクスではあるが、まさか男にホテルの上階の部屋に連れ込まれようとは思ってもいなかった。
男女の恋愛物語ではありがちな展開だが、男であるルクスがまさかそんな目に遭うなど誰が思おうか。
相手は首なしでミステリー作家だ。
会場で一人ぽけーっとしている所を男に声を掛けられた。首なしと呼ばれるが首で切断されているだけで切断された首は携えている。体格がよく小脇に抱えられた頭はなかなかの男前だ。
顔も体もディールには劣るけど。
脳内でそんな事を考えたルクスは「これじゃまるで僕の彼氏の方がかっこいいって言ってるようなもんじゃないか」と一人恥ずかしくなった。
首なし先生はルクスも読んだことのある名の通った作家で、はじめこそ脇に抱えた頭に視線を合わせながら当たり障りのない話をしていたのだがすぐに男の様子がおかしい事に気付いた。
よって。
「ここは疲れないかい? 良かったら部屋で飲まない?」
そんな怪しさしかない誘いにも乗った。
ざっと会場を見渡すがライア女史はおらず、ディールも厚い人垣の向こうのナイスバディサキュバスの立派な羽が見える辺りにいるだろう。
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