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初等部編
兄弟喧嘩に巻き込まないでください_1
しおりを挟む私の前には、書籍、貴族のための高額な雑誌だけでなく、民衆が読むような新聞もあった。マーゴが見たら下賤だと怒り狂いそうな内容も載っている。それを見てガブリエルは面白そうに笑った。
「アリス嬢もそんなの読むんだ」
ふうんと笑うと、私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
ガブリエルは、アリスの2つ年上。17歳で高等部に在籍している。長いダークブロンドに深い蒼い瞳。ラファエル様に似ているが、生来のものか育ちのせいか、王子様というよりは野心的な顔立ち。
「ラファエルにはもったいない気がしてきたなぁ」
「殿下が何をおっしゃりたいのかわかりません」
ガブリエルの手を振り払って立ち上がり、本を返すために歩き出した。雑誌に染み込ませてある香水が薫る。一級の調香師によるその残り香を追うように、ガブリエルがついてきた。
ガブリエルは、国王の長男だが庶子である。身分の低い侍女が国王のお手付きとなり産んだ子どもで、離宮で育った。彼は15歳で公爵位を賜り、臣に下った。母方の後盾もない庶子が、なんの功績もなく15歳で公爵という破格の待遇に反発もあったが、領地は王家直轄のままにするということで収まったそうだ。
国王が自分の子だと認めているため大公殿下と呼ばれるが、要はただのお飾り肩書。母親も身分は平民のまま。隠れるように離宮に住み、国王からの寵愛を受けている。ガブリエルの下に小さいお子様もいるそうだが、王室の禁忌とされ、ほとんど話題にされない。
……何より王妃様がその話題を忌み嫌っているので。
そのような事情は別としても、生真面目なアリスは、幼い頃から軽佻浮薄な振舞いのガブリエルが苦手だった。今も習性でつい避けてしまう。
「アリスは来月、社交界デビューだったよね。エスコートの相手は決まった?」
「まだ……ですけど……。大公殿下には関係ありません」
「関係あるよ。まだ決まってないなら僕も立候補したいんだけど」
「え?」
思わぬ言葉に私は立ち止まった。この人は私が自分を避けていることを知ってるくせに何を言ってるんだろう。
立ち止まり振り返った私に歩み寄り、ごく自然に、ガブリエルは私の腰に腕をまわした。書棚と書棚との狭い隙間なので密着してしまう。
ダークブロンドの髪が頬に触れる。
(近い!ちーかーいーーー!!!アワワワワ)
ふたつしか年が離れていないわりに、ガブリエルは大人びている。その視線に、私はびくりと肩を震わせた。
「怯えてるの?可愛いね。泣かせてみたくなるな……」
「そこまでです、兄上。アリスから離れてもらえませんか?」
足音もなく近づいていたラファエル様は私の腕を掴んで、やや強引にガブリエルから引きはがしてくれた。
(びっくりした~~!王子様!ありがとうございます。まさに天使)
「おっと、王子様のご登場だね。そんな睨まなくても、無体な真似はしないよ」
穏和なラファエルが苛立っている様子をみて、ガブリエルは面白そうに笑った。そして指の背で私の唇に触れた。
「こんな場所では……ね」
「かっ……からかわないでください!」
私が振り上げた手を軽々と躱すと、ガブリエルは意味深長な微笑みだけ残して颯爽と去っていった。
実際、ゲームにおいても、ガブリエルは謎が多い人物だった。攻略対象ではなくヒロインの味方でもない。ヒロインの味方じゃないなら、自分の味方にした方がいいのかな?うーん、無理。『アリス』が苦手みたい。
「アリス、何もなかった?」
「大丈夫です、ラファエル様」
図書館から出て、改めて御礼を言うと、ラファエル様がほっとしたように笑う。
この異母兄弟はゲーム上の設定でも、仲が良くない。
正妃と、側室ですらない平民の妾。母親同士の争いもあったというし、仲良くするのは難しいんだろう。
「聞こえてしまったのだけど」
「はい?」
ラファエル様が真っすぐに私を見て言った。
「舞踏会の相手が決まってないなら、僕にエスコートさせてもらえないかな?」
「はいいいいい?????」
大公殿下へのあてつけでしょ?と言いたかったが、もちろん言える立場じゃない。まだ決めてないことはバレてるから誤魔化しようがなく、私は精一杯とりつくろった笑顔で返事をした。
「ありがとうございます、ラファエル様。よろこんで」
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