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初等部編
これはもはやバッドエンド_1
しおりを挟む階段を降りながらサシャが大きな声で言った。
「じゃあ、帰るわね!お茶とサンドイッチご馳走さま!美味しかったわ!」
その声で私たちに気づいた母とフランドル伯がこちらを向き、会話は中断された。
「じゃーまたね!ちゃんとお医者様に診てもらうのよ」
「アリス、学校サボんなよ」
「これに懲りたら無茶はしないでくれ」
幼馴染たちがワイワイ帰っていくのを見送ると、玄関ホールがしんと静まり返る。
「……フランドル伯爵、申し訳ありませんでした」
私が口を開くと、厳しい顔をした母から「あなたは何も言わなくていいから下がりなさい」と言われてしまう。
どう考えてもお母様は気づいてる。「私の好きな人」が「エリアス」だと気づいている。ただ、憶測ではなく、私の口からはっきりと言わせて確認したかったのだろう。なぜなら、今まさにフランドル伯がおっしゃってたように、王家の担う「国と国民に対する責任」に関わる事だから。
権力者が国民から租税をとり、それを再分配する。国政とは単純に言えばそういう事だが、その租税をどう使うのか決めるのは、絶対王政のこの国では「国王」になる。そして、この国では単なる配偶者としてではなく、執政においても力を持つのが「王妃」。
「王妃」の地位は別格。
だから本人の好き嫌いだけでなく、誰が王妃にふさわしいのかと、お妃教育されて選別されていく。
そしてその候補者は、一部の有力な貴族に限られる。それはフランドル伯の言う公爵家の責任。子供とは言え、公爵令嬢の負う責務。「アリス」が自分を規律で縛り上げて笑顔を失っていたのも、まさにこれが理由だった……。
「フランドル伯爵……私は……」
私が頑固に下がらないから、母がリラとマーゴを呼んだ。ホールの隅に控えていたルベンが側にいた侍女を促しているのが見える。部屋に連れ戻される前に少しでいいから、私の気持ちを伝えておきたい。そう思って私は勇気を出して言った。
「爵位を持つ家に生まれたものとして、重い責任があることは承知しております」
喋り始めた私を母はとめなかった。何を言うのか興味があるようにも見えた。
「でも、その責任は高い地位でないと果たせないのでしょうか?」
「……どういう意味だろうか」
フランドル伯は、先ほどまでの鋭い空気を幾分和らげて聞いてくれた。
「身分の区別なく、国政に参加できる仕組みがあってもいいと思うのです」
私の発言に、フランドル伯だけでなく、母も少し驚いた様子だった。
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