私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

文字の大きさ
上 下
17 / 114
初等部編

シリアスをぶち壊す

しおりを挟む

 私がノックもせず扉を開けたので、ラファエル様とリュカが絶句していた。私が窓辺に立っているラファエル様の方へ進むとリュカが私の手を引いた。

「アリス、どこから聞いていた。何を言うつもりだ」

 リュカにそう言われて、私は心の中で叫んでいた。
(何を言うつもりだ、ですって?……フッ、ノープランよ!!!)

「手を離して、リュカ」

 私はシリアスな雰囲気に耐え切れずドアを開けただけ。私のいないところで勝手に道具だのなんだの言われるのが嫌だっただけだった。開き直って嗤う私の顔はさぞ怖いだろう。リュカは躊躇いながらも手を離してくれた。そして、特に何もセリフが思い浮かばず、(何て言おうかなーっ!)とラファエル様を見つめていると、無言の圧力だと勘違いしたのか、「ごめんね、アリス」と謝罪された。

 ラファエル様はうつむいて続けた。憂う表情まで美しい。


「僕は、父上のようになりたくないんだ……」


 国王と王妃が不仲なのは、残念ながら国民皆が知っている。
 先の戦争が終わり、戦後処理に何年もかかっていた。その際、なかば人質として嫁いできたのが、敗戦国であるジルヴァラ王国の第一王女カロリーヌだった。
 王はカロリーヌとの間に、ラファエルをもうけるのだが、そのあとは義務を果たしたとばかりに、もっぱら離宮の妾の方へ通っている。政略結婚が当たり前の世界ではありふれた話だが、それが自分の家族なら悩みもするだろうと思う。
 アリスの両親は恋愛結婚で、幸いなことに家柄も釣り合っていて夫婦仲もいい。だが、それはとても珍しいことなのだと改めて思った。


「一枚岩でない王家というのは、貴族間の争いを生む。せめて、僕は真に支えあえる関係を築ける人を正妃にしたい……」
「それが私?だとしたらお断りします。私には無理です」

(こ、これはいい流れでは?ラファエル様には申し訳ないけど、ここまま王太子の婚約者ルートから外れてしまおう。ワクワク)

「そんなことはない。アリスはちゃんとお妃教育も受けているし……何より僕が君を……」
「君を?」
「……僕が君を好きだから」

 突然の告白に、私は喜びではなく絶望で目の前が真っ白になった。

(突撃するんじゃなかった―――リラの推測が正しかった……私のバーカバーカ)



 倒れそうになったが、気を取り直して私は言った。逃げなくては。

「ありがとうございます、ラファエル様。私も好きですよ。でも友人としてです。私は……そのように想ったことはないのです」
「それでもいい。僕は君を守りたいんだ。政争の道具にしようなんてかけらも考えてない。僕のそばで守りたいんだ」
「守りたい?……どういう意味ですか?」

「エヴルー侯爵はすでに行動を起こしている」

 私とラファエル様の会話と遮るようにリュカが言った。私はその言葉の意味が全くわからなかった。
 リュカが淡々とした口調で続けて言う。

「先日のルテール公爵家の馬車の事故だよ、アリス」

 ……私が記憶を取り戻したあの事故が、仕組まれていた?
 動揺した私に向かって、リュカが説明してくれる。

「憲兵隊が調べたという報告書を読んだが特に不審な点は何もなかった。まぁ、馬車の事故など日常茶飯事で通りいっぺんの調書だったわけだが。ただ……乗合馬車の馬が暴走したとのことだったが、乗客はいなかった。そして、当日その馬車は貸切だった」

「……ジェローム商会だったんだろう?」
「その通りです、殿下。ジェローム商会が貸し切っていて、その日に限って御者も自前だったそうです」

「証拠はなにもない。ジェローム商会がダンピエール伯爵の経営だからといってもそれは状況証拠に過ぎない。だが、その結果、アリスは……3日も意識を失って……」

 ああ、それでお見舞いに来たのか。意識を取り戻してすぐに。


(よし、滅ぼす。私がそのダンピエール伯爵家とやらを滅ぼしてやる。邪魔しないでいいのにいいいいいい!言ってくれれば王太子殿下をお譲りするのにいいいいいいい!!!変な裏工作するから、王子様の庇護欲かきたてちゃってるじゃないのよおおおおおお!)

 とても表では言えない事を心の中で叫びながら、私は微笑んで言った。

「わかりました。私の身を案じてくださるのはとてもうれしいです」

 私がそう言うと、ラファエル様が安堵の表情を浮かべていた。

「ただ、お妃候補としての話は別問題です。私の気持ちもお考えください」
「そうだよね、ごめん。君に振り向いてもらえるよう、頑張るよ」

(違ーーーう!そうじゃない!!!……頑張らないで王子様……)

 藪をつついたら蛇が出てきた。アナコンダ級だ。もうなるようになれ。
 せめて舞踏会は楽しもうかと現実逃避を始めた私は、一週間ひたすらダンスレッスンに打ち込み、舞踏会当日をむかえた。


しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。 王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、 大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。 「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」 乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン── 手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

愛されない王妃は、お飾りでいたい

夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。  クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。  そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。 「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」  クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!? 「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...