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【本編】腹ペコ淫魔のヤケ酒に媚薬
2、ヤケ酒に完成する淫魔
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「娼館では僕めちゃくちゃモテるんだよ! なんでか分かる!? 僕となら好みの相手とか好きな相手とHしてるようなもんだからね!」
酔ったルクスは一人で語り続けている。店はほぼ満員で騒がしく、ルクスが騒いでも誰も気にしない。
出張中だと言っていたので店はルクス決めた。
格安ではないが美味しくてとても量が多い店だ。ディールと名乗ったオーガは佇まいがそれとなく上品で落ち着いている。ディールから飲みを提案された事もあり、懐に問題はなさそうだ。なにより娼館代が丸々残っているはずだし、そもそもルクスは少食だ。
インキュバスであるルクスの主食は女性との淫行や性交で得られる精気である。
「なんで娼館なんだ?」
ディールは心底不思議そうに尋ねる。
「勝手に淫夢見させてヤっちゃうなんて犯罪じゃん!」
そういう種族なのだから罪に問われる事はない。しかしながらルクス青年は大変真面目で優良なヘタレだった。もう27歳になるにもかかわらず。
そしてルクスは娼館で娼婦の望むまま好みの夢を見させ、その対価に食料補給をしている。
「僕、エンゲル係数ものすっごい高いからね! いい夢見させてね、ってリクエストしてくるクセにお値段変わらないからね!? おかしくない!? なんでこっちがサービスしてんのってなるじゃん! でも背に腹は代えられないからお望み通り見せてあげるよ! これ僕ぜったい足元見られてるよね!? あ、心配しなくても僕が食べた分はちゃんと払うから! そりゃ向こうは好みの相手だからすんごいサービスしてくれるし盛り上がってくれるけどさ!」
「いいじゃないか」
「良くないよ! 別の男の名前呼ばれたりするんだよ!?」
あー、とディールはやっと納得した。それは確かに嫌だろうと同意する。
「恋人を作ればいいじゃないか」
「インキュバスはモテないんだよ!」
ルクスのそれは魂の叫びだ。すでに酔いが回り始めている。
170センチにぎりぎり届かない身長と極々普通のルックスだ。絵にかいたような平平凡凡顔でアピールできるのは清潔感位のものだと自覚しており常に短めの髪で爪や着る物にも気を遣っている。
無害な好青年と言えば聞こえはいいが、「不快感を抱かれない」という最低条件をクリアしただけとも言える。
「ディールは? 娼館なんか行かなくてもモテるでしょ」
「モテるな」
即答かつ断言にルクスは大変腹が立った。机の下でしっぽが苛立つように揺れた。
「規格が大きすぎて相手を選ぶんだ。同じ種族でも無理だった。これまで出来たのはオーグリスの娼婦一人だけだ。おかげで経験人数一人の素人童貞だぞ」
ディールは淡々と言いながら手の中のグラスを弄ぶようにして琥珀色の強い酒に浮かぶ氷をカランと音をさせ、対するルクスは咄嗟に唇に当てていたグラスを遠ざけた。口に酒を含んでいたら絶対に吹き出していた。危ないところだった。
すげぇ。かっけぇ。
普通の男なら隠したがりそうな事を赤裸々に告白する大人の男の姿にルクスは素直にそう感じた。もう酔いが回っている。
「そう言えばオーグリスのプロのお姉さんって見た事ないかも。そんなに少ないの?」
「需要が無いからな。大柄だから事に及んだところで普通の男には具合が微妙で人気が無いんだ。自分が粗チンだと思うのは嫌だろ」
なるほど。それはつらかろう。
ルクスもまたひどく納得した。
同時に「プロ厨じゃなかったのか」とも思った。
「そんなにカッコイイのに人生うまくいかないもんなんだね」
しんみりとなってしまい、なんとなく顔を上げふと隣の席に目を留める。
そこではごく若い二人の女面鳥身に男二人が声を掛けた所だった。男達はにこやかで、こういった飲み屋では特別変わった光景ではない。しかしインキュバスであるルクスは男達からひどく厭な雰囲気を感じ取った。
「どうした?」
ディールの呼びかけに答えずルクスは顔を戻す。視線だけは隣の席に向けたままだ。
「アイツら……やめろ、顔向けるなよ」
ディールがチラリと視線だけそちらに向けた時、一人の男が女性達の気を引く間にもう一人が女性の飲み物に何かを入れる所を目にした。
そっと立ち上がろうとするルクスの腕をディールの大きな手がつかむ。代わるようにディールがそちらへと向かった。
「こんばんは。旅行で来ているんですが」
ナンパ真っ最中だった中に笑顔で割り込む美丈夫に彼等は一瞬呆気にとられる。
ディールは目配せでウェイターを呼んでから「一杯ご馳走させてください」とにこやかに告げ、それとなく薬物の入ったグラスを手元に寄せる。立ったままの男二人にかまうこと無く地元の事を尋ねながらディールは自然ともう一方のグラスも回収した。
慣れているな。ルクスはそれを眺めながらそう感じた。ごく自然な配慮の行き届いた大人の所作にしか見えなかった。
ウェイターはすぐに新しい酒と用心棒代わりの体格のいいスタッフを伴って戻って来る。
