私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

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初等部編

リハーサル通りにしてくれない王子様

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 眩しい程のシャンデリアの光。色とりどりに着飾った貴婦人たち。慣れ親しんだ友人たち。今日初めてお会いする方々。会場中の視線がこちらに集まる。

 ラファエル王太子殿下は、ミッドナイトブルーの夜会服を着ている。自分はそれより少し淡い、それでも深い海の色のドレスだ。デコルテはシンプルに。頂いたエメラルドの首飾りが栄えるように。その代わり、ウエストのバックに大きなリボンをつけて、ギャザーもたくさんついている。パニエも盛り盛りに盛りつけてある。重たくなったが仕方ないと我慢した。裾は銀糸。精緻な刺繍が施されている。
裾のさばき方もずっと練習してきたから優雅なはずだ。と思う。多分。

 国王陛下と王妃殿下に最敬礼したのち、父の横に歩いていって招待客の方へ振り返り礼をする。
 私は震える両手を胸の前で握りしめた。

「アリス・ マグノリア・ルテールです。本日は足をお運びくださり、本当にありがとうございます。今日は『薔薇色のしおりで記念すべき日』ですわ。ここにいらした皆様全員にキスをしても足りないくらいうれしいです」

(……噛まずに言えた自分を誉めてやりたい……)


 社交界デビューする公爵令嬢として堂々と、でも初々しさも交えて、アリスが笑顔で挨拶をすると、招待客たちはさざめくように誉め称えた。
「なんて可愛らしい」「美しくなって」「マグノリア様にそっくりね」と、ご年配受けは上々だった。
ちなみにマグノリア様とは母方の祖母の事。すでに故人なので肖像画でしかみたことがないが、確かにアリスにそっくりだった。

「初めのキスは私に頂けますか?」
「勿論ですわ、お父様」

 少し腰を屈めた父の頬に、アリスは背伸びして口づけた。
 どこの世界でも、父親というのは娘にはデレデレするものらしい。

 内務省で共に働き、普段の鬼のような父の姿を知る兄は苦笑していた。

 ここまではリハーサル通り、だった。
 晴れて社交界デビューした娘と、それを喜ぶ父の、心暖まる風景に会場は和やかな空気に包まれていた。

 ……少し後ろに立っていた王子様がこんな事を言い出すまでは。

「次は私にもキスを頂けますか?」

 ラファエル様のその声掛けに、会場がざわめいたのがわかる。リハーサルにはなかった台詞だ。
 突然どうしたのかと振り返ると、ラファエル様は穏やかに微笑んでいる。

 ……社交辞令だとしても、その意味するものは大きい。そして、先日のラファエル様の告白を聞いたあとである私にとっては、それがラファエル様が心から望んで言ったことだと理解した。
そして、それは最も避けたい〈王太子の婚約者ルート〉に近づくことだ。
(私の気持ちを考えろって言っただろーが!!!断りたーい!断りたーい!!)

 戸惑う私に、父は笑顔で言った。

「殿下にお返事を」

 断れるわけがない。この前のように幼馴染だけの場ならまだしも、この大勢の中で断るなど、公爵家の人間として出来るはずもなかった。躊躇いながら答える。

「よろしくてよ、ラファエル殿下」
(よろしくなーい!よろしくなーい!)

 私はラファエルの頬をかすめるようにキスをした。
 緊張してふるふると震えているのに気づいたラファエルは、私の手をとると、その甲にキスをする。
 その流麗な仕草に私はびっくりした。

(手の甲にキスするの初めて見た!!!凄い!)

 壮麗なバイオリンが軽やかに響き、ゆったりとしたワルツが流れ、ダンスが始まる。

 私は、社交界でのファーストステップを踏み出した。


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