30 / 48
米を作ろう
しおりを挟む
「あらぁん、稲荷ちゃんてば、アタシの気持ちに応えてくれる気になったのぉん?」
両面宿儺がやってきた。話には聞いていたが想像以上に筋骨隆々である。今の私ではかなり見上げる格好になる。大体身長2メートルぐらいだろうか? 着ているのは女物の着物らしいが正直私にはよく分からない。顔も手足も普通の人間と同じ数だ。
「おぬしに試練を与えてやろう。それで妾にふさわしい男か見定める。これが受け入れられぬならば二度と妾に近づくことは許さぬ」
稲荷はこれまでとはまるで違う厳しい口調で両面宿儺に告げる。だが両面宿儺は笑顔を見せた。
「いいわよぉん。どんな試練でも愛の力で乗り越えてみせるわぁん」
いちいち喋り方が鬱陶しいな。確かにこれでは稲荷が嫌がるのもわかる。
「では幽世へ参るぞ。明連殿、頼む」
明連が幽世の扉を開き、試練の場所に向かう。余談だがこれでも稲荷から依頼料が支払われたので明連は機嫌が良さそうだ。
「よーし、美味しいお米を作るぞ!」
オリンピックがやる気に満ちあふれている。
「まあ試練はあちらに任せて、我々は米作りを楽しむことにしようか」
どうせ稲荷と両面宿儺の問題は当事者だけで解決してもらえばいい。私はオリンピックに稲作のやり方を教えることにした。
「この田で米を作るがいい。その姿を見て妾がお主を見定める」
「お米を作ればいいのねぇん? お安い御用よぉん!」
両面宿儺は自信があるようだ。稲荷はかなりこだわりがあるそうだが、分かっているのだろうか?
何はともあれ、我々は稲荷の用意した種籾を手にそれぞれの田んぼに向かうのだった。
「まずは塩水選だ」
「えんすいせん?」
「種籾は全てを植えればいいというものではない。中には弱いものも丈夫なものもある。それを選り分けるために塩水に入れて浮いたものを取り除くのだ。胚乳が多く重い籾が良い籾だからな」
「へー」
うるち米の塩水選は比重1.13で行う。水20リットルに対し塩5キログラムを入れればいいので分かりやすい。できた塩水に種籾を入れてかき混ぜてやると軽い種籾が浮いてくるのだ。
「おー、浮いてきた!」
「上手い上手い!」
女子二人がワイワイと賑やかに作業をする。こういうのも旅行らしくていいかもしれない。
「あっはぁ~ん、選別が終わったわぁん!」
両面宿儺も同じように塩水選をしているようだ。
「塩水選をしたらかならず種籾を水で洗うんだ。塩分は発芽障害の元になるからな」
「わかったわぁん!」
いや、お前には言ってない。
「沈んでた種籾を田んぼにまけばいいのね!」
「いや、その前に芽を出させる。田植えで苗を植えているのを見たことはないか?」
「そういえば!」
「取り除いた軽い種籾はどうするの?」
「スズメにでも食わせてやればいい」
こんな調子でこちらは完全に稲作体験講習と化しているのだが、稲荷はこの様子をどう思っているのだろうか? 彼女に目を向けると、ただ黙って両面宿儺含め我々の様子を眺めている。その目は真剣そのものだ。
やはり稲作には厳しいのだろう。
「さて、苗が育った。田植えの時期だ」
幽世の時間の流れは現世と違う。すぐに育った苗をもって田んぼに向かった。
「苗の植え方は環境によって変わる。よく育つ土壌では苗の密度を少なめにしてやった方がいい」
「ひー、これだけ植えると腰が痛いー!」
「どんどん植えるわよぉ~ん!」
騒がしく田植えを終えると、すぐに水入れだ。稲荷は水位にうるさいらしいからここからが勝負だろう。
「水深は5センチにするか。この後はしっかり根付くまで除草などをして待つ」
「河伯君、やっぱり女装するんだ!」
「……草を抜け」
分かっていてわざと言っているな?
