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勇者カイルの過去と現在(旧題)忍者は見た
オークと買い物をするカイル様のご様子(護衛視点)
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こちらは書籍内でハルが初めて陛下と会った直後の話となります。
魔力切れを起こしたカイルの護衛についた「忍者さん」視点です。
**************
バドルス様からカイル様と「服を着たオーク」の護衛の指示を受け、御者を装って二人を街へとお送りした。
カイル様が馬車を降りるなり人々から歓喜のどよめきが沸き起こる。次に大きな体で馬車のドアをくぐるように出てきたのはオークだ。歓声は悲鳴に変わるがカイル様が一瞥しただけでそれは収まった。
強いまなざしではない。ごく静かな冷めた視線。それだけで人々は息を飲み、口を噤んだ。わずかに空気が張り詰める。
しかし次の瞬間、カイル様が振り返ってオークを見上げるとともにその空気が一瞬で霧散した。
「ほら、こっちだ」
穏やかな笑顔でオークに手を差し出す姿は女性をエスコートするかのようだ。
だがオークはにぎやかな街に夢中でそんなカイル様の声が聞こえなかったらしい。その手を取ることはないままカイル様が示した方向へ移動を始め、カイル様はオークの隣に並んだ。
なんという精神力だろう。
魔力が切れかかっているのにそれをおくびにも出さない。
これが魔王を斃した人間かと改めて圧倒された。
常に冷静沈着。もとより普段から物静かな青年だった。
人と慣れ合うことも少なく、表情の変化の乏しい美しい顔。生気が欠けたようにさえ見える整い過ぎた顔は実際血色が悪かった。
彼はいつもなにかを見つめていたように思う。今思い返すと、それでいて何かを諦めていたようでもあった。
魔王を討った代償は大きかった。彼は半月の間、意識の戻らないまま生死の間をさまよい、意識が戻ってからもしばらく視力が失われたという。
ようやく回復を果たした彼に国王は褒章としてミランダ王女と王位の授与を宣言した。
しかし彼がそれを受ける事はなかった。
それどころか賞金も地位も領地も断った。
『俺の望みは誰にもかなえられない』
彼はただ魔族・魔物の残党狩りを望んだ。
平和を取り戻すための献身と人々は彼をなお一層尊んだが、その姿には狂気さえ感じさせられ、一部では常軌を逸していると言われた。
きっと勇者は愛する大切な人間を失ったのだ。魔王を斃してなおその傷が癒される事はなく、生き残った魔族を憎悪し復讐に生きている。
深く事情を知る者は彼を敬うとともにそう憐れんだ。
かつて魔族に襲われた私の村にいち早く駆け付け、救ってくれたのは彼だった。
村だけじゃない。世界を救った。
どうか、少しでも彼に光が差しますように。
そう願い、祈って生きてきた。
「ハル」
明るい声で彼がオークを呼ぶ。
衣服を着たオークが勇者の仕事を手伝っている事は広く知れ渡り、ミランダ陛下の成立した「衣服を着たオーク保護法」も手伝ってオークを悪しざまに罵るような声はない。それでも人々の目には恐れが滲む。
魔力が底をつきかけた体でそんな視線からオークを守る姿はかつてを彷彿とさせる。しかしその表情は雲泥の差だ。
彼は「絶対に手に入らない」と自ら宣言し、諦めたものを手に入れたのかもしれない。
**************
ミランダ陛下「オークを強姦する許可なんざ出せるかぁぁぁ! 屋敷も使用人も全部手配するからせめて家に住め! テメェがなんにも受け取らないと王族が反感食うんだよ!」
魔力切れを起こしたカイルの護衛についた「忍者さん」視点です。
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バドルス様からカイル様と「服を着たオーク」の護衛の指示を受け、御者を装って二人を街へとお送りした。
カイル様が馬車を降りるなり人々から歓喜のどよめきが沸き起こる。次に大きな体で馬車のドアをくぐるように出てきたのはオークだ。歓声は悲鳴に変わるがカイル様が一瞥しただけでそれは収まった。
強いまなざしではない。ごく静かな冷めた視線。それだけで人々は息を飲み、口を噤んだ。わずかに空気が張り詰める。
しかし次の瞬間、カイル様が振り返ってオークを見上げるとともにその空気が一瞬で霧散した。
「ほら、こっちだ」
穏やかな笑顔でオークに手を差し出す姿は女性をエスコートするかのようだ。
だがオークはにぎやかな街に夢中でそんなカイル様の声が聞こえなかったらしい。その手を取ることはないままカイル様が示した方向へ移動を始め、カイル様はオークの隣に並んだ。
なんという精神力だろう。
魔力が切れかかっているのにそれをおくびにも出さない。
これが魔王を斃した人間かと改めて圧倒された。
常に冷静沈着。もとより普段から物静かな青年だった。
人と慣れ合うことも少なく、表情の変化の乏しい美しい顔。生気が欠けたようにさえ見える整い過ぎた顔は実際血色が悪かった。
彼はいつもなにかを見つめていたように思う。今思い返すと、それでいて何かを諦めていたようでもあった。
魔王を討った代償は大きかった。彼は半月の間、意識の戻らないまま生死の間をさまよい、意識が戻ってからもしばらく視力が失われたという。
ようやく回復を果たした彼に国王は褒章としてミランダ王女と王位の授与を宣言した。
しかし彼がそれを受ける事はなかった。
それどころか賞金も地位も領地も断った。
『俺の望みは誰にもかなえられない』
彼はただ魔族・魔物の残党狩りを望んだ。
平和を取り戻すための献身と人々は彼をなお一層尊んだが、その姿には狂気さえ感じさせられ、一部では常軌を逸していると言われた。
きっと勇者は愛する大切な人間を失ったのだ。魔王を斃してなおその傷が癒される事はなく、生き残った魔族を憎悪し復讐に生きている。
深く事情を知る者は彼を敬うとともにそう憐れんだ。
かつて魔族に襲われた私の村にいち早く駆け付け、救ってくれたのは彼だった。
村だけじゃない。世界を救った。
どうか、少しでも彼に光が差しますように。
そう願い、祈って生きてきた。
「ハル」
明るい声で彼がオークを呼ぶ。
衣服を着たオークが勇者の仕事を手伝っている事は広く知れ渡り、ミランダ陛下の成立した「衣服を着たオーク保護法」も手伝ってオークを悪しざまに罵るような声はない。それでも人々の目には恐れが滲む。
魔力が底をつきかけた体でそんな視線からオークを守る姿はかつてを彷彿とさせる。しかしその表情は雲泥の差だ。
彼は「絶対に手に入らない」と自ら宣言し、諦めたものを手に入れたのかもしれない。
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ミランダ陛下「オークを強姦する許可なんざ出せるかぁぁぁ! 屋敷も使用人も全部手配するからせめて家に住め! テメェがなんにも受け取らないと王族が反感食うんだよ!」
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