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初等部編
転んだら事件が解決した_2
しおりを挟む帰宅後に、従僕のルイが報告があると申し出てきた。背が高くて痩せてる、細長い17歳。孤児だった彼を拾って育てたのはお母様。マーゴもそうだけど、お母様は身寄りのない人を放っておけない質らしい。勿論、公爵家で雇うのだから誰でもいいわけではなく本人の資質もみているそうだけれども。
ルイに頼んでいたのは、エーメ男爵と男爵夫人についての身辺調査だった。
新興貴族だったので、以前、執事のルベンに頼んで見せてもらった貴族年鑑にまだ載っていなかったからだ。
もともと豪商で、先代が貿易で一儲けしたらしい。莫大な富を築いた先代が次に欲したのは、地位。あれこれと根回しをして、資金繰りに困っていたエーメ男爵家の爵位を買う算段をとりつけた。だが、手続きの直前に病で急逝してしまい、当時21歳の息子が男爵位を手にしたという。
金持ちのボンクラ息子が、なんの苦労もせず地位を手に入れて、親から莫大な遺産を相続してやることといえば、もう想像がついた。
商売は人に任せて自分自身は放蕩三昧。すり寄ってくるのは金目当ての取り巻きだけで、先代から仕えていて、彼に忠告する古参の者はことごとく遠ざけられたそう。
結果、出来上がったのは威張り散らして傲慢なお貴族様だったわけだ。
「……絵に描いたようなバカ息子なのね」
私はあきれて言った。どうりでエーメ男爵を見たエリアスが、いやそうに名を口にしたわけだわ。
「そして、なぜか先日の轢き逃げに関しては、不問になっていました」
ルイの言葉にびっくりして少し大きな声を出してしまった。
「不問?」
「立件されておりません」
「憲兵が来ていたのに?目撃者だってたくさんいたのに?」
目撃者もたくさんいたから、憲兵の対応は街の人に任せて、私たちは負傷した子供に付き添ったのだから。ガブリエルが治療して大きな怪我はなかった(ことになったはずだ)が、昏睡していたから証言があれば事故として取り扱われたはずなのに。その上で特に罰せられないならわかるが、そもそも事故が無かったことにされていたとは。
「金でもみ消したとか、そういう事?」
私がそう聞くとルイは申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。そこまでは調べ切れておりません」
「いいのよ。半日でありがとう」
今朝お願いして、昼下がりには報告してくれたのだから、詳しく調べられなくても仕方ない。むしろ仕事が早いとびっくりした。
自室に戻ってまたゴロゴロしながらカーラに聞いてみた。
「口止めしたいのかしら?別に騒ぎ立てるつもりはないのに」
「子どもは無事でしたしね……。ただ、お嬢様に向かって鞭をふるおうとしたことは、公爵閣下には報告しておりますから、何かしらあったのかもしれません」
カーラが生真面目に答える。
「謝ろうとしてるってこと?だったら夫人主催のお茶会ではなく、正式に男爵本人が謝罪にくればいいのに」
母が在宅していたので、サロンに来てもらった。同じお屋敷に住んでいても広いので、どちらかの部屋を訪ねるよりは、中央のサロンに集まる方が便利だった。昨日届いていた招待状を見せて相談する。
「エーメ男爵夫人?……ああ、あのおとなしそうな娘さんね」
「参加してみてもいいですか?」
「確かに交友関係は広いようだけれど……。他に誰が招待されているか調べるから、返事は少し待ちなさい」
「わかりました。ありがとうございます、お母様」
社交があまり好きではない王妃様の代理で、公式行事に出ることもあるお母様は、ほとんどの貴族と面識がある。これについてはお母様に任せようと思った。
そして、翌日。登校するとすぐにアレックスが傍に来た。普段はよくラファエル様にこうして付き添っているから、ラファエル様が公務から帰ってくるまでなんだろうけど、落ち着かない。
そして、その日を境に、嫌がらせはぴたりとやんだ……。
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