私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

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初等部編

主役だけど舞踏会を欠席したくなりました_1

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 「お聞き苦しくて申し訳ありません、殿下。あの子、もう取り繕うのを止めたみたいで」

 ルテール公爵夫人クロエが扇で口元を隠しつつ、ラファエルに話しかけた。着替え中のアリスの大騒ぎを聞いて、笑いを堪えきれない様子だ。
 ラファエルは応接室サロンで夫人とお茶を飲みながらアリスがドレスに着替え終わるのを待っている。

「いえ、こちらこそ。約束もせずお伺いした非礼をお詫び申し上げる」
「それは構いませんのよ」

「というと?」
「殿下がいらっしゃると必ず私が喜びます」

「クロエ叔母様、ありがとう」

 正確には従叔母だが、親しみを込めてラファエルはルテール公爵夫人を叔母と呼ぶ。
 公爵夫人は扇を閉じて優雅に笑った。

「馬車の事故の時にはとても心配しましたが、あのあとはすっかり憑き物が落ちたように昔に戻って」

「そうですね。明るくて元気なアリスに戻りました」

「10歳位からかしら。段々と身分を意識しだして、張り詰めた顔をして」

 公爵夫人が長い睫毛を伏せる。その言葉を聞いて、ラファエルはティーカップとソーサーを静かにテーブルに置いた。

「誰かに何か言われたのかも知れないし、自分で考えたのかもしれない。私には何も話してくれなかった……」

「クロエ叔母様……。大丈夫ですよ、アリスは……」


「お待たせしましたー!!!」


 開いたままの応接室の扉から、群青色のドレスを着たアリスが現れ、言葉を遮られたラファエルはクロエと目を合わせると可笑しそうに笑った。








 応接室では、母と王太子殿下がお茶を飲んでいる。それを見た私は(何これめちゃくちゃ絵にならない?)と思っていた。妙齢の貴婦人と王子様。スチルに欲しいわ。眼前に新規絵。ありがとうございます。

「何をぼんやり立ってるの。ご挨拶なさい」
「はっ、よだれが出そうになってました。すみません」

 母に注意されて正気に戻り、そそと移動し、王太子殿下の前で深く淑女の礼をする。顔をあげて微笑んで言った。

「お待たせしました、ラファエル様。頂いた耳飾りと首飾りです。いかがでしょうか?」
「よかった。エメラルドは貴女の翠の瞳によく栄えている。先程出来上がったので、どうしても僕の手で届けたくて」

 そう、先ほどラファエル様が王家からの誕生祝いということでアクセサリーを届けにきてくれたのだ。遣いの者でいいのに、御自らお出ましになられたおかげで、その試着のためにコルセットを締めてドレスを着るはめになった。せっかくのんびりしてたのに。

「ドレスは最終調整に出してますから、ラファエル様は本番を楽しみになさってくださいませね」

 お母様はいつもより楽しそうに笑っていた。
 (あー…『王太子殿下のエスコート』ってやっぱり周りは喜ぶんだな)

「クロエ叔母様、アリスは舞踏会でも今日と同じ色のドレスですか?」
「そうですね」

「では、僕も色を合わせていいですか?」
「ええ、ええ!勿論!」

「は?」

 いやいや待て待て。お揃いとか、盛大に誤解されてしまう。一曲踊ってバイバイだろうからやめて頂きたい……と思っていたのに、私の思惑をよそに二人がどんどん話を進めている。

「あわわ、あの、舞踏会まで日もないですし……そこまでしなくても」

 私がおずおずと口を挟んだら、にっこり笑った王太子殿下から即答された。

「間に合わせます」
うわぁ権力使う気だぞこの王子様。

「では、うちも少しだけデザインを変えましょう」
うわぁ権力使う気だぞこの公爵夫人。

 嵐を呼ぶ予感がする。
 自分の誕生日パーティーだけど、欠席したくなってきた……。


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