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拠り所1 ※
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写真と雑誌を元に戻して、クローゼットの扉の前に立ち尽くしていると八木沢さんが寝室に戻ってきたので、無言で駆け寄って抱きついた。
「どうしました?」
「……一人になったら寂しくなりました」
「お風呂に入っただけですよ」
あやすように優しく背中を撫でられて不安が増す。私がさらに力を込めたら、八木沢さんが「一人にしてすみません」と言いながら、抱きしめてくれた。
私からキスをしたくて背伸びをしたが届かない。
八木沢さんのシャツを引っ張って上を向いていると、気づいた彼が笑いながら私の両頬に手を添えた。でも、期待とは裏腹に額に口づけされたから、子供扱いされたようで悔しくなる。
腕を引いて彼をベッドまで連れて行き、私が彼を押し倒して馬乗りになった。
「ずいぶん積極的ですね」
「いけませんか?」
「いえ、可愛いです」
私のほうからキスしたのに、私の舌を彼が追いかけてくる。下を向いたこの姿勢でキスするのは初めてかもしれない。髪をゆっくり撫でられると気持ちいい。離れようとしたら腕を掴まれて逃がしてもらえなかった。
「あっ……ん、ん……」
息継ぎの吐息はもう甘ったるい喘ぎ声になっていた。どうしてこんなにキスが上手なんだろう。普段から想像できないようないやらしい舌遣いで、思考を奪われそうになる。
私は今、どうしようもないことに苛立っている。
過去は変えられない。やり直すことも消すこともできない。決して時間は戻らないのに。
頑張って支えていた腕に力が入らなくなって体が震える。ちゅ、と湿り気のある音がして唇が離れた。ゆっくり目を開いたら、八木沢さんが面白そうに、でも嬉しそうに笑っていて、今さらながら自分のしたことが恥ずかしくなった。
せめて明かりを消そうと、視線を彷徨わせた。枕元にライトのリモコンがあるはず。でも、腕を伸ばしたら抱きしめられて動けなくなった。
「私、重たいですよ。離してください」
「自分から乗ってきたくせに」
その通りだから反論できない。ライトを消すために腕だけ伸ばしてもがいていたら、首にキスしたり耳たぶを噛んだり、やりたい放題弄られた。
「っん、あ、くすぐったいです。届かない、から、八木沢さん消して」
「僕は明るいままでもいいのですが」
仕方ないとため息をついて、彼が上半身を起こして明かりを消す。そのまま抱きしめられ、膝の上に抱っこされているみたいになってしまった。密着しているこの姿勢、ものすごく恥ずかしい。
また深くキスされて足を閉じたくなったけれど、身動きできなかった。心臓が高鳴って体が熱くなる。服の上からでもわかるくらいお互いの体温があがっていた。
「一人残されて、そんなに寂しかった?」
「一人に、慣れていたつもりでしたが、八木沢さんが側にいないのは寂しいです」
「ああ、それは……僕も同じかもしれません」
薄明かりの中、鋭かった彼の視線が和らいだ。
こんなに柔らかく、優しく笑ってくれるの、見たことない。
「長く一人でいて、それでいいと思っていたのに。淡々とした日常も悪くないと思っていたのに、毎朝あなたに会えるのが嬉しいです。仕事で疲れて、ただ寝るだけだった家に帰るのも楽しくなりました。あなたがここにいるから」
「私がいるから……」
私はずっと、どこにも居場所がないような気がしていた。見つけたと思った場所も他の人に奪われた。だから、ここにいていいのだと、そう思えることが嬉しかった。胸が温かい気がする。お腹がぽかぽかする。
「八木沢さんに会えて良かったです」
笑いながら呟いて、それからすぐに恥ずかしくなって、照れ隠しに私からキスをした。
「どうしました?」
「……一人になったら寂しくなりました」
「お風呂に入っただけですよ」
あやすように優しく背中を撫でられて不安が増す。私がさらに力を込めたら、八木沢さんが「一人にしてすみません」と言いながら、抱きしめてくれた。
私からキスをしたくて背伸びをしたが届かない。
八木沢さんのシャツを引っ張って上を向いていると、気づいた彼が笑いながら私の両頬に手を添えた。でも、期待とは裏腹に額に口づけされたから、子供扱いされたようで悔しくなる。
腕を引いて彼をベッドまで連れて行き、私が彼を押し倒して馬乗りになった。
「ずいぶん積極的ですね」
「いけませんか?」
「いえ、可愛いです」
私のほうからキスしたのに、私の舌を彼が追いかけてくる。下を向いたこの姿勢でキスするのは初めてかもしれない。髪をゆっくり撫でられると気持ちいい。離れようとしたら腕を掴まれて逃がしてもらえなかった。
「あっ……ん、ん……」
息継ぎの吐息はもう甘ったるい喘ぎ声になっていた。どうしてこんなにキスが上手なんだろう。普段から想像できないようないやらしい舌遣いで、思考を奪われそうになる。
私は今、どうしようもないことに苛立っている。
過去は変えられない。やり直すことも消すこともできない。決して時間は戻らないのに。
頑張って支えていた腕に力が入らなくなって体が震える。ちゅ、と湿り気のある音がして唇が離れた。ゆっくり目を開いたら、八木沢さんが面白そうに、でも嬉しそうに笑っていて、今さらながら自分のしたことが恥ずかしくなった。
せめて明かりを消そうと、視線を彷徨わせた。枕元にライトのリモコンがあるはず。でも、腕を伸ばしたら抱きしめられて動けなくなった。
「私、重たいですよ。離してください」
「自分から乗ってきたくせに」
その通りだから反論できない。ライトを消すために腕だけ伸ばしてもがいていたら、首にキスしたり耳たぶを噛んだり、やりたい放題弄られた。
「っん、あ、くすぐったいです。届かない、から、八木沢さん消して」
「僕は明るいままでもいいのですが」
仕方ないとため息をついて、彼が上半身を起こして明かりを消す。そのまま抱きしめられ、膝の上に抱っこされているみたいになってしまった。密着しているこの姿勢、ものすごく恥ずかしい。
また深くキスされて足を閉じたくなったけれど、身動きできなかった。心臓が高鳴って体が熱くなる。服の上からでもわかるくらいお互いの体温があがっていた。
「一人残されて、そんなに寂しかった?」
「一人に、慣れていたつもりでしたが、八木沢さんが側にいないのは寂しいです」
「ああ、それは……僕も同じかもしれません」
薄明かりの中、鋭かった彼の視線が和らいだ。
こんなに柔らかく、優しく笑ってくれるの、見たことない。
「長く一人でいて、それでいいと思っていたのに。淡々とした日常も悪くないと思っていたのに、毎朝あなたに会えるのが嬉しいです。仕事で疲れて、ただ寝るだけだった家に帰るのも楽しくなりました。あなたがここにいるから」
「私がいるから……」
私はずっと、どこにも居場所がないような気がしていた。見つけたと思った場所も他の人に奪われた。だから、ここにいていいのだと、そう思えることが嬉しかった。胸が温かい気がする。お腹がぽかぽかする。
「八木沢さんに会えて良かったです」
笑いながら呟いて、それからすぐに恥ずかしくなって、照れ隠しに私からキスをした。
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