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初等部編
王子様とツンデレと姐さん_1
しおりを挟む廊下の先にはラファエル王太子殿下。窓から差し込む日の光を浴びて、金髪がきらめいている。
そして、王子様を取り囲む彼女らは一定の距離を保っていた。
(なんだろうあれ…見たことある…。この既視感…あれだ…千葉にある某テーマパークのグリーティングだ)
キャラクターが立ち止まると取り囲み、歩き出すとついて行く。でも決して近づき過ぎない。あれと同じだ。
うーん、さすが王子様、と感心しているとその王子様の視線が私を捉えた。
「アリス!登校できるようになったんだね!」
「はいっ!」
反射的に返事をした。呼ばれると思ってなかったので直立不動になり、持っていた教材を全部落とした。完全に傍観者だったので、必要以上に驚いてしまった。
「どうしたの、変なアリス。まだ具合悪いの?」
ふふっと笑いながら殿下が近づいてくる。
うっわー近い!近いよ!と思っていたら、殿下が私の足元に跪いた。
「な、なにをなさってるの、王太子殿下」
「ん?」
王子様が目を丸くして見上げてくる。
(美少年ーー!美少年すぎるよー!眩しい!目が!目がァ!)ってふざけてる場合じゃない。殿下は散らばった教材を拾ってくれていた。
「殿下、申し訳ありません」
慌てて自分もしゃがむ。ふわりと制服のスカートを広げ膝をつく。
必然的に殿下との距離が縮まる。膝と膝がつきそうな位近づいたとき、囁くように殿下が言った。
「私的な場ではラファエルでいいとあれほど言ったのに。親戚で幼馴染だろ。オスカーとは喧嘩するほど仲良いのに、どうして僕には他人行儀なの?」
「あ、ごめんなさい。殿下」
「ラファエル」
「はい。ラファエル……様」
「頑固なアリスにしては合格点かな」
いたずらっぽく笑う王子様。
思わずほうとため息をついてしまった。気さくで優しい王子様。こんなん惚れてまうやろ。
そして、嫉妬の視線が突き刺さるのを背中にビシバシ感じていた。
「なんてあざといの。いくら公爵令嬢とはいえ、殿下に拾わせるなんて」
「お優しい殿下に甘えておられる」
「恥ずかしくないのかしら」
そう言ってるのは取り囲んでいた女子生徒の一部なんだろう。聞こえてるよ。別に気にしないけど。
「ラファエル様、ありがとうございました」
淑女らしく微笑んで礼をする。角度も微笑みも完璧だと思う。マーゴに叩きこまれて体が覚えている。
私が名前を呼んだことが嬉しいのか、満面の笑みで王子様が胸に手をあてて返礼してくれた。
(国宝じゃ、この笑顔は国宝じゃのう……)
「行こうか」と促されてラファエル様と一緒に音楽室に入った。入口にはアレックスが待っていて、ラファエル様を前方の席へ案内していく。
ラファエル様が「アリスの席を」とアレックスに言うのが聞こえたので、慌てて手を振った。
「私は後ろに座りますから、大丈夫です!」
(あっぶなー!美少年パワーについていきそうになったよ……。関わらないのが一番)
ラファエル様が少し寂しそうにしていて胸が痛んだが、王太子婚約者ルートで死にたくないので仕方がない。
見渡すともう最後列しか席が無かった。
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