「苗がしっかり根付いたら水位を3センチ程度まで下げ、分げつを促す」
「分げつって?」
「枝分かれして一ヶ所から数本の稲が伸びてくることだ」
そしてまた田んぼの様子を見ながら待つ。
「ぎゃー雑草がー!」
「いやぁ~ん、虫が湧いたわぁ~ん」
「地道に手入れをしてやれ。いい米を作るためには手をかけることが大切だ」
終始このような感じで騒ぎながら米の収穫までを終えた。幽世で行ったおかげで、体感時間としては半日程度だった。現世では一時間も経っていないだろう。
「では精米して終わりだな。精米歩合は好みで決めろ」
「面倒になったから玄米のまま!」
「五分づきがいいわぁん!」
分かりやすい奴等だな。では私はしっかり精米して白米にしよう。
「出来たようだの、ご苦労じゃった。そなたらは休んでおるとよい。明連殿、炊飯を手伝っておくれ」
「わかった。米を炊くぐらいなら私でもできるわ」
稲荷が明連と共に米を炊く。僕の狐も走り回って器用に食卓の準備をしている。米の出来はどうだろうか?
「まずは五輪殿の作った玄米をいただくとするかの」
「いただきまーす!」
湯気が立つ玄米を口に運ぶ。ひと噛みすると、確かな歯ごたえと共に口の中に豊かな香りとほのかな甘みが広がった。これは……。
「美味い!」
オリンピックが自分の作った米の出来に満足して一気にかきこんでいった。うむ、初心者が作った米とは思えない美味さだ。
「ふむ、素晴らしい米だの。店に並んでいてもおかしくない出来だ」
「玄米って意外と食べやすいのね」
「やっぱり玄米は香りがいいわねぇん」
皆満足している。もう農家になったらいいのではないか?
「さて、では次は両面宿儺の五分づき米をいただこう」
そっちを先に食べるのか? 試練の結果はどうなるのだろうか。
狐が運んできた米はいい匂いを漂わせている。申し分ない出来だと思うが、どうか?
「う~ん、美味しいぃん!」
両面宿儺は自分の作った米に舌鼓を打っている。これは精米歩合が違うので比較に迷うが、オリンピックの米よりいい出来のようだ。
「いい出来じゃ。おぬしの心意気、しかと受け取ったぞ」
「ということは……?」
求婚を受け入れるのか。
「だが、この程度で妾の夫になれると思うなよ。とはいえ、言動からは伝わらないお主の真剣さは米作りを通して見えてきた。友として接することは認めようぞ」
「きゃ~ありがとぉん! まずはお友達からねぇん」
ふむ、いい落としどころなのではないだろうか。今日一日共に過ごして、両面宿儺は喋り方以外はまともな男だと感じた。伝承では凶賊という話だが、マレビトの彼はそんなことはなさそうだ。
「おめでとう、スクナちゃん!」
なんだその呼び方は。さすがにこの大男をちゃんづけで呼ぶのはオリンピックぐらいだろう。
「では最後に河伯殿の作った米をいただこう」
そっちもやるのか。三杯目はきつくないだろうか? 狐が運んできた米は白く輝いている。皆で一斉に口に運んだ。
「うっまーーい!! ご飯をおかずにご飯が食べられるよ!」
オリンピックが吠えた。うむ、我ながら良い出来だ。やはり米はこうでなくてはな。
「凄い、こんな美味しいお米食べたことないわ」
明連も喜んでくれている。これは頑張ったかいがあったな!
「うう、悔しいけど完敗だわぁん」
別に勝負していたわけではないのだが。
「さすがは河伯殿! 黄河文明を支えた太古の神は格が違ったのう」
稲荷からも褒められた。今回は私も良いところを見せられたのではないだろうか?
和やかな空気のまま、幽世から戻って来るのだった。
両面宿儺がやってきた。話には聞いていたが想像以上に筋骨隆々である。今の私ではかなり見上げる格好になる。大体身長2メートルぐらいだろうか? 着ているのは女物の着物らしいが正直私にはよく分からない。顔も手足も普通の人間と同じ数だ。
「おぬしに試練を与えてやろう。それで妾にふさわしい男か見定める。これが受け入れられぬならば二度と妾に近づくことは許さぬ」
稲荷はこれまでとはまるで違う厳しい口調で両面宿儺に告げる。だが両面宿儺は笑顔を見せた。
「いいわよぉん。どんな試練でも愛の力で乗り越えてみせるわぁん」
いちいち喋り方が鬱陶しいな。確かにこれでは稲荷が嫌がるのもわかる。
「では幽世へ参るぞ。明連殿、頼む」
明連が幽世の扉を開き、試練の場所に向かう。余談だがこれでも稲荷から依頼料が支払われたので明連は機嫌が良さそうだ。
「よーし、美味しいお米を作るぞ!」
オリンピックがやる気に満ちあふれている。
「まあ試練はあちらに任せて、我々は米作りを楽しむことにしようか」
どうせ稲荷と両面宿儺の問題は当事者だけで解決してもらえばいい。私はオリンピックに稲作のやり方を教えることにした。
「この田で米を作るがいい。その姿を見て妾がお主を見定める」
「お米を作ればいいのねぇん? お安い御用よぉん!」
両面宿儺は自信があるようだ。稲荷はかなりこだわりがあるそうだが、分かっているのだろうか?
