【R18】結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

ゆきづき花

文字の大きさ
上 下
65 / 82

過去と未来 2

しおりを挟む
「以前、あなたは僕に『結婚を考えたことはないか?』と質問しましたよね。その時に話した彼女です。かつて僕が唯一結婚したいと思った人。彼女は……さっき会った桂雅姫は、僕の恋人でした」

 唯一という単語が私を打ちのめす。でもきっと、そのことに彼は気づいていない。
 これが現実だからと自分に言い聞かせて、表情を変えないように努力した。

「雅姫とは大学で出会って付き合い始めました。学部は違いますが、同じサークルだったんです。ありがちですよね。自信家で明るく豪快で、彼女はいつも目立っていた」

 いつも一緒にいる仲のいいカップルで、周囲からも『あの二人は結婚するだろう』と思われていた。彼女もそれを否定しなかったそうだ。お互いの家族にも紹介した。彼女の両親は開業医で、彼女自身も医師になることを志望していた。彼女の親戚が上海に住んでいたから会いに行ったこともある。私が見たのは、その時に撮った写真だった。

「全部捨てたと思ってました。すみません」
「いえ、大切な思い出ですよね」
「……でも、僕が入省し働き始めた頃から、次第にすれ違うようになりました。彼女はとにかくスピード重視で、とても行動力がある。僕はどちらかと言えば慎重なので、歩幅が合わなくなっていたんです。それでも当時の僕は彼女のことが大好きで、自分の予定を変えてでも彼女に合わせていました。手放したくなかったから」

 今と真逆だ。全てにおいて彼女を優先したくなるほど好きだったんだ。そう考えると辛い。比べちゃいけないって分かっていても、自分と桂先生を比べてしまう。到底、敵いそうにない。

「振り返ると、若かったんだな……と思いますが、あの頃は本気で『こんなに愛せる人は他にいない』と思っていたんです。でも、彼女はあっさりと、それまでの全てを捨てました」
「捨てた?」
「誰にも相談せず、イギリス留学を決めたんです」

 医師免許を取得後、医療経済や医療政策を学ぶために、イギリスの大学院への留学を決めたそうだ。両親は娘も臨床医になって病院を継ぐと思っていたから、彼らも驚いたらしい。

「雅姫から『私は自分のキャリアのためにイギリスへ行く。そこにあなたは必要ない』と、はっきり言われました」
「そんな……必要ないなんて……」

 なんて辛い言葉。好きな人からそんなことを言われて、八木沢さんはどんなに悲しかっただろう。離れていても、寄り添うことはできたはずなのに。

「彼女も若かったんですよ」

 そう呟いた八木沢さんは、笑っているけど辛そうで、その時の気持ちを思うと私まで悲しくなる。
 一方的に振られてしまい、気持ちのやり場がなくなって何も手につかなくなった。槙木さんは「放っておいたら死ぬんじゃないか」と心配して、その頃からやたらと構いたがるようになったそうだ。

「いつの間にか、家族で押しかけてくるのが恒例行事のようになってます」
「槙木さん、優しいですね」

 大切にしていた人が突然いなくなって、空虚になってしまった友人を放っておけなかったんだろう。八木沢さんが「独りは気楽だ」と思えるようになるまで、どれくらい時間がかかったのか。

「これで昔話はおしまいです。あとで聞いたのですが、イギリス留学からしばらく経って、雅姫は僕に会うために一時帰国していたらしいですよ。でも、僕はその頃すでに、現実から逃げるように渡米していました。だから、一度も会うことはありませんでした」

 その時、再会していたら、運命は違っていたのかもしれない。
 桂先生はイギリスで別の人と結婚した。
 そして、取り残された八木沢さんは、何年も何年もずっと想い続けていた……?
 今も?

「……会えて、嬉しかったですよね?」
「え?」
「再会して、笑っていたから……邪魔しちゃいけないと思いました……」
「ああ、単純に懐かしかっただけですよ。もう昔のことです。旧友に会ったような気持ちでした。それだけです」
「本当に?」

 心配しなくていいですよ。
 八木沢さんは、そう言って笑ってくれたけれど、それが本心なのか、私には分からなかった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

練習なのに、とろけてしまいました

あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。 「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく ※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...