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【本編】腹ペコ淫魔のヤケ酒に媚薬
9、愛のほとばしり【下】-1
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上巻の発売から2週間後に発売された下巻の帯にはまたワンフレーズのみ刻まれた。
『世界は簡単に覆る』
その言葉通り、世間は手のひらを返した。
「これは恋愛と性、生き方の指南書である」
「叙景トリックと言うにはあまりに壮大にして壮絶」
「精緻であり大胆。この作品の前ではそんな評価も陳腐である」
「さすがはベストセラー作家。これは完全なる大人向け青春小説だ。一人の作家が新しいジャンルを確立した」
ルクスもまんまとヤられたクチだった。
覚悟を決めて下巻を読み、読み終えるや「うそだ……」と翌日が仕事なのに上巻のはじめから読み返して朝を迎えた。
多くの読者が即座に二冊を読み返し、発売日翌日に寝不足を訴えるという社会現象が起きた。
「途中でケチつけてすみませんでしたぁ! オナニー小説とか思ってごめんなさい! でも前の作風も捨てないでください! お願いですからこれまでみたいな作品も書いてくださいぃ!」
下巻の発売日翌日、職場から直接ディール宅を訪れたルクスは謝罪し懇願した。
普段ならどんな作品であっても途中で作者にブチ切れる事などしない。最後まで読了してからブチ切れる。それほどまでにショックだったのだ。
ガスティール・オルソンは終わりなのか、こんな田舎で書いたからか、素人童貞を卒業してしまったからか、連日のように「食事」と称して淫行に耽ったせいではないのか。
全ては自分のせいで、多くの読者を傷つけ、裏切るような事になってしまったのではないかと。二週間前のルクスはとても正常ではいられなかったのだ。
「これまでみたいな作品も、ねぇ」
ディールは満足そうに笑んだ。
「悪くはなかったと思うんだが。『愛というほとばしり』」
「最高だったよ! クソみたいなタイトルだけどな!」
読めばわかる。バカみたいに低俗なこのタイトルの奥深さが。
読者はみな読み進むに従ってその意味を、隠された真実を知るや大きな奇声を発したという。そしてはじめのページに立ち返るのだ。
「ここでもこれぐらいのものは書けるんだが」
ディールは困ったように笑った。珍しく眉が情けなく歪んでいる。
一緒に暮らしたいと思っているディールに対し、ルクスは情報収集が容易で執筆環境の良い都会へ帰るべきだと考えている。そしてディールもそれに気付いていた。
だからディールは結果で示して見せたのだ。
承諾を請うような表情にルクスは言葉に詰まったがそのしっぽはソワソワと揺れていた。
それを見てディールはおもむろに口を開く。
「……食事にするか」
上巻の発売から二週間、ルクスはディールの家を訪れることはなかった。
ディールはルクスを想って執筆したと言った。初めてルクスの部屋を訪れた後、ホテルに戻るや執筆を開始し過去最高に筆が乗ったと実にご機嫌だった。
この騒動の原因のすべては自分にあるのではないかと猛烈なまでに不安になった。
一人の著名な作家を狂わせ、多くのファンから奪ってしまったのではないか。自分のせいでディールが批判に晒されているのではないかと思い悩み、自責でとてもではないが顔向けできなかったのだ。彼の才能の為このまま会わない方がいいのではないかとさえ思い詰めた。
ゆっくりとソファから立ち上がったディールから濃い淫気を感じたルクスは咄嗟に後ずさった。ディールのツノが大きくなっている気がする。
「僕が徹夜明けなの分かるよな? そして僕は明日も仕事だ。睡眠が必要だ」
ルクスの拒否に「む」と口をゆがめる。
「食事も必要だろう? 今後は週末の発売にならないか交渉が必要だな」
そう言いながら近付いて来るディールにルクスはたじろぐ。週末の発売は確かに非常に助かるが、そんな我が儘が通るのか。
いや、今はそれより。
「ダイエット中だから今日はいいよ」
「同時に激しい運動もしてるんだから太らないだろう。もっと肉をつけてもいいくらいだ」
抵抗したが簡単にいなされる。
確かに「太りそうだ」と思ってしまうくらいの食生活を送らされている。
毎日のように濃厚で、大量の良質な食事を与えられルクスはずいぶんと健康的な体になった。顔色も大変良い。
