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初等部編
閑話 公爵令嬢の書簡
しおりを挟むエリアス・アヴェーヌはとても困っていた。ルテール公爵家からの書簡が届いたのだ。
「文通してください!」と言われ、よくわからないまま承諾したが、はじめての書簡はお茶会への招待状だった。非常に困る。なぜならエリアスは、社交界に出る気などさらさら無かったからだ。
【公爵令嬢からの書簡】
『親愛なるエリアス・アヴェーヌ様へ。先日は危ないところを助けて頂き、ありがとうございました。また、舞踏会の折もお世話になった旨、改めて御礼申し上げます。ささかやですが御礼をしたく、我が家でお茶会を催させて頂きます。つきましては、主賓としてお越し頂きたく存じます。別途招待状を添えておりますので、ご覧ください。会える日を心から楽しみにしています。アリス・マグノリア・ルテールより』
「……無理です」
手紙を持ってきたカーラという侍女にそう告げた。マルシェでも会ったあのすばしこい侍女だった。
「わかりました。断られたら理由を聞いて来いと言われておりますので、お聞かせ願えますか?」
「見ての通りです。公爵家のお茶会に招かれても、着ていく服もない。粗相するのは目に見えておりますから、お気持ちだけ有難く頂きます。先日も直接申し上げておりますが、どうか捨て置きください」
父親は騎士爵で、自分も縁あって騎士団に入っている。騎士爵は一代限りだから、自分の身分は平民。公爵家などとは無縁に生きていくと思っていた。
いま、公爵家の遣いであるカーラを応接しているこの家だって、多分ルテール公爵家の馬小屋より狭いだろう。両親と妹の四人暮らし。台所と寝室が二つ。浴室はあるが狭い。それでも今の自分には十分だった。ささやかで穏やかに暮らしていたのだ。あの公爵令嬢に会うまでは。
あったその日に「ずっと探していました」と言われて、翌日にはマルシェで会って、正直恐怖を感じた。一体何者なのだと思った。慕われているようだが、よくわからない。今でもなるべく関わりたくないと思っている。
「少し待ってください」
エリアスはそうカーラに告げて、手紙を書いた。口頭だけではカーラが叱られるかもしれないと思ったからだ。
【エリアスからの書簡】
『アリス・マグノリア・ルテール嬢へ。お手紙ありがとうございました。わが身には過分なるお言葉、恐れ入ります。大変光栄に存じますが、お茶会への出席は遠慮させて頂きます。エリアス・アヴェーヌより』
「確かにお預かりいたしました」
そう言ってカーラは帰っていった。これでもう来ないだろう。そう思っていたら、次の日には返事が来た。
【公爵令嬢からの書簡】
『親愛なるエリアス・アヴェーヌ様へ。お返事ありがとうございます。あなたの筆跡はとても綺麗ですね。とても嬉しかったので、お手紙を大切に包んで一緒に眠りました。さて、お茶会はご辞退なさるとの事でしたので、代わりに貴方の服を仕立てることをお許しください。ささやかな贈り物として受け取って頂ければ幸いです。また会える日を心から楽しみにしております。アリス・マグノリア・ルテールより』
これを読んだエリアスは頭を抱えた。この令嬢、ナチュラルにストーカーだ。
手紙のやり取りはまだまだ続く……。
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