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高等部編
大公殿下からのお願い
しおりを挟む今日はリラとカーラが一緒にいてくれてよかった。鼻血を出して倒れた私を見て「持病がおありか?」と心配していたフランドル伯に、リラが「年頃の女の子にはよくあるのです」と誤魔化してくれていた。
私は毛細血管が弱いんだなー。
でも好きな人の顔が目の前にあったら誰でも興奮するでしょ?するよね?
司書さんが自身の休憩室を貸してくれたので、そこのソファに寝かせてもらった。やたらと心配されたけど、単に興奮しただけだから私は早く図書館に戻りたかったが、しばらくは大人しく休むことにした。
エリアスが選んでくれた研究書は帝国公用語で書かれていたので、時々辞書を引きつつ解読する。これでも多国語が読めるのだ。それこそ、さっきフランドル伯に言われた通り、お妃教育の賜物。
帝国公用語は、この国にいる限り必要はない。この国で使われているアルジェント語は大陸で広く使われているから、自国語が話せればたいていの人と意思疎通が出来る。むしろ社交界ではアルジェント語を使うのが慣例なので、楽と言えば楽。閑話休題。
いま読んでいる本には、大陸の魔法の歴史について書いてある。この国に限らず、大陸ではほぼ魔法が廃れているそう。宮廷魔法使いもいるけれど、王室の薬草園の管理が主な仕事で、やってることは薬剤師みたいなもの。でも魔法が廃れたかわりに、軍事技術や農業や商業が発展したとある。
帝国は島国で、基本的に異民族の移住を許してこなかった。異国は帝国の植民地であり、異民族は奴隷。そういう文化の国だから、閉鎖的で皇帝をはじめとして強い魔力を持ち続けてきたそう。
「うーん、帝国が特殊で、大陸ではどの国も似たようなものなのね。結局のところ、ごくわずかな人間しか魔法は使えない」
じゃあ、やっぱり聖女の力は希少なんだなー。あれこれ考えていると、リラが私を呼びに来た。
ガブリエルがそろそろ紋章院に戻るらしい。
というか、本当にどうして仕事をさぼってまで来たんだろうか。そう思いながら見送りに出たら、ガブリエルの方から話しかけられた。
「エリアスに頼んでついてきたのは、アリス、君に会いたかったからなんだ」
「……何か御用が?」
「うん。実はまだ内々の話なんだけど、もうすぐ僕の妹が社交界デビューする」
思いがけないガブリエルの言葉に、私はびっくりして絶句してしまった。
噂の下のお子さんって妹だったんだ……。しかも社交界デビューさせるの?王妃様は心中穏やかじゃないのでは……。荒れそうで怖い。
そういえば、ガブリエルが公爵位を賜って表舞台に出てきた後の、新年の寿ぎ・銀竜の会では、王妃様が怒りをあらわにしていた。王弟であるリオンヌ大公フィリップ殿下が「新年のおめでたい席だから」と、とりなしてくれたけれど、その年だけはいつも和やかな銀竜の会が、かなり微妙な空気になったのを『アリス』が覚えている。
翌年からは、王妃様がいつも通り振舞っておられたから、そんな雰囲気になることはなかったけど、ラファエル様も複雑だっただろうと思う。
「14歳で名をミシェルという。ミシェルはエヴルー侯爵家の養女になることが決まった」
「え?!リュカが子持ちになるの?」
思わずアホなことを口走ったが、ガブリエルは笑いながら言った。
「いや、当主の義妹になるってこと」
「ああ……そう。またリュカが忙しくなるね。それで私は何を協力したらいいのかしら?」
「エスコートは決まってるから、できれば後ろ盾になって欲しいんだ。これまで誰とも交流してこなかったし、本人が物凄く緊張している。一度お茶会に誘ってもらえる?離宮から出た事もないから」
結構、重大な役目なのでは。こんな軽く頼まれていいのかな。
「アリスならきっと大丈夫だと思ったんだ。先入観なしで接してくれるだろう?だから頼みたい」
「……わかりました。お父様とお母様に相談するわね。許可があれば正式に招待状を出します」
離宮でひとりぼっちだったお姫様か。確かに緊張するだろうな。どんな子がわからないけど、デビュー出来るのならそれなりに教育は受けたんだろう。エヴルー侯爵家の養女で、ルテール公爵令嬢が友人として振舞えば、裏ではどう思っていたとしても他の貴族たちは表向きは受け入れるだろう。
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