ただそれは少し前の話で、ここ2週間のルクスは絶食状態だった。
*********************
次話で完結です。
『世界は簡単に覆る』
その言葉通り、世間は手のひらを返した。
「これは恋愛と性、生き方の指南書である」
「叙景トリックと言うにはあまりに壮大にして壮絶」
「精緻であり大胆。この作品の前ではそんな評価も陳腐である」
「さすがはベストセラー作家。これは完全なる大人向け青春小説だ。一人の作家が新しいジャンルを確立した」
ルクスもまんまとヤられたクチだった。
覚悟を決めて下巻を読み、読み終えるや「うそだ……」と翌日が仕事なのに上巻のはじめから読み返して朝を迎えた。
多くの読者が即座に二冊を読み返し、発売日翌日に寝不足を訴えるという社会現象が起きた。
「途中でケチつけてすみませんでしたぁ! オナニー小説とか思ってごめんなさい! でも前の作風も捨てないでください! お願いですからこれまでみたいな作品も書いてくださいぃ!」
下巻の発売日翌日、職場から直接ディール宅を訪れたルクスは謝罪し懇願した。
普段ならどんな作品であっても途中で作者にブチ切れる事などしない。最後まで読了してからブチ切れる。それほどまでにショックだったのだ。
ガスティール・オルソンは終わりなのか、こんな田舎で書いたからか、素人童貞を卒業してしまったからか、連日のように「食事」と称して淫行に耽ったせいではないのか。
全ては自分のせいで、多くの読者を傷つけ、裏切るような事になってしまったのではないかと。二週間前のルクスはとても正常ではいられなかったのだ。
「これまでみたいな作品も、ねぇ」
ディールは満足そうに笑んだ。
「悪くはなかったと思うんだが。『愛というほとばしり』」
「最高だったよ! クソみたいなタイトルだけどな!」
読めばわかる。バカみたいに低俗なこのタイトルの奥深さが。
読者はみな読み進むに従ってその意味を、隠された真実を知るや大きな奇声を発したという。そしてはじめのページに立ち返るのだ。
「ここでもこれぐらいのものは書けるんだが」
ディールは困ったように笑った。珍しく眉が情けなく歪んでいる。
一緒に暮らしたいと思っているディールに対し、ルクスは情報収集が容易で執筆環境の良い都会へ帰るべきだと考えている。そしてディールもそれに気付いていた。
だからディールは結果で示して見せたのだ。
承諾を請うような表情にルクスは言葉に詰まったがそのしっぽはソワソワと揺れていた。
それを見てディールはおもむろに口を開く。
「……食事にするか」
上巻の発売から二週間、ルクスはディールの家を訪れることはなかった。
ディールはルクスを想って執筆したと言った。初めてルクスの部屋を訪れた後、ホテルに戻るや執筆を開始し過去最高に筆が乗ったと実にご機嫌だった。
この騒動の原因のすべては自分にあるのではないかと猛烈なまでに不安になった。
一人の著名な作家を狂わせ、多くのファンから奪ってしまったのではないか。自分のせいでディールが批判に晒されているのではないかと思い悩み、自責でとてもではないが顔向けできなかったのだ。彼の才能の為このまま会わない方がいいのではないかとさえ思い詰めた。
ゆっくりとソファから立ち上がったディールから濃い淫気を感じたルクスは咄嗟に後ずさった。ディールのツノが大きくなっている気がする。
「僕が徹夜明けなの分かるよな? そして僕は明日も仕事だ。睡眠が必要だ」
ルクスの拒否に「む」と口をゆがめる。
「食事も必要だろう? 今後は週末の発売にならないか交渉が必要だな」
そう言いながら近付いて来るディールにルクスはたじろぐ。週末の発売は確かに非常に助かるが、そんな我が儘が通るのか。
いや、今はそれより。
「ダイエット中だから今日はいいよ」
「同時に激しい運動もしてるんだから太らないだろう。もっと肉をつけてもいいくらいだ」
抵抗したが簡単にいなされる。
確かに「太りそうだ」と思ってしまうくらいの食生活を送らされている。
毎日のように濃厚で、大量の良質な食事を与えられルクスはずいぶんと健康的な体になった。顔色も大変良い。
ただそれは少し前の話で、ここ2週間のルクスは絶食状態だった。
*********************
次話で完結です。
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