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初等部編
お姫様を守るのは騎士だけど_1
しおりを挟む「お嬢様、裏へ」
カーラが隣で囁く。あれこれ言ってる場合じゃないだろう。足手まといにならないようにしよう。
馬に乗ってるのは男爵だけ。あとは、馬車で来たのか歩いて近づいてくる。
私は小屋の裏に向けて走り出した。
「捕まえろ!逃がすな!」
そう叫ぶ男がリーダーだと判断したのか、カーラは姿勢を低くしてまっすぐその男の方へ走っていた。
まじくのいち。
真っ先に大将首を狙う所が、マジでくの一、と思っていた。
裏にまわると馬小屋はなく、木に繋がれた馬が一頭いた。
「私を乗せてくれる?」
そう言いながら紐を解く。誰も追ってこないってことは、カーラ無双が繰り広げられてるんだろうけど、怖くて見に行けない。
穏やかな気性なのか、馬はおとなしく言う事を聞いてくれるみたい。
「お願い、王都の方へ走ってね」
そう言って私は馬のお尻を叩いた。いなないて馬は走り出す。
馬のいななきと、蹄の音に気付けば、何人かは追うだろう。それで少しでもカーラの危険度が減るといい。
走り去っていく馬を目で追って、私は靴下を脱いだ。記憶を取り戻してからずっとサボっていたが、これでもお妃教育は受けている。多少の護身術はアリスが覚えている。あとは実戦経験がないのが心配だが、これ以上事態は悪くなりようがないから、もうぶっつけ本番でいいやと思っていた。
壁伝いにそーっと表を見ると、やはりさっきの馬を追ったのか、人数が減っていた。あと、昏倒してるのが何人か。無双過ぎる。でも、当のカーラがいない。逃げたのならいいが、そんな雰囲気でもなさそう。
とりあえず、入口に立っていた男に後ろから近づいて、間合いを確かめて、思いっきり手に持った物を振りあげた。
どすんと手ごたえがあった。
呻きながら膝をついてる男に「ごめーん」と心の中で謝りつつ、手に持っていた剣を奪って隠した。目を覚ましても、少なくとも剣で攻撃されないように。
私は靴下に土を入れて、振り回してドーンとその重い塊をぶつけたのだ。非力でも、遠心力で結構な力になってるはず。
前世でいう所のブラックジャック。天才だが無免許医師の事ではなく、武器。ちなみに私はピノコが大好きだ。
危機の時は、男の急所を狙えと教わった。
私もカーラ同様、力がないから剣ではなく他のものを使うことにした。あと何か使えそうな物ないかなーと周りを見ていたら、こちらに来る男と目が合った。ハゲ頭が公爵家料理長のケヴィンさんにそっくりだった。親戚?と思ってたらその男が呟くように言った。
「……公爵令嬢?さっき馬で逃げたんじゃ……」
大声で他の人を呼ばれる前にと思って、ぽかんとしてる男の前に走っていって、また思い切り土入り靴下を振り回す。
「うわ!あぶねえ!」
避けられた。避けるなよ!!
もう一度振り回す。また避けられた。
「不意打ちならともかく、当たりゃしねぇよ……ってうわああ」
「うるさーい!数打ちゃ当たる!!!」
私が靴下をぶんぶん振り回していると、騒ぎに気づいたのか、小屋から男爵が出てきた。
「何だ?……おやおや公爵令嬢、逃げてなかったのか?手間が省ける」
私はその質問を無視して、靴下を振り回しながら男爵に言った。
「うちの侍女はどこかしら?」
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