私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

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初等部編

昼休みに水をかけられる公爵令嬢

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 帰宅してすぐに、私は執事のルベンに聞いてみた。

「貴族年鑑みたいなのってあるかしら?」
「勿論、ございますよ。後程お部屋へお届けいたします」

 着替えを済ませた頃合いをみて、ルベンが貴族年鑑を持ってきてくれた。この国の王族・貴族の系譜が詳しく載っている。他国の王侯貴族についても網羅したものも持ってきてくれていたが、そちらは遠慮しておいた。
 私が知りたかったのは、ダンピエール伯爵家についてだ。リラとカーラに教えてもらいながら、貴族年鑑を見ていった。

 宰相を務めるエヴルー侯爵の長男がダンピエール伯爵。伯爵令嬢は二人。年齢は同じ17歳。
 ルイーズ嬢は、伯爵夫人の子で、もう一人の王太子妃候補。
 エヴルー侯爵から見れば内孫だ。家庭教師をつけてお妃教育も受けさせている。

 今日、私に言いがかりをつけてきたロアンヌ嬢は、愛人の子らしく、嫡出としてともに育てられてはいるが、お妃教育は受けていないらしい。

「ロアンヌ嬢とルイーズ嬢は、そんなに仲が良いわけではないようですよ」

 そうカーラが教えてくれた。では、今日の嫌がらせは単独行動の結果?
 やっぱり一族であるリュカに直接聞いた方がいい。
 この前、生徒会室に行ったときは、ラファエル様がいて、突然謎の告白をされたりしたから、結局聞きたかったことが聞けてない。
 ただ、リュカは幼馴染で仲良くしてくれているけど、エヴルー侯爵家の分家の人間だから、エヴルー侯やダンピエール伯にとって不利なことは教えてくれないかもしれない。そう思うと少しだけ不安になった。



 ポカポカ陽気のお昼休み、庭園の芝生に座ってランチをしていたら、突然雨が降ってきた……のではなく、バケツの水をぶっかけられた。

「あーら、ごめんなさい。そこにいらっしゃるのに気づかなくて!」

 ホホホという笑い方さえ白々しい謝罪に、びっくりしすぎて目をパチパチさせていると泣いてると勘違いされたようだ。さらに高笑いしていた。

「アリス様!大丈夫ですか?……何てひどい事を!あれはコンラディン子爵令嬢!許せませんわ」

 一緒にランチタイムを過ごしていたダンテス伯爵令嬢カミーユが、急いでハンカチを出してくれる。

「カミーユ、ありがとう。あなたは濡れなかった?」
「私は大丈夫です。ああ、スカートまでぐっしょり濡れてしまって……」

 カミーユは一生懸命拭いてくれているが、何ならもう下着まで濡れていたのでどうしようもなかった。お昼を食べてしまったあとだったのは不幸中の幸いだった。ごはんを台無しにされていたら、多分怒り狂っていた。

「カミーユが濡れなくて良かったわ……」

 そう言って私はヨロヨロと立ち上がる。
 なんて古典的な嫌がらせ……。これもロアンヌ嬢の指示なんだろうか。

「せっかくのランチをお騒がせしてごめんなさい。私、着替えてきますわね……」

 とぼとぼ歩いていると、せせら笑いが聞こえる。

「いい気味」「みっともない」「無様ね」

 えーと、ここは小学校かな?幼稚園かな?

「みっともないのはどちらでしょう?」

 私はそう言って、こそこそと陰口を叩くご令嬢方を睨み付けると、つかつかと歩み寄った。
 反論すると思わなかったのだろう、かなり怯えた顔をしている。
 ご令嬢方の中から、コンラディン子爵令嬢とやらを見つけ出して抱きついてやった。

「キャアア!何をなさるの?!」
「私、ちょうど暑いなぁと思っていた所でしたの。丁度良かったですわ!ありがとうございます、コンラディン子爵令嬢!」

 乙女の悲鳴が耳に痛い。びしょ濡れの私に抱きつかれて、子爵令嬢の制服もびっしょびしょになった。ざまぁ見ろ。

「アリス様ったら!うふふふ、あはははは」

 うしろでカミーユが笑っている。
 幼稚な仕返しだったが、カミーユにウケたみたいなので私は満足した。




 「……サシャ、ちょっと助けて」

 庭園から教室に戻ろうとした所でサシャを見つけたので、思わず助けを求めた。

「えーやだぁ、水も滴るアリスちゃん!美少女3割増しよぉ~」
「いや、そういうのいいから。ほんと早いとこ助けて」

 ロッカールームへ行き、サシャが自分の予備の制服を貸してくれる。女子用をなぜ持っているのかは聞いてはいけない。

「下着はさすがにもってないわよ?」
「え?」

 ジャケットを脱ぐとブラウスもぐしゃぐしゃで、下着の線が見えていた。

「あっ!」

 今更恥ずかしくなる。わたわたしていたら、サシャが私の顎を掴んで、私の顔を自分の方に向けた。

 (こっ、これは顎クイでは……)

「こんな姿、アタシ以外の男に見せちゃだめよ。アタシの恋愛対象は16歳以上だから襲われてないだけなんだからね?」

 そう言って口の端にキスをされた。キスされた。口の端だったけど、キスされてしまった。

「アリスちゃんが着替え終わるまで外を見張っとくからぁ~」

 サシャは、手をヒラヒラさせてロッカールームの外に行く。
 私は触れられた頬が熱くてしばらく動けなかった。


 
 下着は我慢して制服だけを着替え、ロッカールームを出ると、サシャの隣にアレックスがいる。
 私を見つけると怒ったような足取りで近づいてきた。

「昨日の約束にもうひとつ、付け加えてほしい」
「何?知らない人にはついていかないって約束?」

「知ってる人でもひとりでついていかない!」
「はい!知ってる人でもひとりでついていかない!」

「アタシ、何にもしてないわよ。失礼ね」

 しれっと誤魔化そうとしてるサシャを、アレックスは無言で睨み付けていた。根負けしたのか、サシャが白状する。

「……んもう、キスしただけよ!」
「どこに?!」
「唇じゃないわよ。口の端。友情!友愛!」
「だめだ。アリス、もう一度言う。知ってる人でもひとりでついていかない!」

「はい!知ってる人でもひとりでついていかない!」

 また、私は素直に復唱した。
 
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