私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

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初等部編

お茶会も悪くないと思ってたのに

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 社交シーズンの春夏ではなく、今はもう冬。ガーデンではなく、室内のお茶会。
 というわけで、応接室サロンに花のようなご令嬢方が集まっていた。

 エーメ男爵夫人は聞いていたとおり、おとなしくてちょっとポヤっとした方だった。でも、きちんとお茶会の女主人を務めていた。さりげなく気配りし、話題を提供し、相手から情報を引き出そうとする。「社交」に慣れている印象だった。

  優雅なティーテーブルにはお菓子がたくさん並んでいる。

 パイシュー生地にチョコレートクリームがサンドしてあるお菓子は、きっと口に入れたらサクッとして美味しいだろう。今、私が座っている場所から遠いから、届かないのが悔しい。「どっこいしょ、前を失礼」と言って中腰で取ったらきっと怒られる。
 だから、男爵夫人が「こちらのお菓子もいかが?」と勧めてくれた時には、この人いいひとだー!と思った。

 私が好きなフロランタンもある。キャラメリゼされたアーモンドが綺麗。ガリッガリの食感も楽しみたかったけど、お上品に食べやすいように細長く切ってあった。オランジェットもあって、オレンジピールの鮮やかな色が目立っていた。絶対おいしいやつ。つかみ取りして食べたいのを我慢した。クグロフは、ブランデーをたっぷり使ってあるみたいで、とてもいい香りがする。定番のフィナンシェを一口食べて「これめっちゃ美味しい!何個でもいける!」と思ったが、二個で止めた。

 お菓子につられた私は完全に「お茶会悪くないわ~」と思っていた。

  出された紅茶がとても美味しかったから、男爵夫人にたずねると「帝国産の紅茶です」と言われた。
 外交官を父に持つご令嬢が言った。

「アルゲントゥム帝国も内政が落ち着いたようで、最近は帝国産の物も市場に多く出回っているようですね」

 そう言えば、ラファエル様も「帝国産の真珠」をお土産に買ってきてくれた。外交とか貿易とかよくわからないけど、とりあえず「帝国産」って言っとけば「凄い」って思われるんだろう。そのうち贋物も出てきそう……等とどうでもいいことを考えていた。

 お茶会は和やかなのに、側にいるエリアスはずっと無表情だった。カーラもピリピリしてるような気がする。
 そろそろ終わりかな、という頃、男爵夫人が私達に言った。

「私の趣味はレース編みなのです。もしよろしければお土産にお持ち帰り頂けるとうれしいのですけど」
「まあ、素敵」
「それは是非、拝見したいですわ」

 ご令嬢方が微笑んでそう言うと、男爵夫人は「ではたくさんありますから、お好きな物をお選びください。さあ、こちらへ」と立ち上がった。自室へ連れて行きたいらしい。さわさわと衣擦れの音をたてながら私達はサロンを出た。

 少女趣味な可愛らしいお部屋には、本当にたくさんのレース編みがある。もう作品と言っていいくらい綺麗だった。
 私が素直に褒めると、男爵夫人は笑って言った。

「では、是非ほかも御覧くださいませ」

 気に入られたのか、取り入りたいのか、何故か私はこちらへこちらへ、と屋敷の中のあちこちをつれ回されていた。

「あの、お待ちください男爵夫人。エリアスがいないわ」

 くるくる廻っているうちに、私はカーラとふたりだけになっていた。

「あら、どうしたのかしら。迷子かしら?まあ、よろしいですわ。女の子だけで楽しみましょう」

 「でも」と言いかけたが何故か声が出なかった。体に力が入らない。「アリスお嬢様!」と叫ぶカーラの声がした気がするけど、朦朧としてよくわからなかった。

「……ごめんなさいね。夫には逆らえないんです」

 申し訳なさそうな男爵夫人の顔が、私の最後の記憶だった。



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