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本編
1. お見合い相手が美形でした
しおりを挟む「お見合い?」
「そう。『楓子ちゃんはまだ23歳だから早い』って私は言ったんだけど、パパが話に乗り気なのよ」
母と二人だけの夕食後、話があると言われ、改まって聞かされたのがお見合い話だった。相手は『取引先の社長の息子さん』だそう。私はかなりドン引きしていた。
「何それ……政略結婚みたいな?」
「それがね、お相手があなたに一目惚れしたんですって」
「はぁあ? どこで?!」
突拍子もない母の答えに私は狼狽えた。
父が小さいながらも会社を経営してるとはいえ、私自身はなんの取り柄もない平凡な会社員。父の会社とは全く無縁の広告会社でデザインの仕事をしている。
下っ端なので、ひたすらマウスをカチカチさせて、広告モデルの女優さんのお肌から、毛穴を無くす作業をしているだけの日々。
残業続きで、どこぞの御曹司に出会う暇なんかない。
「それが……先方があなたを見初めたのって、新宿駅なんですって」
……全く、身に覚えがございません。
「何歳? かっこいい? イケメン?」
やや投げやりに私がそう言うと、母が困った顔をした。そんなに不細工なんだろうか。
「それがねぇ! びっくりする位のイケメンなのよ!」
その質問を待ってましたとばかりに、母が写真と釣り書を出してくる。なんだ、お見合いに反対なんじゃなかったのか。「こんな義理の息子が欲しいわ」と言いながら母が開いたお見合い写真には、凛とした美形が写っていた。眉目秀麗とはこの人の為にある言葉だと思う。
綺麗に整えられた眉に、女遊びしてそうだなという不安を覚えたが、切れ長の黒い瞳と、写真の中で少し微笑む形の良い唇は、アルカイックスマイルをたたえる仏像のようだった。
やばい……かなり顔がいい。
これは、少々のことは許してしまうレベルのかっこよさでは?
実は愛人がいて、あなたは二番目ですって言われても「はい! 二番目でもいいから愛してください!」と言っちゃうレベルでは?
ただ、釣り書のプロフィールを見て私はおののいた。
「ひ、ひとまわり違うじゃない!」
木島柊平さん、35歳、独身。
一橋大学を卒業後、日本銀行へ就職。上海事務所から帰国したその日に私に会ったらしい。それが約二ヶ月前。今月、日銀を退職し、父親の経営する会社・木島マテリアルの役員に就いたそう。
いや、ほんと記憶にないんですけど。こんなイケメン忘れるはずないのに。それとも目の前でみたら思い出すんだろうか。私がちょっとお見合いに興味を持ったのを見透かしたのか、ニコニコしながら母が言った。
「堅苦しいのがいやだったら、お茶だけでもどうですかって言われてるんだけど。どう?」
「どうって言われても……」
完全にイケメンに釣られている私が、はっきり断ることも出来ず言い淀んでいると、あれよあれよという間に、来週末に二人でお茶に行くことが決まってしまった。母親は「楓子ちゃん、今週末はママとお買い物に行きましょ。どんな服装がいいかしら? ワンピース? あんまりえっちなのはだめよ!」と浮かれていた。
その時は、その御曹司とやらが変態であることに、私が気づく由もなかった。
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