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29 待ち侘びた結婚式で?

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 ──そして。
 
 慌ただしい旅の果て。

 荘厳な結婚式を挙げた、その夜。

 豪勢な結婚記念パーティーで、私たちは祝福を浴びて、幸せいっぱいに過ごしていた。
 3人のメイドが私と一緒に……厳密にはカルミネのためについて来てくれている。結婚式には参列できなかったカルミネも、このパーティーではそこそこ人気。

 あれだけの醜聞というか事件があり赤ん坊まで連れている私だけれど、アルセニオの遠縁の枢機卿が働きかけてくれた事もあり、普通の花嫁と同じようにきちんとした結婚式を挙げてもらえた。

 この結婚式ではもうひとつ、大切な縁が結ばれる。

 楽隠居でほのぼのと暮らしていたアルセニオの両親が、この結婚式でリヴィエラとの顔合わせを経て、ついに養子に迎えるのだ。

 再び貴族令嬢となったリヴィエラの未来が、輝いて、豊かなものであるように。

 祝福の鐘に、私は、願いを込めた。

 で、今。
 ドレスを変えて、アルセニオと腕を組んで挨拶というか招待客の皆様からの祝福を浴びるための巡回の最中で、私はぎょっとして足を止めた。


「どうしたんだい? 可愛い奥様」

「……アルセニオ」

「ん?」


 普段通り甘く優しいアルセニオが、私の頬に揶揄うようなキスを落とす。


「私、今、見ちゃった」

「なにを? カルミネなら向こうで……あぁ、パイを叩いてる」

「いいわよ今日くらい。それより、見たわ。マックスが隅っこのほうで天鵞絨の小箱を入念に確認して……またしてる」

「どこだ?」


 私はそれとなく向きを変え、アルセニオからマックスが見えるように立って、目で合図。


「今日を選ぶとは、不器用なりに考えたな」

「なにを言ってもロマンチックにならないから、私たちにあやかろうっていうわけ? 可愛いじゃない」

「我が妹リヴィエラはどこかな?」

「近くにいましょう。聞き逃したくないわ」


 マックスを刺激しないように、知らぬ存ぜぬを貫いて、私とアルセニオはリヴィエラのほうへとじりじり向かった。

 リヴィエラは、アルセニオの両親、私の義両親、彼女にとっては新しい養父母と、とても和やかに歓談していた。彼女は寛いでいて、楽しそうで、張り詰めた空気一つなく、可憐で美しかった。


「やだ……っ」

「うん?」

「リヴィエラ、私の義妹になるのね……!」


 感動で、泣けたわ。


「まあ、どうしたの? ソニア」


 傍まで行くと、ソニアが私に歩み寄ってそっと腕を添える。


「あなたがいて幸せで、あなたの幸せを祈ったりしていたら、幸せで泣けてきた……」

「もう。あなたの結婚式なのよ。私の事なんて忘れて、自分の事を考えて。私、何度でも言うわ。ソニア、本当におめでとう。どうか幸せに──」


 リヴィエラの視線が、私からふいに逸れた。

 来たわ。
 来た来た来た!

 マックス!!
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