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彼氏と彼女?2
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正社員登用に向けて本格的に話が進み始めた頃、アドレス帳に登録していない番号からメッセージが届いた。その番号をどこかで見たような気がして、とりあえずメッセージを開いた。見たことを後悔した。
『真臣くんの好きな料理のレシピを教えてください』
どうして私に聞こうと思ったのか。全く意味がわからない。だが、最近聞こえてくる噂話とは合致する。
真臣は「自分だけ幸せになってごめん」という謎の幸せ自慢をしていたのだが、日を追うにつれて、武内さんへの不満を漏らすことが増えたらしい。
料理が下手、掃除もしない、休日にデートに誘っても寝てばかりいる……などなど、妊婦なのだから仕方ないようなことに「愚痴」をこぼしていた。
私に連絡してくるなんて、よっぽど追い詰められているのだろう。絶対に真臣には言わないことを約束して、下北沢の駅前で待ち合わせることにした。
武内さんは妊娠中なので服装はゆったりしていたが、以前よりも痩せており、栄養失調なのでは、と心配になるほどだった。負担にならないようにしたのか、髪も短くなっている。
妊娠五か月のはずだが、安定期に入ってもつわりがひどく、お医者様からはもうすこし悪くなったら入院と言われているらしい。もう十分ひどいと思ったが、彼女が専業主婦であり、家にいる間は休養できているはずだから、と真臣が承諾しなかったそうだ。
退職して、地元・福岡から上京し、同僚も友人もいない環境で、さぞ辛かっただろうと思ってしまった。
「料理が下手だと言って、私が作っても食べてくれないんです。だから、戸樫さんがお料理上手だと聞いて……それで……」
「体調も万全ではなさそうですし、家事はゆっくりでいいと思いますよ」
「でも……」
そんなろくでもない男は捨てたほうがいいと思ったが、彼女は彼女なりに真臣が好きで、彼の望むようにしたいんだろう。状況を見て渡すかどうか判断しようと思っていたが、レシピを教えることにした。
「真臣……さん、が気に入っていた料理についてはメモしてきたので、これを使ってみてください」
便せんに、簡単なレシピをいくつかまとめておいた。祖母に教わったあと、私なりにアレンジしたオリジナルレシピだ。
「ああ、戸樫さんは肉じゃがにバターをいれるんですね」
「そうそう、ちょっとコクがでるから」
涙を流して喜ぶから、(真臣ももっと大事にすればいいのに)とかわいそうになってしまった。
だが、ふと彼女の足下を見て、一瞬で血の気が引いた。
今、私が履いている靴と、同じもの……?
私が好むブランドの靴だ。銀座に路面店があるし、百貨店などにもあるから決して珍しくはない。でも初めて会ったときに、服装も髪型も似ていると思ってから、ずっと心のどこかにひっかかりがあった。
おそるおそる質問した。
正直に答えないだろうけど、聞かずにはいられなかった。
「……武内さん、どうして結婚式前なのに髪切ったんですか?」
「はい、真臣くんから戸樫さんが最近髪を切ったと聞いたので。また、色々教えてくださいね!」
無理だ。私になりかわって、「真臣の婚約者」という立場を奪ったんだから、もう十分だろう。頼るというより利用されているんだとやっと気がついた。
「こうして会っていると、真臣さんのことを思い出してしまうから、これっきりにしてください!」
「あっ、そうですよね。戸樫さんの気持ちも考えずにごめんなさい」
単純にもう会いたくないだけだが、武内さんにとって、私と真臣が復縁するのは絶対嫌だろう。嘘でもいいから逃げ出そう。無理だ。二度と関わりたくない。
『真臣くんの好きな料理のレシピを教えてください』
どうして私に聞こうと思ったのか。全く意味がわからない。だが、最近聞こえてくる噂話とは合致する。
真臣は「自分だけ幸せになってごめん」という謎の幸せ自慢をしていたのだが、日を追うにつれて、武内さんへの不満を漏らすことが増えたらしい。
料理が下手、掃除もしない、休日にデートに誘っても寝てばかりいる……などなど、妊婦なのだから仕方ないようなことに「愚痴」をこぼしていた。
私に連絡してくるなんて、よっぽど追い詰められているのだろう。絶対に真臣には言わないことを約束して、下北沢の駅前で待ち合わせることにした。
武内さんは妊娠中なので服装はゆったりしていたが、以前よりも痩せており、栄養失調なのでは、と心配になるほどだった。負担にならないようにしたのか、髪も短くなっている。
妊娠五か月のはずだが、安定期に入ってもつわりがひどく、お医者様からはもうすこし悪くなったら入院と言われているらしい。もう十分ひどいと思ったが、彼女が専業主婦であり、家にいる間は休養できているはずだから、と真臣が承諾しなかったそうだ。
退職して、地元・福岡から上京し、同僚も友人もいない環境で、さぞ辛かっただろうと思ってしまった。
「料理が下手だと言って、私が作っても食べてくれないんです。だから、戸樫さんがお料理上手だと聞いて……それで……」
「体調も万全ではなさそうですし、家事はゆっくりでいいと思いますよ」
「でも……」
そんなろくでもない男は捨てたほうがいいと思ったが、彼女は彼女なりに真臣が好きで、彼の望むようにしたいんだろう。状況を見て渡すかどうか判断しようと思っていたが、レシピを教えることにした。
「真臣……さん、が気に入っていた料理についてはメモしてきたので、これを使ってみてください」
便せんに、簡単なレシピをいくつかまとめておいた。祖母に教わったあと、私なりにアレンジしたオリジナルレシピだ。
「ああ、戸樫さんは肉じゃがにバターをいれるんですね」
「そうそう、ちょっとコクがでるから」
涙を流して喜ぶから、(真臣ももっと大事にすればいいのに)とかわいそうになってしまった。
だが、ふと彼女の足下を見て、一瞬で血の気が引いた。
今、私が履いている靴と、同じもの……?
私が好むブランドの靴だ。銀座に路面店があるし、百貨店などにもあるから決して珍しくはない。でも初めて会ったときに、服装も髪型も似ていると思ってから、ずっと心のどこかにひっかかりがあった。
おそるおそる質問した。
正直に答えないだろうけど、聞かずにはいられなかった。
「……武内さん、どうして結婚式前なのに髪切ったんですか?」
「はい、真臣くんから戸樫さんが最近髪を切ったと聞いたので。また、色々教えてくださいね!」
無理だ。私になりかわって、「真臣の婚約者」という立場を奪ったんだから、もう十分だろう。頼るというより利用されているんだとやっと気がついた。
「こうして会っていると、真臣さんのことを思い出してしまうから、これっきりにしてください!」
「あっ、そうですよね。戸樫さんの気持ちも考えずにごめんなさい」
単純にもう会いたくないだけだが、武内さんにとって、私と真臣が復縁するのは絶対嫌だろう。嘘でもいいから逃げ出そう。無理だ。二度と関わりたくない。
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