私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

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初等部編

推しが目の前にいる生活_1

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 彼を知り己を知れば百戦危うからず。
 私の場合、まずは己を知らなければならない。

『王太子の婚約者であるアリスは、ヒロインに意地悪をしまくって二年目の学園祭で断罪される→闇堕ちして、悪魔召喚しようとする→しぬ→ヒロイン覚醒!』

「悪魔召喚ってなんだこれ……。どうやってするの?」
「アリスお嬢様、なにやら物騒な単語が聞こえましたけど……」

 テーブルにお茶の準備をしていた侍女のリラが、ベッドにいる私の方を向いて怯えた顔をしたので、「あははー!何でもない!夢の話!」と笑って誤魔化した。

 私は紙に『日本語』で、覚えている限りのシナリオを書き出していた。びっくりするほどスッカスカだった。使えない『私』の記憶……。
 とりあえず、王太子の婚約者にはならない方がいい。うん、これはフラグ回避の王道だろう。そしてヒロインちゃんに近づかない。これだ!仲良くするのもやめておこう。
 あとは……シナリオでは、悪が顕現したら、ヒロインがバーンと覚醒してキラキラーってやっつけて、めでたし!みたいな感じだったけど……。(※記憶力の限界)

「だから、悪魔召喚って何よ……」
 
 イケメン魔王だったらよろこんで召喚するけど、でもそんなのはなかったなあ……ヒロイン覚醒がメインでわりとサクッとストーリーがすすんで……とブツブツ言っていたら、いよいよリラが泣きそうな顔をしている。気が触れたわけじゃないよ!
 リラはふたつ年上で姉みたいな存在。11歳の頃からずっと一緒だから家族同然。悲しませてはならない。
 私は脳内シミュレーションをやめてベッドからおり、ソファに座った。出来るだけおしとやかにお茶を飲んでみたが、リラはまだ不安そうな顔をしている。
 


「ねえ、リラ。私はいま何歳?」
「14歳でございますよ、お嬢様。来月のお誕生日で15歳。いよいよ社交界デビューですね」

 大丈夫ですか?と怪訝そうな顔をしながらリラが答えてくれる。



 お嬢様の様子がおかしい、ということはうちの共有事項になっていた。
 事故から一週間が経ち、屋敷中をうろうろしながら、「これは何?」「何をしてるの?」「あれは誰?」と、皆にあれこれ質問していたからだ。


 『アリス』の記憶はとてもはっきりしていて、『私』の記憶は過去のものとして認識されている。『私はアリスである』という認識を鮮明にするために、記憶と実物を突き合わせる作業をしていた。もともとが忘れっぽいから、何度も同じような質問をして、皆から憐れむような眼を向けられていたが気にしない。

 まず屋敷が広い。豪邸のレベルが半端ない。方向音痴でもある私は、毎日迷子になっていた。でも領地にはもっと大きいお屋敷があるそうで、それはもうお城といって差し支えないらしい。父が国の要職に就いているため、アリスは幼い頃からほとんどを王都で過ごしているので、伝聞であるが。
 この王都の屋敷は一般的な貴族の館で、コの字型をしている。中央二階には、生前見たホテルのバンケットルームより広い大広間がある。しかもそこで公爵主催の舞踏会も開かれるそうな。王族を招待する為の席もしつらえてあるとか。
 自分ちで舞踏会って何だ。意味わからん。
 でもその意味わからん「自分ちで15歳のお誕生日の舞踏会」にて私は社交界デビューする、らしい。

(えーと、お誕生日会って、お友達が集まって文房具とかのプレゼントもらって、お母さんがケーキ焼いてくれてジュース飲んでワイワイするあれじゃないの?)

 この国では、一般的に14~16歳くらいの貴族の子女は、『王宮の舞踏会』で社交界デビューするそうなので、娘のデビューのために舞踏会を主催する公爵家が破格なのだろう。ちなみに大きな舞踏会としては『花の舞踏会』『魔術師の舞踏会』などがあるらしい。
 夜会、晩餐会、お茶会と忙しくしている母を見ているので、アリスは覚悟はしていたようだが、改めてそれを聞いた『私』は(めんどくさーー!)と思っていた。

 さて、屋敷の半地下には、大人数を招いても平気なだけの厨房がある。ここはレストランかと言いたくなるくらい広い。もちろん、毎日舞踏会やら晩餐会があるわけではないから、住み込みで働いてるのは少人数だが、お抱えシェフの腕は言わずもがな一流だった。
 あと食卓は長い。しかもなんかテーブルの装飾がすごい。ベッドから起き上がれるようになり、家族と食事するようになった日は、ビビりまくって侍女頭のマーゴに叱られた。
 廊下は美術館と見まごうばかりに絵画が並んでいるし、どこまでが庭かわからないくらい敷地も広い。よく手入れされた庭は迷路のようだった。季節ごとに植え替えられるという花壇も美しい。
 毎日毎日ウロウロウロウロして、使用人の皆さんに色々と教えてもらっていた。

「頭を打って少しおかしくなったらしい」
「お医者様によると記憶が混乱してるって」
「物腰が柔らかくなって…」
「使用人には居丈高な態度しかとらなかったのに」

 話を聞いては、「ありがとう」と微笑んでいたら、その都度相手は戸惑っていた。『アリス』は「使用人は使用人」という意識が強かったが、『私』はごくごく一般的な家庭に育ったため、お手伝いさんや料理人さん、庭師さんなどと一緒に暮らすという経験自体が慣れないものだった。「なんか大家族って感じで楽しいな~」とのんきに考えていたが、使用人の皆さんから見れば、お嬢様が頭おかしくなったとしか思えなかったのだろう。それでも、時が経てば人間慣れるもの。
 一番近しい侍女のリラやカーラをはじめ、だんだんと皆が私を受け入れてくれるようになっていった。

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