65 / 114
初等部編
駆け落ちの相談を真剣にする公爵令嬢_1
しおりを挟む「私はアリスと少し話がしたいから」
母がそう言って、私の部屋に残った。
私はリラを呼び、お茶の準備をお願いして、焦げ付いて壊れていた思考回路を何とか回復させた。
(このままだと私はラファエル様と婚約せざるを得ない……しんでしまう……)
「さて、アリス、昨夜のお話の続きをしましょう」
そう言って、母はフランドル伯との事も話してくれた。やはり、私がエリアスを巻き込んだことを怒っていたそう。騎士としての仕事という点では納得していたが、私が個人的に接点を持っていたことが許せなかったらしい。
「いずれ王妃になる公爵の娘が、騎士爵の息子を誘惑して愛人にしようとしている、という企てにしか見えないんでしょうね」
母がため息をつきながら言った。政略結婚が当たり前のこの国では、結婚後に愛人を作るのは日常茶飯事。お年を召したフランドル伯は、これまでも色んな事例を見てきたんだろう。
母がフランドル伯と話して誤解を解こうとしたらしいが、父が来たせいでそれも出来なかった。フランドル伯から「アリス嬢は、エリアスとなるべく関わらないで頂きたい」という事実上の絶縁を言い渡されて、フランドル伯と旧交のある父はそれを承諾した。
「もう聞くのも野暮な気がするけれど確認するわね。あなたの好きな人は誰かしら、アリス?」
「エリアス……。私が護衛を依頼した、エリアス・アヴェーヌです。私はエリアスが好きなんです。ずっと前から。多分この先もずっと」
優雅な仕草でお茶を飲んでから母が言った。
「わかってると思うけど前途多難ね、アリス。公爵家と平民では身分が違い過ぎる。いざとなったら、あなたは公爵令嬢なんて立場は捨ててしまうんでしょうけど。……でも、あなたは殿下から妻にと望まれている……」
「……ラファエル様から一度言われました。私を好きだ、と……」
「あら、そう……。殿下は本気なのねえ……」
母は少し驚いた様子だった。ラファエル様は私が好き、私はエリアスが好き、エリアスは……多分私の事なんか好きじゃない。
あれ、絶望的な気がしてきた。辛い。
「事情はわかりました。私からカロリーヌと殿下に直接話します。正式な婚約はしばらく保留して欲しいと」
母は王妃カロリーヌ様とも仲が良いから「公式に公爵夫人として」ではなく、「個人的に」会って話をするつもりなんだろう。
「ありがとうございます……お母様……」
身近な家族が、こんなに味方になってくれるなんて思わなかった。なんだかほっとして涙がぽろぽろ出てきた。
こんなに親身になってくれる母を悲しませたくない。「悪役令嬢」でも母にとってはたった一人の娘なのだから、母のためにも死ぬわけにはいかない。
「でも、殿下との婚約保留と、あなたの恋が成就するかは別問題よ。だめならさっさと身を引くのも大事よ、アリス」
「はい……」
お母様は私が泣き止むまでずっと寄り添って、手を握ってくれていた。
0
お気に入りに追加
1,732
あなたにおすすめの小説
最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか
鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。
王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、
大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。
「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」
乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン──
手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

婚約破棄をいたしましょう。
見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。
しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

【改稿版】婚約破棄は私から
どくりんご
恋愛
ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。
乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!
婚約破棄は私から!
※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。
◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位
◆3/20 HOT6位
短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる