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初等部編
昼下がりのマルシェで再会したけど事件です_2
しおりを挟む「すごい。すごいね、カーラ」
「こっちですよ、お嬢様。あそこの屋台のお菓子が美味しいんです!」
カーラが屋敷の中では見せないような、年相応の笑顔で私に手をのばす。友達といるみたいで、とても楽しかった。
少し固いけど甘くて美味しい焼き菓子。フルーツのフレッシュジュース。呼び込む声はひっきり無しで、値切る声や笑い声が飛び交っている。
二人で手を繋いで、人混みをすり抜けて行った。
カーラは小柄だがすばしこくて、巧みに人を避けている。すごいなぁと思っていると、私の前を歩いていたカーラが「揚げパンも食べませんか?」と笑顔で振り返った。
しかし、次の瞬間、カーラの表情が変わった。はっとしたように口もとに手をやる。どうしたんだろうと思っていると、私の背中に誰かがぶつかってきた。
「すみません」と言ったその人はエリアスだった。
「ルテール公爵令嬢……」
「エリアス……?」
帯剣しているが平服を着ている。洗いざらしのシャツに黒のベストがよく似合っていて、私はまた思考回路が停止しそうになった。
普段着も……かっこいいよ……!
エリアスが「なぜ、こんな所に……」と呟きながら、眉を寄せて私を見下ろしている。完全に不審者を見る目だ。
ストーカーだと思われてるーーー!!
「失礼します」
「昨日はごめんなさい!」
私とエリアスの言葉は同時だった。踵を返して立ち去ろうとするので、思わず袖を掴む。エリアスは「何を……」と言って睨むような視線を向けてくるから、ひるんだ私はエリアスの手を離した。
「ごめんなさい……謝りたくて」
「結構です。失礼いたします」
(ヒィィ……塩対応すぎる。しにたい)
そう思っていたその時、内門の方から馬の嘶きと子供の悲鳴が聞こえた。
悲鳴がした方を見ると、小さな男の子が頭から血を流してぐったりしている。その子の傍らで女の子が泣き叫んでいた。
馬車に跳ねられてしまったようだ。私は飛び出して駆け寄った。
「大丈夫?!」
呼び掛けても倒れている男の子には意識がない。
頭をうったらどうするんだっけ?動かさない方が良かったよね?
「誰かお医者様を呼んでください」
私がそう叫ぶと、馬車の中から男性の声がした。
「貧民の子供などどうでもいい。馬車を出せ」
馬車に家紋があったので、貴族なのだろう。
……この世界では、貴族はそんなに偉いの?
下町の雰囲気が楽しかっただけに余計、それを簡単に壊そうとする貴族に心底腹が立った。
「まず馬車から下りなさいよ!手当が先でしょう?」
「早く馬車を出せ。急げ!」
その指示に御者が、まず私を追い払おうと鞭を振るった。
上の者が小物だと部下も簡単に卑劣な事が出来るらしい。鞭が降り下ろされる速度に、避けきれないと判断して男の子を庇うことにした。だが、その鞭は私には届かず―――
エリアスの剣の一閃に両断された。
洗練された、無駄のない動きで。
それと同時にカーラは馬車の扉を開けて、ひらひらした襟の服を着た男の首元に短剣をつきつけている。こちらも、驚くほど俊敏に。
二人の動きに目が追い付かず、びっくりしていると、それは集まっていた野次馬たちも同様だったようだ。成り行きを見守る周囲の人間の、息を飲む音が聞こえた気がした。
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