私に悪役令嬢は無理でした!でも好きな人がいるから頑張ります!

ゆきづき花

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初等部編

いきなり王子様

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「お嬢様、ラファエル王太子殿下がお見えになるそうです。どうなさいますか?」

 リラの言葉に、私はベッドの上で食べていた昼食のフルーツを落としてしまった。もう一人のお付き侍女カーラが慌てて布巾を取り出す。

「ラファエル王太子殿下ーーー!?!?」
「ええ、お見舞いに」

 目を覚ました翌日に、いきなりメインキャラクターが来るってどうしたらいいんだ。
 記憶はまだ混乱したままだし、何より頭痛が痛い。(※誤用)
 これが現実なのか夢なのかゲームなのかわからないまま、私が「アワワワワワ」と言っていたら、リラが憐みの目を向けていた。頭を打ったせいで……おかわいそうに……と言っている。

「まだ具合が悪ければご無理なさらず……」
「ああああああ会います!お会いしてもいいでしゅか??」

 動揺している私にリラが苦笑している。それから優しく笑って言った。

 「お体が痛まないようでしたら、身だしなみを整えましょう」

 寝間着のままだったので、ゆったりした薄桃色のシルクワンピースに着替えた。襟のフリルがとても可愛らしい。私の好みではないが、『今』の私には多分似合ってる、と思う。悪役令嬢とはいえ、美少女なのだ。すごいな美少女って。なんでも似合う。おろしていた髪は、サイドにゆるく編み込んでもらった。




「アリス、もう起き上がって大丈夫?」
「はい、殿下」

 私は令嬢らしく微笑んだ。本当は頭痛が痛い。(※誤用)

 きらきらした豪奢な金髪。少し長めの前髪が、けぶるように長い睫毛にかかっていた。その下の蒼い瞳は叡知を感じさせる。形のよい唇から、私を気遣う言葉の数々。気品あふれる立ち居振る舞い。お見舞いの花束を渡された私は鼻血が出そうになった。てか少し出た。

 ラファエル王太子殿下は、王子様オブ王子様だった。

(ほわぁぁぁ~~美少年~~眼福だわ~~頭痛もよくなった気がするわぁ~~)

 ラファエル・ルイ・ヴァロア。
 アルジャン王国、ヴァロア王家の王太子。
 乙女ゲーム『銀水晶の聖女』のキャラクターのひとり。攻略が難しいメインキャラだ。彼のルートでは全パラメータをハイレベルにしなければならない。

(そりゃそうよね。国を治める人の配偶者になるのだもの)

 地道なパラメータ上げが苦でなかった私は、わりとすんなり初期に攻略した記憶がある。

 王太子殿下を見て、だらしなく薄ら笑いしている私を、壁際に控えている侍女頭のマーゴが睨みつけていた。マーゴは40代後半で、長くルテール公爵家に仕えている。マナーに口うるさい私の教育係でもある。
 うん、美少年を見てニヤニヤしているのは、確かにご令嬢らしくない振る舞いだヨネ。マーゴが怒りを抑えた表情で告げた。

「お嬢様、そろそろ医師が参ります」
「ああ、病み上がりに長居してすまなかった。早く良くなるよう僕も神に祈っているよ」
「ありがとうございます。勿体ないお言葉です、王太子殿下」

 その返答に、ラファエル王太子殿下が笑った。

「相変わらず堅苦しいね、アリスは。私的な場では昔のようにラファエルでいいと、いつも言ってるのに」

 いや、行儀よくしないと後でコワーイ侍女頭にぶっコロコロされているちゃうんですよ、殿下、と言いたいのを我慢して私は笑って誤魔化した。多分、へらへらしていたと思う。
 殿下が帰られた後、私は間髪入れずにマーゴからお説教されかけたのだが、リラが「お嬢様は頭を打ってから少し変なんです!」と直球で庇って(?)くれたので、長時間のお小言からは免れた。

 まだ頭痛がするので、私は寝間着に着替えると、素直にふかふかのベッドにもぐりこむ。
 ……私が前世の記憶を取り戻したのは、多分、馬車の事故がきっかけなのだろう。生前の私は事故で死んだ。


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