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小話 夢
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八木沢さんが、ただ可愛い可愛い言ってるだけのSS
_________________
月曜の朝、僕は夢を見なかった。
昨日も今日も、夢を見なかったことに安堵しているから、やはりあれは悪夢と呼ぶべきだろう。
夢の途中で目覚めて、これが現実ならいいのにと思いながら、夢の残滓を振り払って仕事に出かける。それが日常だった。
昨日も、寝すぎたのだと思ったくらいに心地よく目が覚めた。先に起きていた和咲さんに「まだ六時前です」と言われて驚いたほど。
彼女がいてくれるから、きっと僕は夢を見ない。
彼女はまだ隣で眠っている。
寝顔が可愛くて、つい頬に触れてしまった。気づいた彼女が目を開いて僕を見る。その瞬間、花がほころぶように笑った。可愛すぎる。
「おはよう」
「おはようございます。すみません、私、結局眠ってしまって......」
旅行を終えても離れがたくて、十五階の自宅へ連れていった。
夕飯を終えて夜になり、一階へ帰ろうとした彼女をひきとめたのは僕のほうだった。
「私がいて大丈夫でしたか? 眠れました?」
「とても良く」
「よかった!」
無邪気に笑う彼女が可愛い。また歯止めがきかなくなる。
唇に触れたら、恥ずかしそうにしてるのも可愛い。拗ねる表情も可愛い。髪を揺らして乱れる姿も可愛い。
柔らかくて温かい彼女。髪の一筋から爪の先まで、彼女の全てが愛おしい。
彼女が他の誰かを選ぶ日が来たら、今度こそ自分は耐えられないと思う。
だから触れずにいようと思っていたのに、自制できなかった。
分別ある大人なのかと思ったら、少女のようで、僕は彼女に振り回されっぱなしだ。
心が動くことなんてないと思っていたのに。
本当は寂しかったのに、強がって早く大人になってしまった彼女。
脆いのに泣き方も知らない。
いずれこうなる、と予感めいたものはあった。だが、これが恋情だとも思っていなかった。
自分の知る恋愛は、例えるなら炎だから、穏やかな木陰にいるような気持ちは初めてで、「これも恋愛感情なのか」と理解するまで時間がかかった。
◆
一人で出かけるときは、誰にも行き先を言わないし、誰にも土産など買わない。だが、今回は槙木に箱根土産を買って帰った。
出勤してすぐに調査企画課を訪ねる。
憂鬱な月曜の朝にも関わらず、槙木は嫌みなくらいに爽やかだった。
「奥さんと綾ちゃんに」
「サンキュー! こんな気を遣わなくていいのに。大丈夫だったか?」
「なにが?」
「寝室別にして、ちゃんと耐えたんだろ?」
答える義務はないので無視した。
数秒待っても僕が答えないから、槙木の顔色が変わっていく。
「ま、待てよ、おい! お前、まさか……許さんぞ! オレが許さねえ!」
なぜか槙木は彼女を娘のように思っているらしい。おそらく愛娘である綾ちゃんが、彼女を姉のように慕っているからだろう。
付き合うように煽った張本人のくせに、この態度はなんだ。
妙な理解を示されても嫌だが、騒がれるのも困る。だから短めに答えた。
「同意の上なので」
「当たり前だ!!!!!!!!!」
声が大きい。
同課の職員が、「朝から課長同士で何を騒いでるんですか」と興味を持ち始めたので、僕は急いで逃げ出した。
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月曜の朝、僕は夢を見なかった。
昨日も今日も、夢を見なかったことに安堵しているから、やはりあれは悪夢と呼ぶべきだろう。
夢の途中で目覚めて、これが現実ならいいのにと思いながら、夢の残滓を振り払って仕事に出かける。それが日常だった。
昨日も、寝すぎたのだと思ったくらいに心地よく目が覚めた。先に起きていた和咲さんに「まだ六時前です」と言われて驚いたほど。
彼女がいてくれるから、きっと僕は夢を見ない。
彼女はまだ隣で眠っている。
寝顔が可愛くて、つい頬に触れてしまった。気づいた彼女が目を開いて僕を見る。その瞬間、花がほころぶように笑った。可愛すぎる。
「おはよう」
「おはようございます。すみません、私、結局眠ってしまって......」
旅行を終えても離れがたくて、十五階の自宅へ連れていった。
夕飯を終えて夜になり、一階へ帰ろうとした彼女をひきとめたのは僕のほうだった。
「私がいて大丈夫でしたか? 眠れました?」
「とても良く」
「よかった!」
無邪気に笑う彼女が可愛い。また歯止めがきかなくなる。
唇に触れたら、恥ずかしそうにしてるのも可愛い。拗ねる表情も可愛い。髪を揺らして乱れる姿も可愛い。
柔らかくて温かい彼女。髪の一筋から爪の先まで、彼女の全てが愛おしい。
彼女が他の誰かを選ぶ日が来たら、今度こそ自分は耐えられないと思う。
だから触れずにいようと思っていたのに、自制できなかった。
分別ある大人なのかと思ったら、少女のようで、僕は彼女に振り回されっぱなしだ。
心が動くことなんてないと思っていたのに。
本当は寂しかったのに、強がって早く大人になってしまった彼女。
脆いのに泣き方も知らない。
いずれこうなる、と予感めいたものはあった。だが、これが恋情だとも思っていなかった。
自分の知る恋愛は、例えるなら炎だから、穏やかな木陰にいるような気持ちは初めてで、「これも恋愛感情なのか」と理解するまで時間がかかった。
◆
一人で出かけるときは、誰にも行き先を言わないし、誰にも土産など買わない。だが、今回は槙木に箱根土産を買って帰った。
出勤してすぐに調査企画課を訪ねる。
憂鬱な月曜の朝にも関わらず、槙木は嫌みなくらいに爽やかだった。
「奥さんと綾ちゃんに」
「サンキュー! こんな気を遣わなくていいのに。大丈夫だったか?」
「なにが?」
「寝室別にして、ちゃんと耐えたんだろ?」
答える義務はないので無視した。
数秒待っても僕が答えないから、槙木の顔色が変わっていく。
「ま、待てよ、おい! お前、まさか……許さんぞ! オレが許さねえ!」
なぜか槙木は彼女を娘のように思っているらしい。おそらく愛娘である綾ちゃんが、彼女を姉のように慕っているからだろう。
付き合うように煽った張本人のくせに、この態度はなんだ。
妙な理解を示されても嫌だが、騒がれるのも困る。だから短めに答えた。
「同意の上なので」
「当たり前だ!!!!!!!!!」
声が大きい。
同課の職員が、「朝から課長同士で何を騒いでるんですか」と興味を持ち始めたので、僕は急いで逃げ出した。
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