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不夜城新宿2
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どうしてこうなったんだろう。私は何を間違えたんだろう。
真臣から結婚して欲しいと言われたとき、とても嬉しかった。私にも家族ができるのだと。家族が欲しいと思ったのがいけなかったのかな。
私と同棲を始めた時、真臣はすでに浮気していた。彼女が妊娠しなければ、きっと何も気づかないまま結婚式を挙げていた。発覚しても許していたかもしれない。
だとしたら結婚は子供のためにするのかな?
私は他人の子供のために、自分の結婚を諦めた……?
思考は堂々巡りして、暗鬱な気持ちになる。頭がうまく働かない。
リビングのソファーに座り込んでしばらくぼんやりしてから、新居の荷入れは土曜日だけど、もう家を出ようと思った。
着替えと貴重品を持って行けば一週間なんとかなると思う。幸いというか、明日明後日、真臣は出張でいないから、もし必要なものがあれば取りに帰ることもできる。
急に泊まらせてくれるような友人はいないから、安いホテルを探そうとして、八木沢さんから連絡が来ていることに気づいた。
『槙木に話したら、家族総出で戸樫さんの引越祝いをしてくれるそうです』
家族総出ってどういうこと??? わからないけど嬉しい。
唐突すぎて、こんな状況なのに、少し笑ってしまった。
契約したとき「セキュリティのためカードキーの受け渡しは、引越当日である土曜の午前八時」と聞いていた。無理だと思いつつ、お礼の返事とともに、約束の土曜日よりも早く鍵を受け取れないか聞いてみた。
しばらく待つと『鍵の受け渡しはできます』との返事だった。もう十時を過ぎていたので、管理会社の人ではなく八木沢さんが直接渡してくれるそう。遅い時間に申し訳ないけれど、早く家を出たい。寝室にいる真臣には声をかけず、黙って荷物をまとめて新宿に向かった。
◆
新宿という街は、昼と夜で全く違う表情を見せる。
昼間は通勤や通学で人口が増え、その人達が家に帰ると、夜に生きる人たちが集まり、雑多で眩しい街になる。アジア最大の歓楽街には観光客も多い。
比較的静かなエリアで生活してきたので、新宿駅周辺の夜の明るさには怯んでしまう。でも明日から、ここが通勤路になる。
私がマンションに到着するのを待っていてくれたらしく、八木沢さんはスーツ姿のまま一階エントランスまで降りてきてくれた。なお、オーナーである八木沢さんは最上階の雲上人である。
「こんな時間に、本当に申し訳ないです」
「僕もさっきまで仕事だったので、それは別にいいのですが……大丈夫ですか?」
多分、真臣のことかなと思ったので、簡単に説明をした。私のほうから別れ話をして、もう家にいたくないから出てきたが、私がいなくなったことに気づいた彼から、『どこにいるの?』『やり直したい』『もう一度チャンスが欲しい』『帰っておいで』と立て続けに連絡がきていること。出てきて正解だった。何をされるかわからない。もう怖い。
「土曜日に契約しておいてよかったです。落ち着かないと思いますが、休んでくださいね」
「ありがとうございます」
荷物を抱えたままだし、疲れているし、とりあえず鍵を受け取って部屋へ入ることにした。
八木沢さんの実家は鎌倉にあるそうで、ずっと本宅に住んでいたおじい様がここで暮らすことはなかったが、蒐集した美術品を眺めに、この部屋に来ていたそうだ。最低限の家電が揃っているのはそのためで、少々型は古いがテレビもあるし、エアコンも冷蔵庫もある。
部屋についたらどっと疲れが出た。
電気は通っているが、当たり前だが冷蔵庫は空っぽ。疲れ果てていたからこのまま眠ろうかと思ったが、ファブリック関係のものがない。ベッドにはマットレスのみが置いてあったので、そこにバスタオルを敷いて寝転がることにした。
ローテーブルに置きっぱなしだったスマホが光っていたが、いまは見たくない。ずっと、真臣からのメッセージが届いている。
真臣から結婚して欲しいと言われたとき、とても嬉しかった。私にも家族ができるのだと。家族が欲しいと思ったのがいけなかったのかな。
私と同棲を始めた時、真臣はすでに浮気していた。彼女が妊娠しなければ、きっと何も気づかないまま結婚式を挙げていた。発覚しても許していたかもしれない。
だとしたら結婚は子供のためにするのかな?
