私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

文字の大きさ
上 下
80 / 114
高等部編

一曲だけでいいから_1

しおりを挟む

「お帰りなさいませ。お嬢様……?」

 帰宅した私を、リラが不思議そうに見ている。朝はどんよりと登校したのに、ニコニコしながら帰ってきたせいだろう。カーラがリラに耳打ちしていた。

「まあ、エリアス様と同じクラスだったんですか?良かったですね、お嬢様」
「しかも、アリスって呼んでくれるようになったの~~~!」

 舞い上がって部屋で踊り狂っていたらベッドの角に足をぶつけて転んだ。痛い。だがそんな些末な事はどうでもいい。

「そして!」

 私はもったいぶってベッドに飛び乗って言った。

「一緒に踊ってくれたの~~~!」


 一緒に踊るということは、つまり手が触れるということ。
 手を繋いで、私の腰にエリアスの手が……。
 ……お、思い出したら鼻血が出そうだ……。
 というか近すぎた距離を思い出すと卒倒しそうになったから、私は背中からベッドにバタンと倒れた。そして、少女趣味なレースの天蓋を見つめながら、私はうっとり呟いた。

「エリアス……ダンスが、めちゃくちゃ上手だった……惚れ直した……」

 リラがとても驚いていた。
 それはそうだろう。学園では初等部からダンスの授業があるが、エリアスは初等部には通ってなかったのだから。

 ちなみにリラをはじめとした、分家から来て公爵家うちで働いている若い娘さん達は、侍女としての仕事の合間に、お母様と侍女頭マーゴがダンスレッスンしている。マーゴは未亡人になってしまったとはいえ、元男爵夫人だしダンスがとても上手。いつ誰と結婚するかはわからないけど、もし嫁ぎ先が貴族なら、簡単なステップくらいは踊れるようになっておいた方がいいからと、リラも頑張って練習している。



 ――医務室から庭園に戻ると、立食形式での昼食会も始まっていた。私に気づいたサシャがいつものように笑いながら「さっきのは冗談じゃないからね。少しは意識してよ?」と言い、私の隣にいたエリアスに向かって続けて言った。

「物分かりが良すぎるイイコを演じてるの疲れない?」

「……自分の役割を理解している、という事です」

「それが『物分かりが良すぎる』って言ってるんだけど。まあいいわ。あんまり油断しないことね~」

 いつものように手をひらひらさせながら、人の輪に戻っていく。サシャは男女の分け隔てだけでなく、身分も分け隔てなく接するタイプだから、もう新しい友達がたくさん出来てるみたいだった。

 オスカーはアレックスと一緒に、ソフィア、コラリィと談笑していた。あいつらは早々に攻略されるに違いない……。
 リュカの姿が見えなかったが、あとで聞いたら簡単に昼食をとったあと、もう帰宅していたそう。エヴルー侯爵家は領土も広いし分家も多いし、何より継いだばかりで仕事が山積みらしい。元々授業なんか聞く必要ないくらい学業優秀だし、学園に来る必要もない気がするが、本人が高等部まで行くと言っている。

 ラファエル様が私に気づいた様子だったから、「これが最初で最後かもしれない」と思い、私はエリアスにお願いした。

「一曲だけでいいから私と踊って欲しい」と。



しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。 王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、 大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。 「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」 乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン── 手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

【改稿版】婚約破棄は私から

どくりんご
恋愛
 ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。  乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!  婚約破棄は私から! ※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。 ◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位 ◆3/20 HOT6位  短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

処理中です...