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初等部編
意外な場所で、意外な人物が、意外な事をしてる_2
しおりを挟む「……やることないんだよね。離宮にいても」
離宮に閉じ込められて、ちょこちょこ抜け出しても、別に誰も咎めなかったそうだ。なぜなら、ガブリエルが外で危険な目に遭おうが、どうしようが、どうでもよかったから。大切だから守られてたんじゃなくて、ただ、隠されていただけの存在。
「はじめは、息抜きだった。でも、いつの間にか下町に友達がたくさん出来た。僕の力の事を知っても黙っててくれる友達がね」
私はガブリエルの話を聞きながら、子羊(※牛かも)の赤ワイン煮を食べ終わって、そのソースをつけてパンをおかわりしていた。このお店は追加料金を払えばパンが食べ放題なのだ。今日は勿論コルセットなどしていない。思う存分食べていた。
「下町を外れると貧民窟がある。そこでは病気や怪我をしても手当すらしてもらえない人がいる。ましてや、働き手でない子供たちは後回し。その子供たちを手当てしていた。そして必ず秘密にしてもらっていた」
ガブリエルはそう言ったが、私はベッドを貸してくれた町人、街の皆は知ってるのではないかと思った。
きっと、貧民窟や下町の人間は本当は知っている。知っていて知らないふりをしている。お飾り大公殿下が自分たちの近くにいて、見守ってくれているのだということを。
私がそう言うとガブリエルは否定した。
「そうだとしても、完全な自己満足だよ。王宮では誰も僕を必要としていない。でもここでは僕は役に立つ存在。そういうこと」
さて、と言ってガブリエルが立ち上がる。
「さっきの男の子の様子を見てくるよ。そろそろ目を覚ます頃合いだ。話せて楽しかったよ。アリスもカーラも、ここでよかったらまた奢らせて。ところでエリアス、君は……。いや、何でもない。また会うかもしれないね」
ガブリエルはフードを被りなおして先に店を出ていった。
「お嬢様、そろそろ私たちも帰らなければ」
「そうね」
もぐもぐしながら辺りを見回したけど、その店はナプキンすら置いてなかったので、カーラが手持ちの布巾を差し出してくれた。本当によく働くよい子だ。
店の外に出ると、もう夕暮れだがまだまだ街は賑やかで、帰るのがちょっと名残惜しい。
「エリアス、ありがとう。助かりました。でもお買い物の邪魔したのでは?」
私は御礼と一緒に、ずっと心配していたことを口にした。あの時、騒動に巻き込んでしまったけど、迷惑だったのでは、と。
「いえ、公休日で、妹に何かお土産でもとぶらついていただけですので」
「妹さんがいるの?何歳?」
私は(はい、新情報ゲットー!妹有。つくづく私は優しいお兄ちゃん属性に弱い……)と思いつつ、淑女らしく微笑みながら答えをまった。
「8歳です」
「なら、アクセサリーも喜んでくれるかも」
カーラが手荷物の中から、貝殻と真珠のついたネックレスを出している。カーラも同じことを考えていたみたい。形の悪い小さな真珠だから、安物なのだけど。
「これを妹さんに差し上げて。今日のお礼だから受け取って。勿論、危ないところを助けてもらった御礼は後日しっかりさせて頂くから」
「とんでもないことです、公爵令嬢。私のことは捨て置きください」
「でもこれは受け取って」
私が差し出した手を動かさなかったから、根負けしたようにエリアスは小さなネックレスを受け取って、「可愛いものが好きだから、きっと妹もよろこびます」と言い、大事そうに袋に入れてポケットに仕舞った。エリアスが初めて私の顔を真っ直ぐに見て言った。
「……今日は色々と驚きました。ルテール公爵令嬢は、高慢で冷たいとの噂でしたが、噂は信用ならないものですね」
「え?」
「貴女は優しくて勇気があります。……でも危なっかしい」
エリアスが笑っている。初めて、私に向かって笑ってくれている。
いま、誉められた……?ほめた?ストーカーからちょっとは進歩した?
舞い上がって躍り出しそうな気持ちを抑えて、私は古典的手法に出ることにした。
「あの!私と文通してください!!!」
「……え……???……文通???」
突拍子もない私の発言に、エリアスもカーラも驚いていた。
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