私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

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高等部編

ヒロインちゃんとその友人、つまり敵

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 主人公ヒロインの初期設定の名前は、ソフィア・ジャンヌ・ロレーヌ。
 明るい茶色の髪に、明るいエメラルドグリーンの瞳。絶世の美人、とはいかないが可愛い顔立。小柄で小動物のような愛らしい容姿。よく笑い、何事にも一生懸命で健気。まさにヒロインだ。

 思い出した。あの賑やかな金髪の少女はコラリィ。愛称はココ。主人公ソフィアの友人で、チュートリアル要員であり、アドバイス要員。入学式で隣の席に座り、意気投合して仲良くなる。同じ寮生で最後まで主人公の味方になる……つまり、私にとっては敵。


「うわ、なんか私睨まれてない?やばーこわー」
「ココ、そんなにじろじろ見てたら失礼だよ」

「そうだね~こっわーい。ねえソフィア、さっきの式典で王子様見た?超かっこいいよね!歓迎会で話せるかな~」
「王太子殿下は穏やかで素敵な方らしいね。でも平民なんか相手にされないよ」

 そう言ってソフィアは困ったような顔をしていたが、その顔も可愛かった。

「そっかなー?同じ学園生活してたらチャンス有りそうじゃなーい?」

 そんな会話を、ジュリエットは不愉快そうに聞いていた。

「殿下に対して不敬な……」
「本当に。婚約者のアリス様を差し置いて、失礼ですわね」

 そのカミーユの言葉は誤解を招く! と思って、私はすぐに否定した。

「カミーユ、私は正式な婚約をしてませんし、身分は関係ないですわ。それこそあの子が言う通り、見初められることもあるかも……」

 私はそう言ったが、ジュリエットは納得しなかったようだった。コラリィに向かって歩み寄るとこう言った。

「あなた、さっきから王太子殿下に対して不敬ですわ。それに、殿下にはアリス様という婚約者がおられます。失礼よ」

(おっとーージュリエットやめてーー! ヒロイン達に絡まないでえええ!)
 心の中でそう叫んでいたけど、どうしようもなく、雰囲気が険悪になっていく。

「えー?噂の公爵令嬢?その人も学園にいるの?どこにいるの?」
「こちらに」

 そう言ってジュリエットが手のひらで私を指し示す。
 その「こちらにおられる方をどなたと心得る」みたいな紹介の仕方やめてえええ!

 やりとりは皆が聞いていたんだろう。平民のグループの皆から、急に注目を浴びてしまった。

「あ、ずっとそこにいたプラチナブロンドの人が公爵令嬢だったんだ……。美人だけどわりと地味だね」

 そりゃそうだろうよ。ゲームではアイメイクバリバリの悪役令嬢だけど、私はほぼすっぴん。薄化粧しかしてないもの。
 さすがに大勢にじろじろ見られているのがいたたまれなくなってきて、私は手に持っていた扇を開いた。するとコラリィが笑いだした。

「凄い!貴族って本当に扇を持ってオホホホホって笑うんだ!」

 いや、笑ってねーし。
 でも、なんだか馬鹿にされてるのはわかる……。いきなりめんどくさい。

 コラリィはゲームしてる時はいい友人として側にいてくれる存在だったけど、敵に回るとめんどくさい……。
 やだなあと思って私は人の輪から抜けることにした。もうすぐ上級生の挨拶が始まって、新入生歓迎会が始まるけど、もうサボろうと思った。それならオープニングに付き合わなくていいし。
 王子様とヒロインちゃんの出会いは勝手にしておくれ。


 ジュリエットやカミーユには悪いけど、何も言わずに私は身を隠すことにした。
 庭園は慣れた所だから、隠れられそうな場所は知っている。修練場の方へ行こうとしたら呼び止められた。

「アリス様?どこへ?」

 振り返ったらエリアスがいた。
 え、カッコイイ!なんでいるの?!?!と混乱しかけたが、高等部から『クラスメイト』なのだからいて当然だった。

「気分が悪くて」

 適当に言って誤魔化そうとしたけど、「具合が悪いなら医務室へ」と修練場とは反対側の学舎の方を指差された。確かにそうだねえ。もう間取り覚えてるのかな。マジカッコイイ。

「ありがとう。一人で大丈夫だから」

 私はそう言ったが、エリアスは医務室へ連れて行こうとしているらしく、手を差し伸べてきた。思わずその手を取ろうと一歩足を踏み出したら、横から誰かに腕を掴まれた。
 びっくりして見るとラファエル様がそこにいた。

「……アリス、ここで何してるの? もう歓迎会は始まってるよ? 最初のダンスに君を誘いたかったのにどこにもいないから探していたんだ」

 透き通るような白皙の肌。苦労を知らない美しい手。美少年は相変わらず美しい。ちょっと大人びてきて、視線に色気まで出てきてる。何も言い出せずにいると、横で衣擦れの音がした。

 見ると、エリアスが跪いていた。学園内は身分が無い……とはいえ、エリアスは正騎士だし、王太子殿下を目の前にして勝手に体が動いたんだろう。
 頭を下げている姿を見て、私は身分差を見せつけられた気がした。

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