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初等部編
図書館へ行こう_2
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「ねえ、リラ。何か調べるならやっぱり図書館かしら?王宮図書館とか」
私は寝転んだまま、顔だけをリラに向けて聞いた。
「そうですね。ご希望でしたら旦那様にご相談なさって連れて行ってもらったら良いのでは?ですが、王宮図書館はほとんどが帯出禁止ですよ。まずはアカデミーの図書館がよろしいのではないでしょうか。蔵書も豊富ですし」
「そうね、そうしようかしら」
ゴロゴロしているのをマーゴに見つかったら激怒されそうだけど、私は気にせずソファで手足を伸ばした。その様子を見て、リラが笑った。
「最近のお嬢様は、自然体でいらっしゃるので安心します」
「自然体?」
「以前のお嬢様は、常に気を張っておられて……。きっと家の中でもご自分を律していらしたのでしょう?」
「あー……多分ね……」
自分に厳しく、他人にも厳しい。それがゲームでのアリスの印象だった。公爵令嬢、王太子妃候補……。色んな肩書きでガチガチだったのかもしれない。自由を求めてはいけないといつも自分に言い聞かせていた。それはつまり、アリスは自由を求めていたのだ。
幼い頃のアリスの記憶を辿ると、兄や幼馴染たちと転げまわって遊んでいた楽しい記憶しかない。
そしておとずれた、いわゆる10歳の壁。
アカデミーに入り、自分よりも優秀な生徒たちを見て、それまで持っていた何でも出来る!どこへでも行ける!と思っていた万能感が消えた。他人と比較して劣等感を持つようになった頃から、アリスは人並み以上の水準を自分に課すようになる。誰よりも、未来の王妃としてふさわしくならねばならない、と。
だからこそ、アリスはヒロインに嫉妬したのだ。平民出身で、自由で、この上なく優秀だったヒロインに。そして、自分の中に凝り固まって存在していた「王妃の理想像」からかけ離れたヒロインが理解できなかったのだろう。
考え事ばかりしている私に、リラが明るく話しかけて話題を変えてくれた。
「そうそう、来月の舞踏会のドレスが出来上がりました。今日届いたのですが、試着なさいますか?」
「おードレス!試着したいー!!」
貴族っぽいね~~!(※貴族です)と浮かれた私は勢いよく飛び起きたが、すぐにそれを後悔した。
「うへぁ……」
変な声を出した私に、マーゴが不愉快そうな顔を向ける。
ゴッテゴテのロココ調のドレス。胸元も背中も広くあいて、パニエがこれでもかと重ねられスカートは広がり、動きにくそうだ。
下着だけにされた私のウエストは、コルセットでギリギリに絞られる。
「しぬ……ゲボッ……!お願い、ちょっと手加減してください」
「仕方ありませんね……」
マーゴがしぶしぶコルセットを緩めてくれた。いやもう、まじでしぬから。死人でなかったのかな
ドレスを着て、アクセサリーをつけ、手袋をして、扇子を持ち、ハイヒールで優雅に――。
「動けない!」
「弱音を吐かずに動いてください」
そして、試着だけのはずが、マーゴ先生による歩き方・座り方のお作法レッスンになってしまった。足と腰が痛い!
翌週、コルセットについて詳しくなかった私は、痛む腰をさすりながらアカデミーの図書館で調べまくっていた。銀水晶について調べるのは後回しにした。なぜなら『銀水晶の聖女』の伝説に関わる書物が絵本しかなかったからだ。建国のお伽話の中にしか登場しない。どうやら腰を据えて調べる必要がありそうなので、差し当たっての課題「コルセットで死にたくない」について調べていた。
ちなみに、この王立アカデミーは、王宮のすぐそばにあり、研究所、本校・高等部・初等部の学舎、図書館、ホール、庭園、レストラン、寮などの施設がある。
専門員しか入れない研究所の図書館と、だれでも入れる図書館のふたつがあり、それぞれの位置から、前者は東図書館、後者は西図書館と呼ばれていた。
勿論私は西図書館にいる。
私は新聞も含めてたくさんの資料を集めていた。
コルセットを締めすぎて失神するのは日常茶飯事、酷いと肋骨が折れて内臓に刺さったり、肝臓が破裂して死亡した事例もあった。
「おしゃれの範疇を越えている……こわすぎる……」
絶対に締めすぎないように、きつく言っておかなくては。アリスが拳を固めて真剣な表情で決意していると、頭上から軽やかなテノールが降ってきた。
「アリスは何を熱心に読んでるの?もうすぐ閉館時間だよ」
見上げると、ゆるくウェーブした、ダークブロンドを左耳の下で束ねた長身の青年がいた。
「……大公…殿下……」
ガブリエル・ジュリアン・ヴァロア。跡継ぎがなく絶えていたギーズ公爵の位を賜ったので、ギーズ大公殿下とも呼ばれる現国王の長子。
ラファエル王太子殿下の兄君がそこに立っていた。
私は寝転んだまま、顔だけをリラに向けて聞いた。
「そうですね。ご希望でしたら旦那様にご相談なさって連れて行ってもらったら良いのでは?ですが、王宮図書館はほとんどが帯出禁止ですよ。まずはアカデミーの図書館がよろしいのではないでしょうか。蔵書も豊富ですし」
「そうね、そうしようかしら」
ゴロゴロしているのをマーゴに見つかったら激怒されそうだけど、私は気にせずソファで手足を伸ばした。その様子を見て、リラが笑った。
「最近のお嬢様は、自然体でいらっしゃるので安心します」
「自然体?」
「以前のお嬢様は、常に気を張っておられて……。きっと家の中でもご自分を律していらしたのでしょう?」
「あー……多分ね……」
自分に厳しく、他人にも厳しい。それがゲームでのアリスの印象だった。公爵令嬢、王太子妃候補……。色んな肩書きでガチガチだったのかもしれない。自由を求めてはいけないといつも自分に言い聞かせていた。それはつまり、アリスは自由を求めていたのだ。
幼い頃のアリスの記憶を辿ると、兄や幼馴染たちと転げまわって遊んでいた楽しい記憶しかない。
そしておとずれた、いわゆる10歳の壁。
アカデミーに入り、自分よりも優秀な生徒たちを見て、それまで持っていた何でも出来る!どこへでも行ける!と思っていた万能感が消えた。他人と比較して劣等感を持つようになった頃から、アリスは人並み以上の水準を自分に課すようになる。誰よりも、未来の王妃としてふさわしくならねばならない、と。
だからこそ、アリスはヒロインに嫉妬したのだ。平民出身で、自由で、この上なく優秀だったヒロインに。そして、自分の中に凝り固まって存在していた「王妃の理想像」からかけ離れたヒロインが理解できなかったのだろう。
考え事ばかりしている私に、リラが明るく話しかけて話題を変えてくれた。
「そうそう、来月の舞踏会のドレスが出来上がりました。今日届いたのですが、試着なさいますか?」
「おードレス!試着したいー!!」
貴族っぽいね~~!(※貴族です)と浮かれた私は勢いよく飛び起きたが、すぐにそれを後悔した。
「うへぁ……」
変な声を出した私に、マーゴが不愉快そうな顔を向ける。
ゴッテゴテのロココ調のドレス。胸元も背中も広くあいて、パニエがこれでもかと重ねられスカートは広がり、動きにくそうだ。
下着だけにされた私のウエストは、コルセットでギリギリに絞られる。
「しぬ……ゲボッ……!お願い、ちょっと手加減してください」
「仕方ありませんね……」
マーゴがしぶしぶコルセットを緩めてくれた。いやもう、まじでしぬから。死人でなかったのかな
ドレスを着て、アクセサリーをつけ、手袋をして、扇子を持ち、ハイヒールで優雅に――。
「動けない!」
「弱音を吐かずに動いてください」
そして、試着だけのはずが、マーゴ先生による歩き方・座り方のお作法レッスンになってしまった。足と腰が痛い!
翌週、コルセットについて詳しくなかった私は、痛む腰をさすりながらアカデミーの図書館で調べまくっていた。銀水晶について調べるのは後回しにした。なぜなら『銀水晶の聖女』の伝説に関わる書物が絵本しかなかったからだ。建国のお伽話の中にしか登場しない。どうやら腰を据えて調べる必要がありそうなので、差し当たっての課題「コルセットで死にたくない」について調べていた。
ちなみに、この王立アカデミーは、王宮のすぐそばにあり、研究所、本校・高等部・初等部の学舎、図書館、ホール、庭園、レストラン、寮などの施設がある。
専門員しか入れない研究所の図書館と、だれでも入れる図書館のふたつがあり、それぞれの位置から、前者は東図書館、後者は西図書館と呼ばれていた。
勿論私は西図書館にいる。
私は新聞も含めてたくさんの資料を集めていた。
コルセットを締めすぎて失神するのは日常茶飯事、酷いと肋骨が折れて内臓に刺さったり、肝臓が破裂して死亡した事例もあった。
「おしゃれの範疇を越えている……こわすぎる……」
絶対に締めすぎないように、きつく言っておかなくては。アリスが拳を固めて真剣な表情で決意していると、頭上から軽やかなテノールが降ってきた。
「アリスは何を熱心に読んでるの?もうすぐ閉館時間だよ」
見上げると、ゆるくウェーブした、ダークブロンドを左耳の下で束ねた長身の青年がいた。
「……大公…殿下……」
ガブリエル・ジュリアン・ヴァロア。跡継ぎがなく絶えていたギーズ公爵の位を賜ったので、ギーズ大公殿下とも呼ばれる現国王の長子。
ラファエル王太子殿下の兄君がそこに立っていた。
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