私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

文字の大きさ
上 下
89 / 114
高等部編

うちの弟に手を出すな!(小声)_2

しおりを挟む

(ああ、花が綺麗だ……)

「……アリス」
誰かが遠くで呼んでいる。

(赤色、黄色、ピンク色……花が咲き乱れている。美しい……)

「アリス?」
誰が私を呼ぶ声が近づいてくる。

(もう学園なんか辞めてもいいんじゃない?この国の危機に聖女の力とやらが目覚めるらしいけど、平穏無事で危機らしい危機もないし、ゲームシナリオのご都合主義ってやつで、私がいなくてもなんとかなるんじゃない?それとも学園を辞めたとしてもやっぱり私は死ぬのかな?)


「アリス!!!」


 思考から現実に呼び戻してくれたのは『クラスメイト』だった。
 私の前に立って、私の肩を掴んで、心配そうに私を見ているエリアスの緑の瞳に私が映っている。

 私は多分、錯乱してたと思う。

「エリアス、私はもうどうしていいか、わからない……」

 でなければエリアスの胸に飛び込むなんて出来なかっただろう。投げ出すように体を預けたけど、エリアスは受け止めてくれた。
 体温を感じる。鼓動の聞こえる広い胸。
 これは現実なのだ。
 どうせ一度は死んでるし、逃げずに立ち向かいたい。見苦しくても足掻きたい。だって、せっかく好きな人に会えたのだもの。

「……アリス、大丈夫か?」

 返事をしない私の肩を、心配そうに抱いてくれた。
 顔を合わせて正気に返った。

 なんぞこれ。なんだ、この状況!!!


「きゃあぁぁーーーーーーー!!!!ごめんなさいい!!!」
「いや……」

 急に至近距離で叫ばれたから耳が痛かったんだろう。エリアスの眉間に皺が寄る。
 そういえば、まだ出会って間もない頃は、こんな表情しか見せてくれなかったな。いまは、バタバタ慌てている私を見て、エリアスが少し笑っている。私は鼻血が出るかな?というくらい頭に血が上った状態で体を離すと、両手をぶんぶん振り回した。

(近い近い近い近いいいいいっ!)

「あの、ほんとーにごめんなさいいっ!」

 一歩後ろに下がったけど、さっきの温もりが体に残ってる。心臓がバクバクしてるから、また寿命が縮んだと思う。本当に心臓に悪い!

「倒れるかと思った……」
「あ、あ、あ、ありがとう。少しめまいがして。あのあの、このハンカチを貴方に返そうと修練場へ行こうとして……」

 エリアスは「ありがとう」と言い私の手からハンカチを受け取ると、それを芝生の上に広げた。

「少し休んだ方がいい。座ろうか」

(あああーーーー格好良いーーー!!)

 脳の許容範囲を超えて、私は語彙力を失った。
 言われるままにぺたんと座った。見下ろすエリアスが言った。

「辛そうだな、ここに医師を呼ぶか?」
「いえ、ありがとう」

「では、少し休もう」
「……ありがとう……」

 ありがとうしか言えない。あ、ああああああああーありがとう!
 神様、私生きます!頑張ります!
 弟が敵に回ろうと、世界全部が敵に回ろうと、私は生きます!!!

 私の隣にエリアスも腰をおろすと、エリアスが言った。

「庭園で揉め事があったと皆が騒いでいて……授業が始まっても君が教室に戻ってこないから、探しにきた。また何かあった、アリス?」
「心配して、探してくれたの……?ありがとう……」


 私はエリアスに、ソフィアと弟ジュリアンが庭園に一緒にいた事を話した。そして、それを確認していたら急にソフィアが泣き出して、アレックスが彼女を連れて行った事を。

 一場面だけ切り取れば、私がソフィアを虐めていたようにしか見えないだろう。今日は大勢の観客(※目撃者)もいたし。


「アリスはもっと周りを頼った方がいいんじゃないか?」
「ええ、そうね。……でも」

 去年、ロアンヌ嬢の件をリュカに相談した時にも言われたことだ。
 『一対一ならまだよいが、相手が複数ならこちらも味方を複数持った方がいい』
 一人でだめなら周りに相談しろ、味方を増やせ、と。

「でもね、恥ずかしながら、相談できる人が減ってしまって」

 私は情けなく笑った。オスカーとアレックスが私に向けてくるのは敵意。リュカは何となく私に好意を持ってるような言動だけど、実際は何を考えてるかわからない。サシャも好意を示してるけど、いつソフィア側につくかわからないし、安易に相談できない。
 ラファエル様は論外……。カミーユやジュリエットはソフィアが平民だから、彼女に対してやや公平さを欠いている気がする。

 私が黙っているとエリアスが言った。

「……俺は……」
「え?」
「俺ではだめか?相談相手になれないか?」

 真っ直ぐ見つめられて、私はこのまま時が止まればいいと思っていた。
 色鮮やかな花の中で、エリアスが真剣な顔で私を見ている。
 花の芳香に溺れそうだった。


「……今度、一緒に王宮図書館に来てもらえないかしら?」


 その時、私は手紙を一通書こうと決意していた。

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。 王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、 大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。 「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」 乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン── 手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

【改稿版】婚約破棄は私から

どくりんご
恋愛
 ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。  乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!  婚約破棄は私から! ※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。 ◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位 ◆3/20 HOT6位  短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

処理中です...