何はともあれ、我々は稲荷の用意した種籾を手にそれぞれの田んぼに向かうのだった。
「まずは塩水選だ」
「えんすいせん?」
「種籾は全てを植えればいいというものではない。中には弱いものも丈夫なものもある。それを選り分けるために塩水に入れて浮いたものを取り除くのだ。胚乳が多く重い籾が良い籾だからな」
「へー」
うるち米の塩水選は比重1.13で行う。水20リットルに対し塩5キログラムを入れればいいので分かりやすい。できた塩水に種籾を入れてかき混ぜてやると軽い種籾が浮いてくるのだ。
「おー、浮いてきた!」
「上手い上手い!」
女子二人がワイワイと賑やかに作業をする。こういうのも旅行らしくていいかもしれない。
「あっはぁ~ん、選別が終わったわぁん!」
両面宿儺も同じように塩水選をしているようだ。
「塩水選をしたらかならず種籾を水で洗うんだ。塩分は発芽障害の元になるからな」
「わかったわぁん!」
いや、お前には言ってない。
「沈んでた種籾を田んぼにまけばいいのね!」
「いや、その前に芽を出させる。田植えで苗を植えているのを見たことはないか?」
「そういえば!」
「取り除いた軽い種籾はどうするの?」
「スズメにでも食わせてやればいい」
こんな調子でこちらは完全に稲作体験講習と化しているのだが、稲荷はこの様子をどう思っているのだろうか? 彼女に目を向けると、ただ黙って両面宿儺含め我々の様子を眺めている。その目は真剣そのものだ。
やはり稲作には厳しいのだろう。
「さて、苗が育った。田植えの時期だ」
幽世の時間の流れは現世と違う。すぐに育った苗をもって田んぼに向かった。
「苗の植え方は環境によって変わる。よく育つ土壌では苗の密度を少なめにしてやった方がいい」
「ひー、これだけ植えると腰が痛いー!」
「どんどん植えるわよぉ~ん!」
騒がしく田植えを終えると、すぐに水入れだ。稲荷は水位にうるさいらしいからここからが勝負だろう。
「水深は5センチにするか。この後はしっかり根付くまで除草などをして待つ」
「河伯君、やっぱり女装するんだ!」
「……草を抜け」
分かっていてわざと言っているな?
「苗がしっかり根付いたら水位を3センチ程度まで下げ、分げつを促す」
「分げつって?」
「枝分かれして一ヶ所から数本の稲が伸びてくることだ」
そしてまた田んぼの様子を見ながら待つ。
「ぎゃー雑草がー!」
「いやぁ~ん、虫が湧いたわぁ~ん」
「地道に手入れをしてやれ。いい米を作るためには手をかけることが大切だ」
終始このような感じで騒ぎながら米の収穫までを終えた。幽世で行ったおかげで、体感時間としては半日程度だった。現世では一時間も経っていないだろう。
「では精米して終わりだな。精米歩合は好みで決めろ」
「面倒になったから玄米のまま!」
「五分づきがいいわぁん!」
分かりやすい奴等だな。では私はしっかり精米して白米にしよう。
「出来たようだの、ご苦労じゃった。そなたらは休んでおるとよい。明連殿、炊飯を手伝っておくれ」
「わかった。米を炊くぐらいなら私でもできるわ」
稲荷が明連と共に米を炊く。僕の狐も走り回って器用に食卓の準備をしている。米の出来はどうだろうか?
