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初等部編
これは、お姫様だっこ?!
しおりを挟む初等部で会えなかったから、高等部入学まで待たなければならないかと思っていたのだけど。
今、目の前にいる。私の好きな人、『クラスメイト』。
「顔色が悪い。休まれた方がいい」
「あ………」
それきり私は言葉が出てこなかった。
目の前に私の最推しがいる。
現実に、生きてる人間として。
「アリスお嬢様、どうなさいました?」
私の異変に気づいた給仕が声を掛け、その人が私に向かって問いかけた。
「貴女は、ルテール公爵令嬢?」
「……あ……」
うなずくのが精一杯だった。推しを目の前にしたオタクは語彙を失うのだ。まして、抱きかかえられてる状態で、まともな思考など出来ない。挙動不審じゃないだけ誉めてほしい。
「ご無礼をお許しください」
その人は、そう言うと、片手を私の両膝の下にいれて持ち上げた。
(これは……お姫様だっこ……?)
私の思考は完全に停止した。
近くの使用人に休める場所がないかと聞いていた。
(これは……お姫様だっこ……)
玄関ホールは噴水もあるし、簡易なソファもある。外の風も入ってくるし、そこがいいだろうと会話している。
(これはお姫様だっこ……)
痩せているとはいえ、それなりに体重はあるし、ドレスだって重たいはず。それを軽々と抱えて、その人は広間から玄関ホールへ続く大階段を下りていく。
(これはお姫様だっこ)
玄関ホールのソファに私を下ろすと、跪いた。
「ルテール公爵令嬢、本日はお誕生日おめでとうございます。お疲れなのでしょう。少しお休みください」
視界の端にリラが走ってくるのが見えた。誰かが呼んだのだろう。
「侍女が来たようですね。では私はこれで失礼します」
リラが立ち去るその人に御礼を言い、私の方へ駆け寄ってきた。
「これはお姫様だっこーー!?!?」
私はリラの手を握って叫んだ。
急に叫ばれてびっくりしたリラが、お疲れなのですね、と言っていたが、それどころではない。
「お嬢様、動いてはなりません!」と言うリラの制止を手を振りほどいて、私は追わずにはいられなかった。
(は?は?何?めちゃくちゃかっこよかったんだけど、何?何あれ?)
力強く支えてくれた手。礼儀正しい振舞い。
清廉な人柄が垣間見える落ち着いた声。
実直さを感じるその仕草。
騎士の服を着ていた。でも礼装ではなかった。ということは任務中。多分、招待客ではなく、誰かを迎えに来たのだと思う。
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