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初等部編
昼下がりのマルシェで再会したけど事件です_1
しおりを挟む勝手に外に出てドレスを汚した事を酷く叱られてしまい、私は先に下がることになった。
「仕方のないお転婆姫ですこと!こんなに泥だらけになって!全くもう!これでは広間には入れませんよ!」
さっきまでは叱られてもいいと思っていたが、落ち込んでいるところに追い打ちをかけられたようで、また泣きたくなってきた。しんどい。
「まあまあ、クロエ。陛下ももうすぐ帰られるし、アリスはこのまま休みなさい」
「申し訳ありません。お父様、お母様」
リラとカーラに裾を持ち上げてもらい、自室へ戻ろうとした時、広間から出てきたラファエル様が私を呼び止めた。
「アリス、倒れたと聞いたが……」
「大丈夫です。ラファエル様が汚れてしまいます。私に近寄らないでくださいませ」
「いや、構わない」
ああ、この王子様はきっと私を抱きかかえてくれるだろう。
それだけは嫌だった。今は。
「いいえ!」
私が大きな声を出したので、両親もリラもカーラも驚いている。
「いいえ、ラファエル様。私のせいでラファエル様のお召物を泥で汚してしまっては、私は恥ずかしくて明日から外へ出られませんわ。私の事を思ってくださるなら、どうかこのまま下がらせてください」
「わかったよ、アリス……」
私は精一杯微笑んで、自室へ下がった。湯浴みをすませてベッドに潜り込む。遠くにいても広間のざわめきは聞こえてくる。舞踏会は未明まで続く。疲れていた私は、(あーあ……ごめんなさい、お父様、お母様、みんな)と思いつつ、意識を失うように眠ってしまった。
舞踏会の翌日は、昼過ぎまで皆起きてこない。使用人たちは勿論交代で働いているが、父も母も、兄弟も、まだ寝ているだろう。いや、兄は読書しているかもしれない。私はというと、リラとカーラが起こしにくるまで、布団の中で目を覚ましてからずっと(あああああ!!!私のバーカバーカ!!!いや、バカなのはわかってたけど、つらい!!!)とめそめそしていた。昨日の記憶を反芻すると後悔しかない。
食堂に行くと、兄マクシムと弟ジュリアンが楽しそうに話をしていた。私に気づくと二人とも立ち上がって駆け寄ってくる。
「おはよう、アリス。まだ顔色が悪いね」
「お姉様、大丈夫?」
ジュリアンが下から覗きこんでくるから、私はうつむいたその角度のまま答えた。
「大丈夫よ、ちょっと疲れがとれないだけ」
「アリス、軽く食べるといいよ。今日のスープは特に美味しいよ」
お兄様がそっと私の髪に触れながら優しい声で促して、私を席まで連れていってくれる。優しさが沁みる……。
遅れてお父様もやってきた。お母様はまだ休まれてるそうだ。
「アリスも今日はゆっくり過ごしなさい」
父に言われ、私はスープでパンを無理矢理飲み込むと自室に戻った。
リラも昨夜は働きづめだったので、休むように言った。
ベッドで寝ている私を気遣うように、カーラが静かにお茶の準備をしてくれている。
どんよりしている私に、カーラが言った。
「あの……アリスお嬢様、お散歩でもどうですか?」
リラに遠慮して、自分から何かを言うことはほとんどないカーラが、私に提案するのは初めてかもしれない。ベッドからおりてカーラのいるソファまで歩いた。
「私、下働きしていた頃、よくお使いに行ってました。今日はマルシェがあります。下町ですが、気晴らしにどうでしょう?きっと楽しいですよ」
カーラはもしかしたら、一部始終聞いてたのかな……。単に疲れてるだけじゃないと解って元気づけようとしてるのかもしれない。
「行ってみようかな!」
私がそう言うと、ほっとしたようにカーラが笑った。部屋にいても、鬱々としてるだけだろうから出掛けよう。
下町に行ってもおかしくないよう、エプロンワンピースを選んでみた。歩きやすいように編上げブーツを履く。豪華なドレスも楽しかったけど、動きやすい格好の方がやっぱり自分らしくていいなぁと思っていた。
執事のルベンに徒歩で出かける事を告げると驚かれた。カーラはいつも歩いていたらしいので、私も同じルートを歩いてみたかったのだが、どうしてもとルベンが言うので、城門までは馬車を使った。マルシェは城門の外にある。
先の戦争で、外にさらに砦と塀が作られているので、もとからあった城門を内門、新しい方は外門と呼ばれている。貴族が内門から外へ出ることは滅多にない。
馬車が王都の城門を入る際に税金をとられるので、行商人は平民向けに内門と外門の間でも商売をしており、カーラはお使いで何度もここに通ったという。日曜日のマルシェは、さらにたくさんの屋台も出るので、お使いついでにそれを楽しんでいたらしい。
昼下がりのマルシェ。港から運ばれてきた魚介類。見たことないような鮮やかな色の魚もあれば、鯖や鯵などに似た馴染みの魚もあった。隣国から輸入されたという果物は店先に積み上げられて、こぼれ落ちそうなのに絶妙なバランスを保っている。たくさんの花を売る店や、小物やアクセサリーのお店もある。
貴族街にはない賑やかさで、街は活気に溢れていた。
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