追放された令嬢がモフモフ王子を拾ったら求愛されました

ゆきづき花

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番外編

王宮の庭_1

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 宮廷魔術師の呪いは強力で、跳ね返すことはもちろん、避けることすら出来なかった。
 唯一出来たのが、完全に獣になる寸前での転移。
 追放された「彼女」が領都に帰ったことは知っていたから、とにかく南の方角へ。

 しかし、転移した先は運悪く野良犬たちの縄張りだったらしい。さまよっていると取り囲まれて、逃げ出すので精一杯だった。そのあとはもう、自分がどこに向かっているのか分かっていなかった。
 魔法が使えたら簡単に逃げられたのだろう。だが、魔力を封じられて完全に動物になってしまった今の状態では、無詠唱の魔法も使えない。

 エドゥアルは同じ歳だが、生い立ちのせいか大人びていて、自分にとっては兄のような存在だった。
 彼が義妹・サラに対して、表向きは妹として接していても、妹以上の特別な感情を抱いていることには気づいていた。彼は妹を王太子妃にするために全てを排除してきた。
 サラを未来の王妃とし、国母にするのが自分に課せられた役割だと強く信じていたから。

 ミュレー公爵夫妻は仲睦まじいが、夫人の体が弱く子どもはひとりと決めていたらしい。
 産まれたのが女児だったので、娘は王太子の婚約者となり跡継ぎがいなくなるため、ミュレー公爵オーギュスタンは遠縁のエドゥアルを養子にした。
 引き取られた公爵邸でエドゥアルはサラに出会い、「絶対に王妃様になりたい」と言った彼女の願いを叶えるために、自らも王宮へあがり宮廷魔術師となった。

 彼のすべては妹のため。

 だからこその破談だったのに、話も聞かずに全力で呪いやがって。本当にあの魔術師、戻ったらどうしてやろう。……無事戻れたら、だが。


 朦朧とした意識をなんとかつなぎとめて、俺は「彼女」の匂いがする方へと歩いていた。
 首や足の噛み傷から血が止まらないことに気づいていた。しかし、俺は歩き続けた。「彼女」に会うために。
 息苦しい、本当に死ぬかもしれない。体が重くてついには歩けなくなり、道端に倒れていたら修道院に出入りしているらしい行商人に拾われた。しかし、すでに死んでいると思われたのかゴミの山に放り出された。

 なぜゴミ……。鼻が利く分苦しかったが、それも次第に感じなくなり、そろそろ死を覚悟した。
 死ぬ前に後悔するのはひとつだけ。「彼女」に会いたい。今度は絶対に離したくない。
 ただそれだけだった。

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