男二人は「あー、じゃあまた」などと言いながら勘定に向かったが、ガタイのいいオークがその後ろに貼り付いて行った。きっとそのまま静かにバッグヤードや店の裏に連れて行かれ警察に引き渡されるだろう。
酔ったルクスは一人で語り続けている。店はほぼ満員で騒がしく、ルクスが騒いでも誰も気にしない。
出張中だと言っていたので店はルクス決めた。
格安ではないが美味しくてとても量が多い店だ。ディールと名乗ったオーガは佇まいがそれとなく上品で落ち着いている。ディールから飲みを提案された事もあり、懐に問題はなさそうだ。なにより娼館代が丸々残っているはずだし、そもそもルクスは少食だ。
インキュバスであるルクスの主食は女性との淫行や性交で得られる精気である。
「なんで娼館なんだ?」
ディールは心底不思議そうに尋ねる。
「勝手に淫夢見させてヤっちゃうなんて犯罪じゃん!」
そういう種族なのだから罪に問われる事はない。しかしながらルクス青年は大変真面目で優良なヘタレだった。もう27歳になるにもかかわらず。
そしてルクスは娼館で娼婦の望むまま好みの夢を見させ、その対価に食料補給をしている。
「僕、エンゲル係数ものすっごい高いからね! いい夢見させてね、ってリクエストしてくるクセにお値段変わらないからね!? おかしくない!? なんでこっちがサービスしてんのってなるじゃん! でも背に腹は代えられないからお望み通り見せてあげるよ! これ僕ぜったい足元見られてるよね!? あ、心配しなくても僕が食べた分はちゃんと払うから! そりゃ向こうは好みの相手だからすんごいサービスしてくれるし盛り上がってくれるけどさ!」
「いいじゃないか」
「良くないよ! 別の男の名前呼ばれたりするんだよ!?」
あー、とディールはやっと納得した。それは確かに嫌だろうと同意する。
「恋人を作ればいいじゃないか」
「インキュバスはモテないんだよ!」
ルクスのそれは魂の叫びだ。すでに酔いが回り始めている。
170センチにぎりぎり届かない身長と極々普通のルックスだ。絵にかいたような平平凡凡顔でアピールできるのは清潔感位のものだと自覚しており常に短めの髪で爪や着る物にも気を遣っている。
無害な好青年と言えば聞こえはいいが、「不快感を抱かれない」という最低条件をクリアしただけとも言える。
「ディールは? 娼館なんか行かなくてもモテるでしょ」
「モテるな」
即答かつ断言にルクスは大変腹が立った。机の下でしっぽが苛立つように揺れた。
「規格が大きすぎて相手を選ぶんだ。同じ種族でも無理だった。これまで出来たのはオーグリスの娼婦一人だけだ。おかげで経験人数一人の素人童貞だぞ」
ディールは淡々と言いながら手の中のグラスを弄ぶようにして琥珀色の強い酒に浮かぶ氷をカランと音をさせ、対するルクスは咄嗟に唇に当てていたグラスを遠ざけた。口に酒を含んでいたら絶対に吹き出していた。危ないところだった。
すげぇ。かっけぇ。
普通の男なら隠したがりそうな事を赤裸々に告白する大人の男の姿にルクスは素直にそう感じた。もう酔いが回っている。
「そう言えばオーグリスのプロのお姉さんって見た事ないかも。そんなに少ないの?」
「需要が無いからな。大柄だから事に及んだところで普通の男には具合が微妙で人気が無いんだ。自分が粗チンだと思うのは嫌だろ」
なるほど。それはつらかろう。
ルクスもまたひどく納得した。
同時に「プロ厨じゃなかったのか」とも思った。
「そんなにカッコイイのに人生うまくいかないもんなんだね」
しんみりとなってしまい、なんとなく顔を上げふと隣の席に目を留める。
そこではごく若い二人の女面鳥身に男二人が声を掛けた所だった。男達はにこやかで、こういった飲み屋では特別変わった光景ではない。しかしインキュバスであるルクスは男達からひどく厭な雰囲気を感じ取った。
「どうした?」
ディールの呼びかけに答えずルクスは顔を戻す。視線だけは隣の席に向けたままだ。
「アイツら……やめろ、顔向けるなよ」
ディールがチラリと視線だけそちらに向けた時、一人の男が女性達の気を引く間にもう一人が女性の飲み物に何かを入れる所を目にした。
そっと立ち上がろうとするルクスの腕をディールの大きな手がつかむ。代わるようにディールがそちらへと向かった。
「こんばんは。旅行で来ているんですが」
ナンパ真っ最中だった中に笑顔で割り込む美丈夫に彼等は一瞬呆気にとられる。
ディールは目配せでウェイターを呼んでから「一杯ご馳走させてください」とにこやかに告げ、それとなく薬物の入ったグラスを手元に寄せる。立ったままの男二人にかまうこと無く地元の事を尋ねながらディールは自然ともう一方のグラスも回収した。
慣れているな。ルクスはそれを眺めながらそう感じた。ごく自然な配慮の行き届いた大人の所作にしか見えなかった。
ウェイターはすぐに新しい酒と用心棒代わりの体格のいいスタッフを伴って戻って来る。
男二人は「あー、じゃあまた」などと言いながら勘定に向かったが、ガタイのいいオークがその後ろに貼り付いて行った。きっとそのまま静かにバッグヤードや店の裏に連れて行かれ警察に引き渡されるだろう。
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