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初等部編
カーラがそろそろ本気出す_1
しおりを挟む手首のあたりをごしごしされてる。痛い。肩も、首も痛い。
そう思って目を開けたら、見知らぬ場所にいた。
「いったーー!」
腰が痛いから叫んだら、うしろから聞き慣れた声がした。
「お嬢様、お目覚めですね?よかったです。もうしばらくお待ちくださいね!」
「えっと、何この状況。どーゆーこと?」
「拉致されました。私がついていながら申し訳ございません!」
手首のごしごしは、カーラがロープを切ろうとしてる感触らしい。
どこかの部屋の中で、柱に後ろ手に縛り付けられている。薄暗いから多分もう、夕暮れ。質素だけど、絨毯も敷いてある。でも暖炉がなくて寒かった。
「カーラは怪我してない?大丈夫?」
「私は大丈夫です。面目ございません」
ほんとに大丈夫かな?かなり息があがってる気がする。そう思っていたら、急に手首が軽くなった。
「ゆっくり動かしてくださいね。痛みはありますか?」
「無い。大丈夫」
「よかったです」
自由になった体を動かして振り返ると、顔も手も、擦過傷だらけのカーラがいた。
「怪我してるじゃん!」
「怪我のうちに入りません」
男前過ぎるが、いまは心配させて欲しい。
「使用されたのは、おそらく薬物。あの部屋で手渡された編み物から甘い匂いがしませんでしたか?桃のような」
「した気がする」
「なら後遺症は残らないはずですが、戻ったら必ず医師に診て頂きましょうね」
ふわふわドレスはどうせ動きにくいし、と思って、カーラの持っていた短剣で裾を切った。その布でカーラの傷口を拭いたがもう血は止まっているようだった。
カーラに手伝ってもらってコルセットもパニエも脱いだ。
「ところでカーラ。この前のマルシェの時もそうだったけど、この短剣ってどこに持ってるの?全然わからないんだけど」
私がそう言うと、カーラがお仕着せのスカートをたくしあげた。両足の太股に革ベルトが巻かれ、そこに短剣がそれぞれ三本ずつ仕込んであった。私は思わず呟いた。
「あ、暗器……。暗器のカーラ……」
「私は力がないので小さい武器で素早く動く方が合ってるんです」
カーラがそう言った。
うちの侍女兼護衛は、必殺仕事人だった……。
「おそらく外門からも出ています。ここは森の中でしょう」
「どういう状況かわかる?そもそも違和感って何だったの?」
私が説明を求めるとカーラが手短に話してくれた。
屋敷の規模に対して使用人の人数が多かったこと。動き方が使用人というより傭兵のようだった、とカーラが言った。そんなの絶対気づかない。「なんでわかるの?」と私が聞いたら、自分も訓練されましたから、と悲しそうに答えた。
「私はジルヴァラの生まれなんです」
かつてこの国と戦争をしていた隣国ジルヴァラ。王妃カロリーヌ様の出身国。
あまり内政が安定しておらず、国内もよく乱れている。孤児だったカーラは反政府組織で幼い頃から少年兵として訓練を受けてきたそう。子どもに武器を持たせないと生きていけないのか……。
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「その公爵家のご令嬢であるアリス様の侍女になれたとき、どんなにうれしかったかわかりますか?」
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「ですから、私は命にかえてもお嬢様をお守りします」
「お願いだから、命は大事にしてね。お母様が激怒するわよ」
「そうですね」
ずっと厳しい顔をしていたカーラがやっと少し笑った。
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