40 / 70
おそらくこちらが本性です4
しおりを挟む
二日目も、初めて箱根に来た私のために、モデルコースのような観光ルートを巡ってもらった。人気の美術館を二つ見て回り、強羅の有名店で行列に並んでお昼を食べて、箱根ケーブルカーとロープウェイに乗って大涌谷へ。
美術館は夢中になってしまって、途中で八木沢さんから「僕のペースは気にしないで、ゆっくり見てくださいね」と言われたので、お言葉に甘えた。
思う存分鑑賞して、ミュージアムショップで彼と合流してから謝った。
「ごめんなさい。私だけ立ち止まることが多かったですよね」
「楽しそうなあなたを見ていたから大丈夫です。それより、和咲さんにお土産です」
八木沢さんが手に持っていたのは、この美術館の収録作品の図録だった。
「こんな、高価な本を頂いていいんですか?」
「欲しいんじゃないかと思って」
「わああ、うれしい! ありがとうございます!」
嬉しくて涙が出そうだ。欲しいなと思っても、カラーの図録は高価だから、私のお財布事情では何冊も買えない。私があんまり喜ぶからか、八木沢さんが「もっと買ってきます」と言って、企画展の図録など、ショップに置いてあるあらゆる図鑑を買いそうになっていたので慌ててとめた。
楽しくて楽しくて、こんなに楽しくていいのかなと不安になった。
両親のように、突然いなくなったらどうしよう。八木沢さんを失う日が来たら耐えられない気がする。
箱根湯本の土産物屋も見て回り、小田原城にも寄り道した。
東京に戻り、首都高をおりて、もう見慣れてしまった新宿の街並みを見ていたら、だんだん寂しくなってきた。帰り道は早く感じる。
「八木沢さん、運転お疲れ様でした。ありがとうございました」
「久しぶりに運転できて、楽しかったです」
マンションの地下駐車場に到着して、八木沢さんがエンジンを切ると車内が静かになった。私はなんだか胸がもやもやして、息をとめた。
なんだろうこの感情……わからない。
「荷物は僕が持ちます。和咲さん、どうしました? 具合悪いですか?」
「違うんです。動きたくない……」
シートベルトは外したのに私が動かないから、車酔いでもしたのかと八木沢さんが心配している。こんな感情初めてだから、自分の膝を見つめながら伝えた。
「わからないんです。家には帰りたいのに……すごく楽しかったから、もう着いちゃったのが寂しいんです」
遊園地が楽しくて帰りたくないと泣く幼子みたいだ。子供じみたことを言ってしまったと後悔していたら、八木沢さんが小さく笑うのが聞こえた。顔を上げて運転席を見ると、ハンドルに腕を乗せて八木沢さんが困ったように笑っていた。
「それはつまり、もっと一緒にいたい?」
「そう、です」
しつこくて嫌がられるかなと恥ずかしくなってうつむいたら、体を引き寄せられて抱きしめられた。
「うちに来ますか?」
「……はい」
「僕も、もっと一緒にいたいです。こんなに一緒に過ごしたのに、まだ足りない」
ああ、同じように思ってくれてよかった。そう思ってため息をついたら、彼の指が唇を撫でた。顔を上げたら、八木沢さんが優しく笑ってくれたから、私は安心して体を預けた。
美術館は夢中になってしまって、途中で八木沢さんから「僕のペースは気にしないで、ゆっくり見てくださいね」と言われたので、お言葉に甘えた。
思う存分鑑賞して、ミュージアムショップで彼と合流してから謝った。
「ごめんなさい。私だけ立ち止まることが多かったですよね」
「楽しそうなあなたを見ていたから大丈夫です。それより、和咲さんにお土産です」
八木沢さんが手に持っていたのは、この美術館の収録作品の図録だった。
「こんな、高価な本を頂いていいんですか?」
「欲しいんじゃないかと思って」
「わああ、うれしい! ありがとうございます!」
嬉しくて涙が出そうだ。欲しいなと思っても、カラーの図録は高価だから、私のお財布事情では何冊も買えない。私があんまり喜ぶからか、八木沢さんが「もっと買ってきます」と言って、企画展の図録など、ショップに置いてあるあらゆる図鑑を買いそうになっていたので慌ててとめた。
楽しくて楽しくて、こんなに楽しくていいのかなと不安になった。
両親のように、突然いなくなったらどうしよう。八木沢さんを失う日が来たら耐えられない気がする。
箱根湯本の土産物屋も見て回り、小田原城にも寄り道した。
東京に戻り、首都高をおりて、もう見慣れてしまった新宿の街並みを見ていたら、だんだん寂しくなってきた。帰り道は早く感じる。
「八木沢さん、運転お疲れ様でした。ありがとうございました」
「久しぶりに運転できて、楽しかったです」
マンションの地下駐車場に到着して、八木沢さんがエンジンを切ると車内が静かになった。私はなんだか胸がもやもやして、息をとめた。
なんだろうこの感情……わからない。
「荷物は僕が持ちます。和咲さん、どうしました? 具合悪いですか?」
「違うんです。動きたくない……」
シートベルトは外したのに私が動かないから、車酔いでもしたのかと八木沢さんが心配している。こんな感情初めてだから、自分の膝を見つめながら伝えた。
「わからないんです。家には帰りたいのに……すごく楽しかったから、もう着いちゃったのが寂しいんです」
遊園地が楽しくて帰りたくないと泣く幼子みたいだ。子供じみたことを言ってしまったと後悔していたら、八木沢さんが小さく笑うのが聞こえた。顔を上げて運転席を見ると、ハンドルに腕を乗せて八木沢さんが困ったように笑っていた。
「それはつまり、もっと一緒にいたい?」
「そう、です」
しつこくて嫌がられるかなと恥ずかしくなってうつむいたら、体を引き寄せられて抱きしめられた。
「うちに来ますか?」
「……はい」
「僕も、もっと一緒にいたいです。こんなに一緒に過ごしたのに、まだ足りない」
ああ、同じように思ってくれてよかった。そう思ってため息をついたら、彼の指が唇を撫でた。顔を上げたら、八木沢さんが優しく笑ってくれたから、私は安心して体を預けた。
応援ありがとうございます!
65
お気に入りに追加
618
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる