私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

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初等部編

王子様とツンデレと姐さん_2

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「アリス、遅いよ。ギリギリだ」

 そう言って、私の方を向いて、自分の左隣の空席をトントンと指で叩いたのは、これまた幼馴染のリュカだった。

 リュカ・アクセル・エヴルー。
 エヴルー子爵のご令息。学業優秀なので、いずれ本家のエヴルー侯爵家に養子にいくのではと噂されている。
 まっすぐな赤毛はきっちりと束ねられて腰まで届く程長い。前髪も長いし、眼鏡を掛けているので見えにくいが、その瞳は美しいアイスブルーだ。真面目が服着て歩いてる、泣く子も黙る生徒会長リュカ様。

(長髪は美形にのみ許されるよね~~~!お邪魔しまーす!)
 そう思いながら、リュカの隣に座った。

「ギリギリでも間に合ったからいいだろう?」

 リュカの前に座っていたオスカーが振り向いて横やりを入れてくるが、リュカは無視していた。

「五分前には着席していろ。公爵家のお前が規範とならずしてどうする」
「おーい、リュカ。病み上がりにギャンギャン言うなよー」
「だったら一緒に連れてこい、オスカー」
「うっ、それは……」

 真っ赤になって口ごもるオスカーの頬が突然びよんと伸びた。

「んもう、朝のやり取り聞いたわよ~!オスカー照れてるの。恥ずかしいのよ、貴女といるのが。アリスちゃん罪作りね~~」

 オスカーのほっぺたをつまみあげ、会話に割り込んできたのはサシャだった。

 サシャ・アシル・コルベール。
 コルベール伯爵のご令息。コルベール伯爵領には大きな貿易港があり、サシャの家は王国一の資産家だと言われている。王族よりも財力があるとも。もっともコルベール伯爵は国政には関わるつもりがないようで、もっぱら貿易業に専念しているらしい。

「やえろ、はなひぇサシャ!」

 サシャはオスカーの頬をひっぱって遊んでいる。

「リュカはね、アリスちゃんをずーっと待ってたのよ。別クラスでしょう?合同のこの時間を楽しみにしてたのよう~~~」

 サシャは青い髪を肩から胸に流している。一本一本毛先まで手入れされているのがわかる。長い睫毛と流し目が妖艶で、薄化粧とネイルも控え目だが丁寧だ。男子生徒は制服にタイなのだが、女子生徒用のリボンをつけているのが良く似合っている。……何度も言うがご令息だ。
(オスカーとじゃれているサシャは、近所の坊やを可愛がる綺麗なおねえさんにしか見えない……)

「体調はどうだ」

 オスカーもサシャをも無視して、教壇の方を向いたまま急にリュカが問いかけてきた。心配してくれていたみたいだ。

「もう平気!」

 アリスはリュカの方を見て微笑んだ。少し顔を傾けて、前髪に隠れるようにして、リュカが目を細めた。

「なら良かった」

 それは、近くにいないと聞こえない、呟くような低い優しい声だった。

(デレたーー!!不器用!だがそこがいいっ!)
 
 朝から思っていたが、アリスは何だかんだ皆と仲が良い。
 しかし、浮かれてはいけない。この友人らは高等部入学後は敵になるのだから。

 
 先ほどサシャが言った通り、音楽の授業は一学年合同。ここに私の同級生が全員いるはず。私はクラスメイトの顔を見回した。『私』と『アリス』の記憶で、その名前や身分、どれくらい仲良かったかを思い出していった。
 『私』の記憶にあって、『アリス』の記憶にはないその人を探すために。

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