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高等部編
ヒロインちゃんと悪役令嬢
しおりを挟むエリアスが優しい表情をしているからか、私は時間の隔たりを感じなかった。
もう長いこと、直接言葉は交わしていないのに。
「お、おはよう、エリアス。久しいわ……本当に」
「同じクラスでしたね。入学の際の後見がフランドル伯なので、こちらのクラスになったようです」
「……本当に、『クラスメイト』なのね」
会えてうれしい。とてもうれしい。胸が痛いくらいうれしい。
初っ端からこれでは心臓がもたない。エンディング前にしぬんじゃないかな。
「席も近いですよ」
「へ?!」
思わず変な声が出た。
席が近い?すぐ近くに座るってこと?吐いた空気吸えるってこと?マジで?
教科書忘れて机くっつけあって見せ合ったり出来るやつ?と妄想してたら、エリアスの後ろが私だった。
かーみーさーまーーーーーーーーーーー!
ずっと見てていいって事ですか?
背中を堪能させて頂きます。私、授業聞かない自信ある。永遠にこの位置でいい。
担任の先生が来たが、本当に何も聞こえない。ひたすら背中を見つめて(ああああああ後ろ姿もカッコイイってどういう事?)と悶絶していた。
あとから、「10日くらいでエリアスの背中に穴があくんじゃない?」とサシャに言われる程見つめていた。アレックスとリュカも同じクラスで、今更『皆に近づかず目立たないように生きる』なんて無理だと思い知らされた。
いやでも向こうから関わってくる。私からはなるべく話しかけないようにしよう。
ホールでの入学の式典は何事もなく終わり、歓迎会が行われる庭園へと場所を移した。
「アリス様、ごきげんよう。聞いてはいましたが、とても人数が増えましたね」
「カミーユ、ごきげんよう。本当に。皆様の顔と名前を覚えきれるかしら?」
すっかり親しくなったダンテス伯爵令嬢カミーユと話しながら並んで歩いていると、後ろから声を掛けられた。
「私を置いていかないでくださいませ!」
遅れてデルべ伯爵令嬢ジュリエットも来る。
……悪役令嬢と取り巻きの完成である。やばい、これシナリオ通りだ。
学園内に身分はない、というのが建前だが、クラスもわかれているし、やはり貴族と平民は何となくそれぞれ塊になっていた。平民のグループかなという集団の中で、一際元気な声が聞こえてきた。
「ソフィアも貴族じゃないんだね。私も平民なの。仲良くしてくれるとうれしいな!」
耳の下で揃えた金髪が、少女の活発な性格をよく表している。貴族階級の女性はほとんどが髪を長くしているから、その短い髪が自由の象徴のようで、私は何だかうらやましかった。
「うわーあれが貴族なんだねー!ギラギラしてるー!私さー王都にくるのさえ初めてだから、たくさんの貴族をこんな間近でみるの初めてだよー!!」
その少女は田舎の修道院(の寄宿学校)で育ったらしく「尼さんに育てられたの!全然合わなかったけどね!」と大声で笑っていた。
名ばかりの貧乏貴族の娘も口べらしに修道院に入れられる。王都のきらびやかな上位貴族は、本当に一握りの存在なのだ。あの金髪の少女にとっても、公爵だの伯爵だのといった貴族なんてモノは、きっとこっそり読んでいた恋愛小説の中にしか存在し得なかったんだろう。
注視されるのは慣れている。貴族とはそういうものだ。
ただ、隣にいたジュリエットはやや不快そうな声で言った。
「騒がしいわ。学園の風紀が乱れそう。ねえ、アリス様、とりわけ不躾ですわね、あの二人……」
二人……?
確かに金髪の少女は誰かに話しかけていた。私はジュリエットの視線の先を見て、背中が冷たくなった。
その賑やかな金髪の少女の少し後ろで微笑んでいた女の子は、間違いなく、私が死ぬ直前までしていたゲームの主人公だった。
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