私は他人の子供のために、自分の結婚を諦めた……?
思考は堂々巡りして、暗鬱な気持ちになる。頭がうまく働かない。
リビングのソファーに座り込んでしばらくぼんやりしてから、新居の荷入れは土曜日だけど、もう家を出ようと思った。
着替えと貴重品を持って行けば一週間なんとかなると思う。幸いというか、明日明後日、真臣は出張でいないから、もし必要なものがあれば取りに帰ることもできる。
急に泊まらせてくれるような友人はいないから、安いホテルを探そうとして、八木沢さんから連絡が来ていることに気づいた。
『槙木に話したら、家族総出で戸樫さんの引越祝いをしてくれるそうです』
家族総出ってどういうこと??? わからないけど嬉しい。
唐突すぎて、こんな状況なのに、少し笑ってしまった。
契約したとき「セキュリティのためカードキーの受け渡しは、引越当日である土曜の午前八時」と聞いていた。無理だと思いつつ、お礼の返事とともに、約束の土曜日よりも早く鍵を受け取れないか聞いてみた。
しばらく待つと『鍵の受け渡しはできます』との返事だった。もう十時を過ぎていたので、管理会社の人ではなく八木沢さんが直接渡してくれるそう。遅い時間に申し訳ないけれど、早く家を出たい。寝室にいる真臣には声をかけず、黙って荷物をまとめて新宿に向かった。
◆
新宿という街は、昼と夜で全く違う表情を見せる。
昼間は通勤や通学で人口が増え、その人達が家に帰ると、夜に生きる人たちが集まり、雑多で眩しい街になる。アジア最大の歓楽街には観光客も多い。
比較的静かなエリアで生活してきたので、新宿駅周辺の夜の明るさには怯んでしまう。でも明日から、ここが通勤路になる。
私がマンションに到着するのを待っていてくれたらしく、八木沢さんはスーツ姿のまま一階エントランスまで降りてきてくれた。なお、オーナーである八木沢さんは最上階の雲上人である。
「こんな時間に、本当に申し訳ないです」
「僕もさっきまで仕事だったので、それは別にいいのですが……大丈夫ですか?」
多分、真臣のことかなと思ったので、簡単に説明をした。私のほうから別れ話をして、もう家にいたくないから出てきたが、私がいなくなったことに気づいた彼から、『どこにいるの?』『やり直したい』『もう一度チャンスが欲しい』『帰っておいで』と立て続けに連絡がきていること。出てきて正解だった。何をされるかわからない。もう怖い。
「土曜日に契約しておいてよかったです。落ち着かないと思いますが、休んでくださいね」
「ありがとうございます」
荷物を抱えたままだし、疲れているし、とりあえず鍵を受け取って部屋へ入ることにした。
八木沢さんの実家は鎌倉にあるそうで、ずっと本宅に住んでいたおじい様がここで暮らすことはなかったが、蒐集した美術品を眺めに、この部屋に来ていたそうだ。最低限の家電が揃っているのはそのためで、少々型は古いがテレビもあるし、エアコンも冷蔵庫もある。
部屋についたらどっと疲れが出た。
電気は通っているが、当たり前だが冷蔵庫は空っぽ。疲れ果てていたからこのまま眠ろうかと思ったが、ファブリック関係のものがない。ベッドにはマットレスのみが置いてあったので、そこにバスタオルを敷いて寝転がることにした。
ローテーブルに置きっぱなしだったスマホが光っていたが、いまは見たくない。ずっと、真臣からのメッセージが届いている。
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