私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

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高等部編

人の話を聞けーー!_1

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 今日は午前中しか授業がなかったから、放課後に二人は庭園にいたんだろう。可愛いカゴに入ったランチボックスのようなものをソフィアが手に持ち、オスカーの少し後ろに立っている。
 ソフィアの、ちょっとおろおろした感じが可愛い。ルイーズお義姉ねえ様のように「守ってやらねば!」と思ってしまう。男なら、きっと尚更そう思うだろうな。


「もう私、帰るところなんだけどー……」

 私はさっき図書館から借りてきた本を盾のように胸に抱きしめて、じりじりと後ずさりしていたが、オスカーは「アリスに話がある」と言いながら近づいてきた。
 ソフィアを背に、守るようにして私の前に立ち、怒ったような声で言った。

「アリス、ソフィアが平民の出だからと言ってバカにしたのは本当か?」

「………………は? 何の事?」

 私は心の底から「は?」と言ってしまった。
 普段、学園では一応ご令嬢らしく振る舞っているのに、素が出てしまった。ポカーンとしていたと思う。

 我に返って、私は悪役令嬢なのだから「ハッ(鼻で笑う)! 何の事(せせら笑い)?」に聞こえなくもないな……と思って周りをキョロキョロ見回したが、残念ながら観客はいなかった。いても困るのだが。


「とぼけるなよ、アリス。ソフィアに向かって『下町育ちで下品で粗野だから見ていて不愉快だ』と皆の前で罵倒したと聞いたぞ」
「皆の前で罵倒? そんな酷い事……。そもそも私はそんなこと言わないわよ」

 ああ、ジュリエットと私の言った事が混ざって大げさになってる。誰がどう悪意を加えたらそう伝わるのよ……と途方にくれた。

 私は「そんなこと言わない」と事実を口にしていたけど証拠は無い。前世のようにボイスレコーダーがあればいいのにとつくづく思った。ここにジュリエットもいないから、証言もしてもらえない。オスカーの目には、何を言っても見苦しく言い訳してるように写るだろう。

「それに、その……ロレーヌさんが下品で粗野だなんて、思った事もないし……」

 恐る恐るそう説明しかけたら、ソフィアが遮るようにオスカーの腕を引いて言った。

「オスカー様、もういいんです! オスカー様が私のために怒ってくださるお気持ちだけで十分です……」
「ソフィア……」

 オスカーが振り返り、二人がハートを飛ばしながら見つめ合っている。よそでやれ。
 『アリス』が結構傷ついているから、よそでやってくれ。

 気持ちだけで十分なら、なんでオスカーを止めもせず私の所に来てるの?

 内心、そうつっこみつつ、私からソフィアを守るように立つオスカーを見ると、やはりやるせない気持ちになる。
 いつも私が、ああして守ってもらう立場だったんだよねぇ……。
 でも、誤解は解いておこうと思い、私はオスカーに話しかけた。

「あのー……聞いてる? 私、本当にそんな酷い事、思ってもないし、言ってもないから」

 見つめあっていた二人がこちらを向いた。二人同時に睨まれたからビビった。
 邪魔すんな、って顔してるから、そーっと帰っとけばよかった……地味にしんどい。


「次にまたソフィアを傷つけるような事を言ったら、いくらアリスでも許さないからな」

 そう言って、オスカーはソフィアを連れて私の横をすり抜けて、学舎の中へ消えていった。


 ……こうも話を聞いてくれないとは……。
 私は否定した。ハッキリと否定した。なのに、結局私の言い分は聞かないまま、オスカーとソフィアは、二人の世界を展開して立ち去っていった。


(うおぉい……。どうしろっていうの? ヒロインについて、ちょっとした会話だけでこんなことになるなら、強制イベント『悪役令嬢の断罪』の回避って出来ない気がする……もう駆け落ち相談しようかな……でも、きっとエリアスは来てくれない……あ、やばい、私、久々に泣きそう……)

 俯いていると足元に雫が落ちる。
 涙なのだと気づいたら止まらなくなった。

「アリス」

 急に名を呼ばれたから、びっくりして顔をあげると、ハンカチを差し出したエリアスがいた。困ったような、憐れむような表情で立っている。

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