私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

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初等部編

意外な場所で、意外な人物が、意外な事をしてる_1

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 エリアスがその貴族の顔を見て言った。やや嫌悪の含まれた言い方だった。

「エーメ男爵ですか……」
「……な、なんだ貴様ら」

 エーメ男爵と呼ばれた青年は、カーラの持つ短剣を見て顔色を失っている。平然と刃を突きつけたままカーラが言った。

「確か、金で爵位を買った新興貴族の方ですね。こちらにおられるのは、ルテール公爵家のご令嬢。無礼ですよ」
「こ、公爵?公爵令嬢がこんな所にいるわけない!!」

 私は(ああ、某時代劇のようなテンプレのセリフ……)だなあと思い、「カーラさん、エリアスさん、やっておしまいなさい」と言いたかったがやめた。印籠持ってないし、子供の方が心配だったので。

 そこへ数人の憲兵が来て、周りの人達が「歩道に馬車が乗り上げた」「そのまま逃げようとしやがった」など口々に事情を話し始めた。そちらは任せて私は医者がくるのを止血をしながら待っていた。呼吸はしているが、顔色はどんどん悪くなっていく。どうしようと思っていたら誰かが「僕が手当するよ」と声をかけてきた。

 見れば、フードを被った長身の男性が群衆を割るようにして立っていた。声も仕草も若い。
 それを聞いたエリアスは剣をおさめ、フードの男性の指示に従って慎重に子供を抱き上げる。
 周りの人たちに案内されて、ベッドを提供してくれるという近くの家へ入った。
 その男性は子どもを質素なベッドに寝かせ、ひざまずいて様子を見ている。

 お医者様?それにしては道具もなにも持ってないような。
 おじいちゃん先生が診察カバンのようなものをもって往診しているイメージだったので、不思議に思った。
 そうっと覗き見るとフードからこぼれるダークブロンド。

 ――そこにいたのはガブリエルだった。

「大公……」

 ガブリエルが黙るように口元に人差指を立てるから、私は少し驚いた。今まで見たことないような穏やかな表情をしていた。

「じゃあ、手当を始めるよ。大丈夫だから」

 横で泣き続けている女の子に優しく言って、ガブリエルは男の子の頭に手をかざす。部屋の中に風が舞う。ガブリエルの手に向かって流れ込む風。いやこれは、空気中の水蒸気?

 ガブリエルは光る水を操っていた。




 あんなに白かった男の子の顔色は、血色を取り戻してピンク色になったから、私はほっとした。ガブリエルが傍らに付き添う少女に向かって言う。

「少し寝かせてあげて。しばらくしたら目を覚ますよ」
「ありがとう、ガブ」

 どうやら、少女とは面識があるらしい。少女が家人に促されて休憩するために部屋を出たあと、私は少し逡巡しつつ質問した。さっきのはどう見ても、キラキラした不思議な力。癒しの水の力。

「……ガブリエル、あなた……魔法が使えるの?」
「秘密にしといてね」

 普段と全然違う柔らかい雰囲気に私は悟った。この人は、ずっと演技をしていたのか。

「私は、あなたを誤解してたみたい」
「出来れば忘れてくれると有り難いな。社交界で会ったらいつも通りに接してほしい。ところで、隣の君は……?」

 ガブリエルが私の隣に視線を移したので、エリアスが短く自己紹介した。そこでわかったのだが、エリアスはやはり準貴族だった。


「エリアスくんも黙っといてね」
「あと君も」

 入り口に立っていたカーラに向かってガブリエルが言う。
 カーラは返事をしなかった。

「うん、まあ君は、アリスの侍女兼護衛なんだろうね。報告しないわけにはいかないか。では、ガブリエルという若者に会いましたと言えばいい。ガブリエルなんて名前、ありふれてる。アリスが気づいた僕の身分だけ伏せてほしい。どうかな?」

 カーラは躊躇いながらも頷いていた。



 ガブリエルが案内してくれた安レストランガルゴットへ入る。狭くて賑やかで、びっくりするほど安くて美味しいお店だった。ガブリエルもフードを取って、長い髪を後ろに結びワインを片手にリラックスしている。その横に座ったエリアスは水を飲んでいた。

「お嬢様のお口には合ったかな?」
「うむ。うむ」

 ガブリエルに聞かれて、もぐもぐしながらうなずいたので、向かいのエリアスが笑っていた。しまった!恥ずかしい!
 でも、笑うと可愛い……。今まで不審者を見る目でしか見られてなかったから、何だかうれしかった。

「まあ、メニューに子羊の赤ワイン煮込と書いてあってもたいてい牛なんだけど、そこはご愛敬だよね」

 そして、ワインを飲みながらぽつりぽつりとガブリエルが話して始めた。


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