私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

文字の大きさ
上 下
55 / 114
初等部編

お姫様を守るのは騎士だけど_1

しおりを挟む

「お嬢様、裏へ」

 カーラが隣で囁く。あれこれ言ってる場合じゃないだろう。足手まといにならないようにしよう。

 馬に乗ってるのは男爵だけ。あとは、馬車で来たのか歩いて近づいてくる。
 私は小屋の裏に向けて走り出した。

「捕まえろ!逃がすな!」

 そう叫ぶ男がリーダーだと判断したのか、カーラは姿勢を低くしてまっすぐその男の方へ走っていた。
 まじくのいち。
 真っ先に大将首を狙う所が、マジでくの一、と思っていた。

 裏にまわると馬小屋はなく、木に繋がれた馬が一頭いた。

「私を乗せてくれる?」

 そう言いながら紐を解く。誰も追ってこないってことは、カーラ無双が繰り広げられてるんだろうけど、怖くて見に行けない。
 穏やかな気性なのか、馬はおとなしく言う事を聞いてくれるみたい。

「お願い、王都の方へ走ってね」

 そう言って私は馬のお尻を叩いた。いなないて馬は走り出す。
 馬のいななきと、蹄の音に気付けば、何人かは追うだろう。それで少しでもカーラの危険度が減るといい。


 走り去っていく馬を目で追って、私は靴下を脱いだ。記憶を取り戻してからずっとサボっていたが、これでもお妃教育は受けている。多少の護身術はアリスが覚えている。あとは実戦経験がないのが心配だが、これ以上事態は悪くなりようがないから、もうぶっつけ本番でいいやと思っていた。
 壁伝いにそーっと表を見ると、やはりさっきの馬を追ったのか、人数が減っていた。あと、昏倒してるのが何人か。無双過ぎる。でも、当のカーラがいない。逃げたのならいいが、そんな雰囲気でもなさそう。
 とりあえず、入口に立っていた男に後ろから近づいて、間合いを確かめて、思いっきり手に持った物を振りあげた。
 どすんと手ごたえがあった。
 呻きながら膝をついてる男に「ごめーん」と心の中で謝りつつ、手に持っていた剣を奪って隠した。目を覚ましても、少なくとも剣で攻撃されないように。

 私は靴下に土を入れて、振り回してドーンとその重い塊をぶつけたのだ。非力でも、遠心力で結構な力になってるはず。
前世でいう所のブラックジャック。天才だが無免許医師の事ではなく、武器。ちなみに私はピノコが大好きだ。

 危機の時は、男の急所を狙えと教わった。
 私もカーラ同様、力がないから剣ではなく他のものを使うことにした。あと何か使えそうな物ないかなーと周りを見ていたら、こちらに来る男と目が合った。ハゲ頭が公爵家料理長のケヴィンさんにそっくりだった。親戚?と思ってたらその男が呟くように言った。

「……公爵令嬢?さっき馬で逃げたんじゃ……」

 大声で他の人を呼ばれる前にと思って、ぽかんとしてる男の前に走っていって、また思い切り土入り靴下を振り回す。

「うわ!あぶねえ!」

 避けられた。避けるなよ!!
 もう一度振り回す。また避けられた。

「不意打ちならともかく、当たりゃしねぇよ……ってうわああ」
「うるさーい!数打ちゃ当たる!!!」

 私が靴下をぶんぶん振り回していると、騒ぎに気づいたのか、小屋から男爵が出てきた。

「何だ?……おやおや公爵令嬢、逃げてなかったのか?手間が省ける」

 私はその質問を無視して、靴下を振り回しながら男爵に言った。

「うちの侍女はどこかしら?」

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。 王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、 大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。 「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」 乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン── 手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

【改稿版】婚約破棄は私から

どくりんご
恋愛
 ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。  乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!  婚約破棄は私から! ※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。 ◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位 ◆3/20 HOT6位  短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

処理中です...