腹ペコ淫魔のヤケ酒に媚薬

志野まつこ

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【本編】腹ペコ淫魔のヤケ酒に媚薬

3、空きっ腹に媚薬

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「ではいい夜を。気をつけて」
 飲みかけのグラス二つを振って見せられた女性達はそこで気付いたようだ。残念そうな顔で女性二人に引き止められたディールだがそのままルクスの席に戻って来る。
 巨根だもんな。気の毒に、ハナから諦めてるのか。
 ルクスはなんとも切なくなった。
「大人だね」
 戻ったディールに努めて明るく声を掛けると、彼はグラスの香りを確かめるや顔をしかめて遠ざけた。
「分かるの? お医者さん? 刑事さんとか?」
 ディールにはそんな雰囲気があったが当の本人は「まさか。もっと普通の職業だよ」と小さく笑って否定してもとあった自分のグラスを傾けた。まるで口直しでもするかのように。

「インキュバスもさ、コレと似たようなもんじゃん?」
 ルクスはテーブルに頭を乗せて頬を冷やすようにしながらディールが持ち帰ったグラスを眺める。混入されたのは媚薬のたぐいであろう。
「前後不覚にしてさ、同意も何もあったもんじゃない。あんな若い子に」
 彼女達は成人したばかりに見えた。
 ルクスの吐き捨てるようなその言い方はまるで自分を責めるようだった。
「あー愛が無いのもぉヤだぁ、僕の事ちゃんと見て欲しいぃぃ……」
 それは普段は口に出来ない、ルクスの心からの願いだった。
「タダでやりたいって事か」
「いちゃらぶしたいって言ってんの!」
「冗談だ」
 いい声で小さく笑ったディールに猫っ毛をぐしゃぐしゃとかき回される。雑な手付きに思えるのに撫でられるのが気持ちがいい。ディールの気遣いが感じられた。
 照れくさくなって視覚に入るグラスに手を伸ばす。それは女性が間違って飲まないようにする為、また証拠の為にとディールが持って来た媚薬入りのグラスだ。

「こんなモン僕に効くかーい」
 ディールが止める間もなかった。
 口に入れた瞬間感じられたのは甘さ。それが喉を焼くようにして胃へと落ちる。
 一気に呷ったグラスをタンッとテーブルに戻すのと、ルクスの全身がかっと熱くなるのは同時だった。
「バカ! 龍殺しドラゴンキラーだぞ!」
 媚薬の名前は大変物騒なものだった。

 ◆◇◆

 死のう。
 死ぬしかない。
 はじめこそルクスはそう思った。

 このままではムラムラのあまり手当たり次第襲ってしまいそうだ。性質の悪すぎるキス魔になる。ヘタしたら本能のまま食い散らかしかねない。
 娼館帰りで食後とはいえルクスは万年欠食淫魔。食事をしたところで満腹にはならない。
 たいていの媚薬なら「アハハウフフ」とご機嫌になるくらいで済むが、強力な媚薬をすきっ腹に入れたのはマズかったらしい。

「くそ、マジかよ! ばか、おま、ダダ漏れ、あぁっ俺までかよ、二階」
 ひどく慌てた声がすぐそばから聞こえた。慌てていてもいい声だった。
 視界がやわらかいピンク色で何も見えないが、感じる人肌が恐ろしく心地よい。
 ドンドンという音と振動にルクスは階段を上って運ばれているらしいことを悟った。
 ふわふわする。なんだか楽しくなって来たルクスはベッドに転がされるや両腕を空に伸ばした。ふよふよと楽し気にしっぽが宙で揺れている。

「でぃるぅぅ、ちんこ見せてぇ」
「そんなモン見ても治まらねぇぞ。金玉ン中空っぽになるまで出すしかないからな。見ないでやるから頑張れ」
「平気だってぇ、それよりご自慢のデカい息子見せてよー、なに、実はってた? 大したこと無かったりする? オーガさんのデカブツ見せてよぉ、見たいぃぃ」
 淫魔には龍殺しドラゴンキラーはおかしな方向に作用してしまったらしい。そう判断したディールは頭を抱えたくなった。ただでさえルクスが身体から発する淫靡な甘い香りに頭が痺れそうになっているのだ。

「くそっ」
 股間が張り詰めて痛い。ここが宿併設の酒場で良かった。
 咄嗟に二階の部屋を取ったディールは一つしかない大きなベッドに広く足を開いて腰を掛け、今度こそ頭を抱えて耐える姿勢を取る。部屋を出るべきだろうがルクスを一人置いて出ると容態が急変したり、外に出て他に被害者が出るかもしれない。ただでさえ男に見せろなどと言っているのだ。性別も関係なしに襲う可能性も考えられる。

 伸縮性のない生地のスラックスがひどく窮屈で苦しい。拷問のようだ。
 見せろと言うのだから、出してもいいかと思ったディールもこの時点でルクスの放つ淫気にだいぶ当てられていた。二次災害である。

「わぁお」
 スラックスを緩めるや転がっていたはずのルクスがひょっこりと顔を出す。晒す気はなかったのにルクスが人差し指を下着に引っ掛けあっさりと亀頭を露出させてしまう。
 凶悪なまでに太くして長大。傘高な姿と黒ずんだ竿に太い血管が浮いている様がまたひどく獰猛に見える。

「えっぐ! これは確かにえぐい! ヤバい! 子供の腕みたいじゃん! ていうか、獣!? ディール股間に魔獣飼ってんの!? よくこんなのぶら下げて歩けるね!?」
 子供か。
 興奮気味にしっぽを乱舞させ、背中の羽根をパタパタと拍手するように動かせるルクスに呆れる。
 そして同時に「もういいか」と思った。

「黒くてかっこいー、ビンビンじゃん、強そー・ていうか、あっつっ! 暑い! 僕も脱ぐ!」
 ヒーローに盛り上がる幼児のような事を言ったかと思えば、ルクスはあっという間に全裸になった。
 完全に勃起している男の前で全裸。
 そういう事かとディールは受け止めた。彼の脳もまた完全に機能を停止している。

「男の精気でも腹が膨れるのか試してみるか」
「よっ、デカブツ王! ナイスアイデア!」
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