「まずは五輪殿の作った玄米をいただくとするかの」
「いただきまーす!」
湯気が立つ玄米を口に運ぶ。ひと噛みすると、確かな歯ごたえと共に口の中に豊かな香りとほのかな甘みが広がった。これは……。
「美味い!」
オリンピックが自分の作った米の出来に満足して一気にかきこんでいった。うむ、初心者が作った米とは思えない美味さだ。
「ふむ、素晴らしい米だの。店に並んでいてもおかしくない出来だ」
「玄米って意外と食べやすいのね」
「やっぱり玄米は香りがいいわねぇん」
皆満足している。もう農家になったらいいのではないか?
「さて、では次は両面宿儺の五分づき米をいただこう」
そっちを先に食べるのか? 試練の結果はどうなるのだろうか。
狐が運んできた米はいい匂いを漂わせている。申し分ない出来だと思うが、どうか?
「う~ん、美味しいぃん!」
両面宿儺は自分の作った米に舌鼓を打っている。これは精米歩合が違うので比較に迷うが、オリンピックの米よりいい出来のようだ。
「いい出来じゃ。おぬしの心意気、しかと受け取ったぞ」
「ということは……?」
求婚を受け入れるのか。
「だが、この程度で妾の夫になれると思うなよ。とはいえ、言動からは伝わらないお主の真剣さは米作りを通して見えてきた。友として接することは認めようぞ」
「きゃ~ありがとぉん! まずはお友達からねぇん」
ふむ、いい落としどころなのではないだろうか。今日一日共に過ごして、両面宿儺は喋り方以外はまともな男だと感じた。伝承では凶賊という話だが、マレビトの彼はそんなことはなさそうだ。
「おめでとう、スクナちゃん!」
なんだその呼び方は。さすがにこの大男をちゃんづけで呼ぶのはオリンピックぐらいだろう。
「では最後に河伯殿の作った米をいただこう」
そっちもやるのか。三杯目はきつくないだろうか? 狐が運んできた米は白く輝いている。皆で一斉に口に運んだ。
「うっまーーい!! ご飯をおかずにご飯が食べられるよ!」
オリンピックが吠えた。うむ、我ながら良い出来だ。やはり米はこうでなくてはな。
「凄い、こんな美味しいお米食べたことないわ」
明連も喜んでくれている。これは頑張ったかいがあったな!
「うう、悔しいけど完敗だわぁん」
別に勝負していたわけではないのだが。
「さすがは河伯殿! 黄河文明を支えた太古の神は格が違ったのう」
稲荷からも褒められた。今回は私も良いところを見せられたのではないだろうか?
和やかな空気のまま、幽世から戻って来るのだった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件
藤岡 フジオ
ファンタジー
四十一世紀の地球。殆どの地球人が遺伝子操作で超人的な能力を有する。
日本地区で科学者として生きるヒジリ(19)は転送装置の事故でアンドロイドのウメボシと共にとある未開惑星に飛ばされてしまった。
そこはファンタジー世界そのままの星で、魔法が存在していた。
魔法の存在を感知できず見ることも出来ないヒジリではあったが、パワードスーツやアンドロイドの力のお陰で圧倒的な力を惑星の住人に見せつける!
[完結]勇者の旅の裏側で
八月森
ファンタジー
神官の少女リュイスは、神殿から預かったある依頼と共に冒険者の宿〈剣の継承亭〉を訪れ、そこで、店内の喧騒の中で一人眠っていた女剣士アレニエと出会う。
起き抜けに暴漢を叩きのめしたアレニエに衝撃を受けたリュイスは、衝動のままに懇願する。
「私と一緒に……勇者さまを助けてください!」
「………………はい?」
『旅半ばで魔王の側近に襲われ、命を落とす』と予見された勇者を、陰から救い出す。それが、リュイスの持ち込んだ依頼だった。
依頼を受諾したアレニエはリュイスと共に、勇者死亡予定現場に向かって旅立つ。
旅を通じて、彼女たちは少しずつその距離を縮めていく。
しかし二人は、お互いに、人には言えない秘密を抱えていた。
人々の希望の象徴として、表舞台を歩む勇者の旅路。その陰に、一組の剣士と神官の姿が見え隠れしていたことは、あまり知られていない。
これは二人の少女が、勇者の旅を裏側で支えながら、自身の居場所を見つける物語。
・1章には勇者は出てきません。
・本編の視点は基本的にアレニエかリュイス。その他のキャラ視点の場合は幕間になります。
・短い場面転換は―――― 長い場面転換は*** 視点切替は◆◇◆◇◆ で区切っています。
・小説家になろう、カクヨム、ハーメルンにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる