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初等部編
転んだら事件が解決した_1
しおりを挟む秘密会議をした日の放課後に、私はリュカのいる教室へ行こうとした。廊下に出ると、当人のリュカと一緒に、サシャとオスカーがいたのを見つけたので、もう私の出番はないかなと思って図書館へ向かった。
調べ物をしようと、帯出禁止の古書の方へ行こうとしたときに、床が濡れていて派手にすっころんでしまった。大きな物音に顔なじみの女性の司書さんが飛んできて、私が無様に倒れているのを発見すると、「雨漏りしていて!すみません!!」と平謝りしていた。雨が時々滴り落ちてくるらしい。
転んだ時に書棚に引っ掛けてしまったらしく頬が痛い。手を当てると少しだけ血がついた。
「こここ公爵令嬢のお顔に傷が!ももも申し訳ありません!罰はいかようにも」
司書さんは、ぶるぶる震えて恐縮しまくっていたが、自分の不注意だったので「気にしないで」と言った。ついでに、図書館にとって雨漏りは致命的だから修理を急ぐよう進言することを申し出ておいた。
手当しますと言われたが、時間がなくなってしまうのでお断りした。またカーラを待たせるのは悪いなと思ったので。
舞踏会も終わったし、やっと嫌がらせの件も落ち着きそうなので、私は調べ物を再開した。
銀水晶の聖女はお伽話だった。魔法についてもそう。でも、ガブリエルは水の魔法を使っていた。ほんの数日前にこの目で見た。どこかに手掛かりがないかと、あれこれ探していると『魔女狩り』という不穏な単語を見つけた。
「この国では、数百年前、上位貴族のみが魔法を使えるようにするために、魔法が使える平民の弾圧『魔女狩り』を行った。その結果、いまでは王侯貴族でも魔法が使える者はほとんどいない。」
こんなの聞いたことがない。歴史書にもない。今みているのは五十年ほど前に書かれた『王国の宮廷魔法使いについての研究』というアカデミーの紀要なのだが、この文章の出典がない。出典がない以上、証拠・根拠がないということだから、信用に足る情報ではないのだろうが、どうしても気になった。
帯出禁止なので、本は持ち出せない。著者名をメモして教室に戻った。
教室に戻るとオスカーが駆け寄ってきた。
「アリス、何をされた?その傷はどうした?」
はて?と思っているとアレックスも顔色を失っている。
「女の子の顔に傷をつけるなんて……」
顔の傷というのは自分では見えないのでうっかり忘れていたが、さっき転んで怪我をしたんだった。ちょっと触れたら血は乾いてカサカサしていた。擦り傷は治りにくいからいやだなあと思っていたら、オスカーが白いハンカチを差し出してきた。
「転んでしまったのよ。もう血はとまってるし、汚れるからいいわよ」
「俺はお前の騎士なんだろ?守らせろよ。つーか一人で行動すんなって」
「ごめんね、ありがとう」
それ以上は話さなかったが、盛大に誤解した二人は義憤に駆られたようで、オスカーは「いまから高等部へ行ってくる」と言いどこかへ行ってしまった。アレックスは医務室に連れて行ってくれて、簡単な傷の手当をして「学園にいる間はずっと僕がついているから」と付きまとわれるようになってしまった。
(私、正直に転んだって言ったんだけど……)
「アリスお嬢様、どうなさったのですか?また何か……?」
アレックスに付き添われて車寄せに向かうと、カーラがひどく心配した顔をしている。
「なんでもないのよ、転んだだけ」
そう答えたが、カーラは「許せません」と言っていた。「いえ、本当に転んだのよ」といっても聞く耳を持っていなかった。
(私、正直に転んだって言ったんだけど……)(※二回目)
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